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■  ポンと村おこし  第137話「風邪ひいちゃった」            ■
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「わいわーい!」
 今日はレッドと一緒に川遊び。
 お供にはポン吉と千代ちゃん、みどり。
「子供は元気ですね〜」
 わたしはちょっと離れた所で見守りなの、釣りをしながら。
「で、ポン吉は一緒に遊ばなくていいの?」
 わたしの隣で釣り糸を垂らしているのはポン吉。
 麦わら帽子の下のポン吉の目はちょっと眠たそう。
「うーん、今夜のおかずを釣らないとなぁ〜」
「そうなんですか」
「それに、今日はなんだかそんな気分じゃないし〜」
「そうなんですか」
 って、わたし、ポン吉の顔を覗き込むの。
 眠たそうに、レッド達が遊んでいる方を見ています。
 ウキを見ないでいいのかな?
 一緒に遊びたい目でもないんですが……
「どうしたんです、眠たそうですよ」
 うーん、今日、学校に配達に行って、給食を一緒しました。
 別にポン吉を見てたつもりはないんですが、いつもと一緒だったと思うんです。
 でも、ポン吉元気なかったら気付くと思うんですよね。
 静かになるから。
 ポン吉は給食だと「早食い」「おかわり」で、おかわりグループでひと悶着って感じで
しょうか?
 今日の給食……ポン吉いつも通りひと悶着してたような気がします。元気でした。
「本当にどうしたんです? 元気ないですよ?」
「うーん、今日、給食食べすぎたかな〜?」
「それで眠たいんです?」
「かな〜」
 ポン吉の目、ポヤポヤしてるときのコンちゃんみたいです。
 でも……
 次の瞬間目を見開くと、サッと竿を上げるの。
 おお、いい型のヤマメをゲット。
 さすが、釣りキチですね。
 わたしもがんばらないと、今夜のおかずなんだから。
 でもでも、わたしのウキはさっぱり動きませんね。
 イライラしてきたので……上げてみたら餌なくなってます。
 むむ、今日のお魚は手ごわいみたい。
 新しい餌をつけて再投入。
 でもでもウキはピクリともしません。
 今日の釣りは持久戦かな。
 なんだか退屈になってきました。
 ポン吉とお話……って思ったけど……
 そのポン吉、もううつらうつら。
 鼻ちょうちんをプワプワさせているの。
 わたしも頬杖ついて、レッド達を見ます。
 レッドとみどりと千代ちゃん……
 3人そろってしゃがみこんでなにか見てるみたい。
 わたしもあっちに行って遊ぼうかな〜
「キタっ!」
 うわ、びっくり!
 ポン吉いきなり目を覚まして釣り竿を上げるの。
 またしてもヤマメをゲット。
 寝ていても、釣り竿の感触はちゃんと感じてるんですね。
 わたしも竿をあげてみるけど……餌がな〜い!
「ふう!」
 わたし、また振り込むけど……お隣のポン吉は釣り糸を垂らしながらもう寝ています。
 むう、わたし、なんだかすごく退屈なの。

「いやー、大漁だぜー!」
 ポン吉は寝ながらにしてノルマ達成。
 わたしは結局「ぼうず」です。
「すごいすごーい!」
 千代ちゃん、釣れたヤマメを見て声をあげてます。
 みどりも目を大きくして、
「アンタ、すごいわね!」
「ふふ、お任せだぜー」
 って、千代ちゃんとみどりがわたしを見ます。
「どーせわたしはゼロですよーだ」
 って、二人は笑ってるの。
 そうそう、レッドはどーしたかというと……
 今はわたしの背中でスヤスヤ寝ているんです。
「ねぇねぇ、みどり」
「なによ!」
「さっきみんなでなにか見てましたよね?」
「?」
「ほら、あの辺でしゃがんで……」
 みどりの表情がパッと明るくなるの。
 そして千代ちゃんの服を引っ張ってなにかお話しています。
 千代ちゃん、ペットボトルを出して見せながら、
「ほらほら、ポンちゃん」
「なんです? 千代ちゃん?」
 ペットボトルの上の方は切ってあって……
 中には水と……エビがたくさん!
