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■  ポンと村おこし  第132話「プリン!プリン!」            ■
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 ふう、観光バス、行っちゃいました。
 パン屋さんはガランとしちゃいますよ。
 わたし、トレイやトングを片づけながらコンちゃんに、
「嵐のようでしたね」
「観光バス、おそろしや」
「でも、観光バスが来ないとパン屋さんつぶれちゃいますよね」
「確かにのう〜」
 コンちゃん、うんざり顔で定位置のテーブルでぐったり。
 手伝ってくれないのは残念だけど、コンちゃんいつもの事だから、しょうがないか。
 って、奥から足音が聞こえてきます。
 柱の陰からミコちゃんがチラっと顔を出すの。
「もうお客さんはいないのかしら?」
「うん、観光バスが行っちゃったらすっからかん」
「あらあら……でも、パンはすごく出たみたいね」
「うん、今日はもう店終いかも」
「でも、まだちょっとあるから、お店は開けてないとね」
「コーヒーとクッキーくらいですけどね」
 ミコちゃんニコニコ顔で、
「じゃあ、私達もおやつにしましょうか」
「3時のお茶……ちょうどいいかも」
 って、コンちゃんつっぷしてるのに耳がキツネです。
「おやつの時間かの?」
 ああ、つっぷしたままなのに、キツネ耳がピクピクしてるの。
 おやつ、すごい楽しみみたい。
 ミコちゃん引っ込んで、すぐに戻って来ました。
「今日はプリンでーす」
「やったー!」
 プリンなんてひさしぶり!
 最近食べてないんで、わたし、好物っての忘れそう。
 ああ、コーヒーカップに入ったプリン登場。
 一瞬ミコちゃん製かと思ったけど、表面の艶を見たらわかるんです、これは「素」で作っ
たヤツなんです、スーパーで売ってる3個セットのと同じ味なんです。
 スプーンでひとすくい。
 口の中でとろける甘さ。
「う……ううっ!」
「ちょ、ちょっとポンちゃん、大丈夫!」
「うむ、ポン、泣いておるのじゃ」
「ミコちゃんもコンちゃんも……わたし、プリンひさしぶりな気がする」
「大袈裟ね」
「ミコちゃん、わたし、最近プリン全然食べてないんだよ」
 って、ミコちゃん視線が天井を泳いでいます。
 視線、わたしに戻って来ました。
「だ、だってレッドちゃんが友達連れてくるし……」
「いつもの事だから、よけいに作ってほしい〜」
「そ、そんな……」
 って、ミコちゃんの表情がちょっと険しいの。
「ポンちゃん老人ホームの配達で食べてないの?」
「あ、たまにミコちゃん、老人ホームでごちそうになってって言うよね」
「うん、おやつの時間に配達に行ったら出してもらえない?」
「ミコちゃんいつもそう言うけど……」
「?」
「わたし達、配達で行ってるんだよ」
「そうね、それが?」
「老人ホームじゃ、職員さんのお手伝いなんだよ」
「そ、そうね……」
「おじいちゃん達と一緒におやつってわけじゃないんです」
「そ、そうなんだ……レッドちゃんなんか一緒に食べてるからつい」
「レッドはお子さまだから〜」
 まぁ、気を取り直してプリン食べましょ。
 ふふ、甘々で黄色でプルプルなプリン。
 口の中でとろけるの、最高です、ああ、喉を通り過ぎるの感じます。
「これ、ポン」
「なに、コンちゃん」
「おぬし、いいかげんにせぬか」
「なにを?」
 わたし、しみじみ味わってるだけです。
「私も……やっぱり大袈裟じゃない?」
「ミコちゃんまでなにを」
「プリン食べる度に泣くの、大袈裟よ」
「だって、本当に涙が出て来ちゃうんです」