「うわ、千代ちゃん、これ、どーやって!」
「さっきの水たまりにたくさんいたの!」
「でもでも、エビって捕まえるの大変じゃないです?」
 そーです、エビって結構早く動くから、こんなにたくさん捕まえるのは大変な筈です。
 ポン吉も一緒になって覗きこみながら、
「おお、すげーな、どーやって仕掛けもなしに!」
 釣りキチ&遊びの天才のポン吉もびっくりみたい。
 みどりが胸を張って、
「千代が獲ってくれたんだから!」
 千代ちゃんが獲ってるのになんでみどりが胸を張るかな。
 でもでも、千代ちゃんが獲ったんだ。
 ポン吉が感心した顔で、
「どうやって?」
 わたしも知りた〜い。
 千代ちゃん、さっきまでエビ獲りでしゃがんでいた所からなにか取って来ましたよ。
「これこれ」
「?」
 うーん、笹というか、そんなの。
 はっぱとはっぱの間をよく見ると、エビがいますよ。
「沈めると入り込むの」
「へぇ〜」
 わたしは感心。
「むむ、千代、やるな〜」
 ポン吉は知ってたみたいですね。
 今日の収穫はヤマメと川エビです。
 川エビは予想外の獲物でした。
 今日の夕飯、楽しみですよ。

 そうそう、レッドはわたしの背中でスヤスヤ寝息。
 遊んでて疲れちゃったんでしょうね。
 話しの最中から「ウトウト」だったの。
 まぁ、レッドは軽いから、おんぶして帰ってもへっちゃらなんだけど……
「コンコン」
 む……背中のレッドが「コンコン」。
 わたしが背中をゆすったら、
「コンコン」
 またですよ、キツネが「コンコン」って鳴くのは童謡か物語の世界だけなんだから。
「コンコン」
 わたしの足が止まります。
 ポン吉もみどりも、千代ちゃんも一緒になって背中のレッドに注目。
「コンコン」
 レッドはまだ寝ているみたいなんだけど、「コンコン」咳止まりませんね。
 千代ちゃんがへの字口で、
「レッドちゃん、風邪じゃない?」
「うわ、千代ちゃん、言ってはならない事を!」
「だって『コンコン』って咳してるし」
「わたしもそう思うんですよね〜」
 って、千代ちゃんとわたしが話していると、ポン吉とみどりはジリジリと離れていくの。
「ポン吉、どうしたんですか?」
「風邪!」
「ポン吉は風邪ひきません」
「いや、もらう、きっと」
「バカはひかないんですよ」
「なんだとー!」
 ってみどりがポン吉の後ろに隠れながら、
「風邪をひいたら注射で痛い」
「あー!」
 みどり、知ってるみたい。
 むう、動物園で注射とかされたんでしょうね。
 わたしは野良だったから注射されたことはないけど、知ってますよ。
 あの針のついたので「ブスリ」とやっちゃうんです。
「コンコン」
 レッドの咳は収まりませんね。
 おでこを触ってみても……そんなに熱くはないんです。
 でもでも、これから熱が出るかもしれません。
 早く帰ってミコちゃんの術で治してもらいましょう。

 お店に帰り着いて……
 すぐにミコちゃんとコンちゃんが来ました。
「え……レッドちゃんが!」
 ミコちゃん、わたしの背中からレッドを抱きあげると真っ青。
「だから早く帰って来たんですよ、ほら、ミコちゃん、早く治して!」
「そ、そんな、電池が切れたみたいに!」
「別に……ほら、ミコちゃんの術でちゃちゃっと治して!」
「前に言わなかったっけ?」
「え?」
 ミコちゃん、抱いたレッドの背中をポンポンしながら、
「私の治癒術は使えないの」
「えー、ウソー」
「ポンちゃん……」
「わたし、知ってるもん、コンちゃんを折檻しては治癒して折檻&治癒のループ」
「それはコンちゃんだからよ」
「え? そうなの?」
「ポンちゃんやシロちゃんも大丈夫と思うけど」
「治癒と折檻のループは嫌です……どうしてレッドはダメなんです?」
「私の術は強すぎるの」
「?」
「コンちゃんやポンちゃんなら、術を使っても身体が強いし大人だから大丈夫」
「レッドは?」
「レッドちゃんは小さいでしょ、風邪薬も子供はダメってのがあるの」
「そうなんだ」
 ミコちゃん、顔真っ青。
 ポツリと、
「どうしよう……」
「わたしに聞かれたって」
 ミコちゃん、一緒してたポン吉を見ます。
 ポン吉は眉を「ハ」の字にして、
「ニンジャの秘薬も子供はダメかな〜」
 役立たずですね、まったく。
 ミコちゃん、今度はみどりを見ます。
「ワワワワタシは注射されただけで、動物園が勝手に!」
 でしょうね、みどりもさっきからあわててるから聞くまでもないか。
 って、千代ちゃんがレッドの背中に手をあてながら、
「保健の先生は?」
 ナイス千代ちゃん!