 ふたり、心配そうな顔でわたしの顔を覗き込んでるの。
 コンちゃんがハンカチでわたしの顔を拭いながら、
「ポンは幸せじゃの、プリンくらいで」
「だって好きなんだもん!」
 ミコちゃん、あきれた顔で微笑しながら、
「そこまで喜んでもらえるとね」
 でも、ミコちゃん、また難しい顔になって、
「でも……ちょっと……相談なんだけど……」
「?」
 ミコちゃんが相談なんてめずらしい。
 なんでも出来るミコちゃん、相談ってなんなんでしょうね。

「ポンちゃんはよろこんでくれるけど……」
「??」
 ミコちゃんシリアスな顔で語ります。
「レッドちゃん、たまにつまらなさそうな顔をするのよ」
「なんの話ですか?」
「おやつの話よ」
「おやつの話……ですよね」
「そうよ」
「レッドがつまらなさそうな顔をする……おやつの時に?」
 わたしが言うと、ミコちゃんコクコクうなずくの。
 わたしとコンちゃん、頭に「?」浮かべちゃいます。
「ねぇねぇ、コンちゃん、どう思う?」
「わらわもおかしいと思ったのじゃ」
「でしょ」
「レッドはいつも、おいしそうに食べておるのじゃ」
「でしょ、でしょ」
 わたしとコンちゃんは同じ意見みたい。
 ミコちゃんため息つきながら、
「ポンちゃん達は見てないのよ」
「?」
「レッドちゃん、食べる前にちらっと笑顔が消えるのよ」
「そ、そうなんだ」
 ミコちゃんよく見てるなぁ〜
 わたし、全然気づきませんでした。
 うーん、よく思い出してみます。
 むむむ……やっぱりわかりません。
「ねぇねぇ、コンちゃん、そんなの気付きました?」
「むむむ……わらわも全然気付かなかったのじゃ」
「ねぇ、ミコちゃん、それって本当?」
「うん……残り物のパンがおやつの時あるじゃない」
「ええ、ありますね、しょうがないですよ」
「三日くらい続くと、一瞬そんな顔するのよ」
「あのレッドが……」
「それに……」
「それに?」
「正直言うと、私、もうおやつのレパートリーがっ!」
 ミコちゃんはもうおやつが思い浮かばないみたいですね。
 それで思い悩んでいるんでしょう。
「ミコちゃんは新しいおやつを出せば、レッドが喜ぶって思うんですね?」
「そう、ポンちゃんわかってるじゃない」
 わたし、コンちゃんに目をやるの。
 コンちゃんもそんなわたしに気付いたのか、ちょっと考える顔。
 ミコちゃんは相変わらず眉間にしわを寄せて、
「こう、おやつのレパートリー、増やしたいのよね」
 わたしも考え込んじゃって眉間のしわ、移っちゃう。
「ミコちゃん、レパートリーもうないんですか?」
「うーん、どうかしら……」
「ほらほら、ミコちゃん、この間の老人ホームで」
「?」
「爆発する……ポン菓子って知ってます?」
「知ってるわ……でもあれは家じゃできないわ」
「知ってたんだ……わたし、知らないかと思ったのに」
 コンちゃん、渋い顔でミコちゃんを見ながら、
「ミコは見た目は若くともご長寿だからの……それもハンパないのじゃ」
「でした、ミコちゃんは卑弥呼ですもんね……それってなに時代?」
「時代劇よりずっと昔じゃ、マンモスのおった頃に近いのじゃ」
「そうなんだ」
 コンちゃん、ミコちゃんをじっと見ながら、
「ミコ……おぬしの長生きをもってしてもレパートリーが枯れるかの」
「コンちゃん……しょうがないじゃない……アイデア尽きちゃうの」
 って、わたしの頭上に裸電球点灯なの。
「ミコちゃんミコちゃん、学校に行きましょう!」
「?」
「時代はインターネットなんです、インターネット!」
「インターネットがどうしたの?」
「学校のパソコンで検索したらどうでしょ」
「ああ……はいはい」
「すごくいっぱい出てくると思うんですよ」
「そうね……うん……でも……」