 さっきからレッドを見つめているだけだったコンちゃんが指を鳴らすの、
「ほれ、保健医を召喚なのじゃ」
 出ました召喚、便利この上なしです。
 お店にお客がいないから使えるんですね。
 客席がキラキラ輝いて、保健の先生召喚です。
 カップ麺を食べてる最中だったみたい。
「わわ、何? どーなってんの?」 
「保健の先生っ! レッドちゃんを助けてっ!」
「ミコちゃんどうしたの? あわてて?」
「レッドちゃんが風邪をっ!」
「ああ? レッドが風邪? まぁ、子供だからそんな事もあるでしょ?」
 保健の先生、ミコちゃんの手からレッドを受け取ります。
「コンコン」
「あらら、咳してるわね、本当に風邪?」
「コンコン」
「キツネがコンコン山のなか〜」
 歌ってる場合じゃないでしょ、まったくモウ。
 保健の先生、レッドのおでこを触って、じっと目を見て、それから口の中を覗き込んで
小さく頷きます。
「風邪ね」
「そんなのさっきから言ってるでしょー!」
 わたし、突っ込まずにおれません。
 保健の先生ヘラヘラ笑いながら、
「だった、だから呼ばれたんだ、召喚されたんだけど」
「保健の先生だから風邪くらい簡単ですよね?」
「そうね、風邪薬で……」
 って、保健の先生、レッドのしっぽを触りながら、
「あ、レッド、キツネだった、どうしよ」
「そうですよ、レッドはキツネなんです」
 保健の先生、レッドの背中をポンポンしながら考える顔。
 ミコちゃんはハラハラ。
 コンちゃんも難しい顔してます。
 って、保健の先生、一度みんなを見回して、
「そうね、ミコちゃん、私とレッドとポンちゃんと……あと子供全部保健室に転送してく
れる?」
「!」
「保健室に薬でもなんでもあるから」
「はい……じゃあ、えいっ!」
 ミコちゃんが指を鳴らすと、わたし達は保健室に飛ばされちゃうんです。

 で、保健室なの。
 わたし、レッド、みどり、千代ちゃん、ポン吉、そしてコンちゃん。
「ねぇねぇ、なんでコンちゃんがいるの?」
「ふむ、わらわも思ったのじゃ、どうしてかの?」
 コンちゃん、ちょっと考えてから、
「一応保護者という事かの?」
 保健の先生もコンちゃんをじっと見ていましたが……頭上に裸電球が灯って笑顔になり
ます。
「コンちゃんもちょうどいいかも〜」
「保健の先生、コンちゃん、どこがいいんです?」
「別に子供でなくてもよかったかもってね」
 って、保健の先生、薬棚からアレコレ出してなにか準備を始めました。
 カチャカチャ音がしたけど……注射器を手に振り向く保健の先生。
 その顔は悪魔。
 どことなく銃を手にしたシロちゃんにも似てます。
「さーて、お注射のお時間です」
 まず、捕まったのがポン吉。
「わーん、なんでオレがー!」
「ほーら、お兄さんが強いとこ見せないとダメでしょー」
「オレ、元気なのにー!」
 って、保健の先生いきなり「ブスリ」。
 ポン吉の目に涙です。
 かっこう悪〜い。
「さーて、次は千代ちゃんねー」
「え……私も?」
「お姉さんが強いとこ見せないとダメでしょー」
 って、保健の先生、躊躇なく「ブスリ」。
 ああ、千代ちゃんの注射の痕、赤くなってます。
 千代ちゃんそんな腕をもみながら「?」って感じ。
「ふふふ、みどりも注射よ」
「ううう……」
 みどり、涙目で注射を受けています。
 おお、お姉さんらしい!
 我慢してるけど、目尻に涙たまってるの。
「では、レッドもお注射よー」
「ちゅうしゃきらーい」
「あら、レッド、注射知ってるの?」
「ペットゆえ〜」
「えいっ!」
 って、レッドがしゃべってる間に「ブスリ」。
「ほら、男の子は我慢がまん、ポン吉を見習う」
「うう、ぽんきちをみならいまーす」
 ってか、ポン吉涙目でしたよ、見習うところかな?
 レッド、プルプルして……注射終わるまで我慢できました。
 わたし、すごいびっくり。
「レッド強い、頑張りましたね!」
「ポンねぇ、ぼくはえらいですか?」
「偉いえらーい! すごいすごーい!」
「わーい」
 保健の先生、今度は飲み薬を出すとレッドやポン太達にも渡して、
「ほら、薬もね、これで今日は大人しくしてれば治るわ」
 レッド・みどり・ポン吉は黙って薬、のんでます。
 千代ちゃんは薬をじっと見ていたけど、首をかしげて今、のみました。
 保健の先生、わたしを見て手で「こっちこっち」
「ポンちゃんポンちゃん、ちょっとちょっと!」
「なんですか?」
「つ・か・ま・え・た!」
 保健の先生、悪魔の表情。
 わたしの腕に「ブスリ」とお注射。
「ギャーっ!」
「おらおらー」
「わたし、風邪じゃないのにー!」
「痛いか? 痛いのか? ふふふ!」
 わ、わたし、風邪でもないのに注射されました。
 注射が終わって……わたしの腕には血の痕がポツン。
「なんでわたしにも注射なんですかっ!」
「ほら、お姉さんだから強いところを見せないと……逆効果かしら?」
 保健の先生力無く笑ってます。
 保健室の鏡でわたしを見たら大泣きなんだもん。
 だって注射、痛いし。
「ポンは弱虫じゃのう、大泣きではないかの」
 コンちゃんニヤニヤしています。
 許せないっ!
 わたし、コンちゃんを羽交い絞めして、
illustration 樹羅
「保健の先生、この女キツネに予防接種をお願いします」
「な、なんじゃとーっ!」
 ふふ、コンちゃんもがいてます。
 逃がさないんだから。
 保健の先生、またしても悪魔の笑みでコンちゃんの腕に「ブスリ」。
「ギャーっ!」
「ふへへ、痛いか? 痛いのか? おらおら!」
 保健の先生、本当に悪魔ですね。
 底意地悪いです、超悪です。
「わーん」
 コンちゃんも大泣きなの。
 レッドとポン吉と千代ちゃん、じっと見つめています、ちょっと恥ずかしいかな、わた
しも泣いちゃったもんね。
 注射が終わって、コンちゃん射された所を見てへこんでいます。
 って、千代ちゃんがわたしの服を引っ張ってますよ。
 なにかな?
 千代ちゃん、ポン吉とレッドが出て行くのを見てから、
「ねぇ、ポンちゃん」
「なになに?」
「えいっ!」
 って、千代ちゃん注射器を手に、わたしに「ブスリ」!
「わーん! 千代ちゃんなにすんですかーっ!」
「ポンちゃん、ほらほら」
「千代ちゃん怒るよ……って、え!」
 千代ちゃんが注射器を見せてくれるんだけど……
 針、ピコピコ引っ込むんです。
「なんですか、これ!」
 保健の先生、微かに肩を上下させながら、
「おもちゃよ、おもちゃ、あんた達に薬なんてもったいない」
「えー!」
「おもちゃなのに、二人とも大泣き」
「!」
 わたしとコンちゃん、恥ずかしくて耳まで真っ赤なの。
 だ、だってあの時は本物って思ったんだもん!



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(C)2008,2020 KAS/SHK
illustration 樹羅

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