「でも……どうしたんです?」
「それはやってみたのよ……私も学校に配達に行くし、村長さんにも相談したの」
「なんだ、やった事あったんだ」
「でも……ね」
「?」
「外国のお菓子とか……ここで作れないのよ」
「え? だって検索で『パッ』と作り方、出るんですよね」
「材料どうするの?」
「あー!」
 わたしがうなずいていると、コンちゃんがうなだれて、
「そうか、そうじゃったの、材料がないのじゃ」
「ど、どうしてコンちゃんがっくりしてるんですか?」
「だって、わらわ、外国のお菓子とか食べてみたかったのじゃ」
「コンちゃんの欲望なんですね」
「ポン、おぬし、外国のお菓子、食べてみたくないかの」
「むう……」
 外国のお菓子、食べてみたいかも。
 でもでもよく考えたら……
「わたし、外国のお菓子、よく知らないから、どうでもいいかな」
「ポンはしょうがないのう」
 コンちゃんため息まじりにミコちゃんを見て、
「ここに最高の料理人がおっても、材料がなくてはのう」
 まぁ、わたし、おやつに不満ないから、この話題どうでもよくなってきました。
 プリンをニコニコ顔で食べているとコンちゃんが、
『これ、ポン!』
『うわ、なに、コンちゃんテレパシーで!』
『おぬし、どうでもいいといった顔になっておるぞ』
『まぁ、どうでもいいかな』
『バカ者ーっ!』
『テレパシーでもうるさいよ、コンちゃん』
『ポン、おぬし、ミコをよく見るのじゃ!』
『?』
 言われてミコちゃん見てみます。
 むむ、すごい考えてます、悩んでるんですね。
『ポン、おぬし、何とも思わぬのか』
『むー、でも、ミコちゃんが悩んでもどうしようもないのに、料理全然のわたしが考えて
もなにも出てきませんよ』
『ポンは一番先輩と思っておったのに、心の冷たい先輩なのじゃ』
『だって、しょがないモン、わたし役立たず』
『いいのかの、わらわ、知らん…いや……困る』
『なにが困るんですか? コンちゃんも料理ぜんぜんだよね』
『ポン、おぬし、ミコが悩むとどうなるかの!』
『?』
『あの不機嫌顔で料理したらどうなると思うかの!』
『!』
『わらわ、きっとまずい料理になると思うがの』
『!!』
 言われるとそんな気が!
 あんなに悩んで料理……きっといつもの味じゃなくなるんです。
 ミコちゃんの悩みを解決って……わたしも料理全然なのに!
『これ、ポン、おぬし、タヌキの頃にもなにかなかったかの?』
『むー、千代ちゃんにゴハンもらってました……甘いものもあったかな』
『よく思い出してみるのじゃ』
 と、言われても……
 人間になった今、千代ちゃんに貰っていたの……チョコとかマシュマロとか。
『ダメです、普通にお菓子だったから!』
『どうするのじゃ、今夜のゴハンがダメになってしまうぞ!』
 ミコちゃんのシリアス顔がみんなに移っちゃいました。
 わたしとコンちゃんも、ミコちゃんを見て不安でいっぱいなの。
 そんな空気の時、駐車場に一台の車がやってきました。
 中から「のほほん」とした顔で配達人登場。
 カウベルがカラカラ鳴って、
「ちわー、綱取興業っす」
 今夜のゴハンがピンチというのに、この男はなんで「のほほん顔」なんでしょ。
 でも……
 ちらっとコンちゃんを見ると、コンちゃんもわたしと同じ気持ちみたい。
 ミコちゃんを見れば、まだウンウン固まってます、悩みすぎ。
 わたしとコンちゃん合図もなしに同時立ち。
 配達人の両脇を抱えてお店の外に出ます。
「うわっ! なんでっ!」
「配達人さん、ちょっとお話があります!」
「そうじゃ、話があるのじゃ!」
「人生相談?」
「そんなんじゃないよ」
「だって二人ともすごい真剣」
「そりゃ、夕飯がかかってますからね」
「そうなのじゃ!」
 配達人、それを聞いてお店の中のミコちゃんに目をやります。
「二人とも、何か悪さしたの?」
「違いますよ!」
「じゃあ、何?」
「ミコちゃん、おやつのレパートリーに悩んでるんですよ」
「はぁ、おやつのレパートリー?」
「もう尽きた……みたいで……」
「ふーん、そうなんだ、適当にローテしてもいいと思うんだけど」
「ミコちゃんはレッド好きーだから、レッドがちょっとでも機嫌悪いとへこむんだよ」
「レッドの機嫌が悪いなんてあるの?」
「よくわからないけど、みたいだよ」
「気のせいじゃないかな〜」
 配達人、ニコニコ顔で、
「でも、まぁ、ここでポイント稼ぎでもするかな?」
 配達人、すぐに出て行っちゃいます。
 わたし、コンちゃん、一緒になってうなずいて、配達人の後を追います。
 配達人は車で何か探し物……すぐに顔を上げます。
 ダンボールを抱えてやって来ました。
「なにかあるんですか?」
「そうじゃ、何かあるのかの?」
「ふふふ……これでミコちゃんの機嫌をゲット!」
 配達人、わたし達に箱をくれます。
「こ、これは!」
 わたしの手に「抹茶プリン」。
 コンちゃんには「マンゴープリン」です。
「ポンちゃんコンちゃん、これ、ミコちゃんに見せたら喜ぶよ」
「そ、そうですね!」
「そうじゃの!」
 でも、わたし、足が止まっちゃうの。
 すぐに配達人に疑いの目を向けるんです。
「なんでミコちゃんに直接渡さないんですか?」
「ふふ、俺の分もちゃんとあるもんね」
 ダンボールの中にはほかにもプリンがあるみたい。
 配達人がニコニコ顔で取り出したのは「黒ごまプリン」。
「うわ、いっぱいあるんですね」
「うん……で、ここでポンちゃん・コンちゃんに貸しを作っとくのもいいかな〜ってね」
「こ、こわい……配達人こわい」
「ふふ、貸し1だかんね、ふふふ」
 むむむ、この「抹茶プリン」を喜んでもらっていいのやら。
 でも、コンちゃんからすぐにテレパシー。
『ポン、早く行くのじゃ』
『でも、配達人、なんか悪い顔してますよ』
『いいのじゃ、「貸し1」かまわんのじゃ』
『も、もしかしたらわたし達にエッチな要求してくるかも!』
『わらわにエッチはあってもポンにはないのじゃ』
『今、わたしの拳、硬くなってまーす』
『ポンはすぐ叩くでのう……いいかの、ポン、。配達人が変な要求してきたらじゃ』
『してきたら?』
『踏み倒せばよかろう』
「……」
 わたし、コンちゃんをじっと見ます。
「ですね、考えるまでもなかったです」

 わたし達がプリンのパッケージを見せると、ミコちゃん途端に笑顔えがお。
「きゃーん、これでレッドちゃん、喜ぶわ!」
illustration 樹羅
 すぐに抹茶プリンの素を持って奥に引っ込んじゃいました。
 レッドもですが……
「わたしも抹茶プリン食べてみた〜い」
「うむ、わらわも食べてみたいかの」
 配達人、いろんなプリンの素の入ったダンボールをテーブルに置きながら、
「でも、このプリンの素って全部4個なんだよね」
「え?」
「業務用ってないから、1つの素で4つなんだよ」
「4つ……」
 わたし、すぐにレッドとみどりを思い浮かべるの。
 うーん、おまけにポン吉がすぐに……
 あと、いつもグダグダしているコンちゃんで4人?
「わたし、抹茶プリン食べれる日、ずっと先のような気がしてきた」



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NCP5(2015)
(C)2008,2020 KAS/SHK
illustration 樹羅

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