■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■  ポンと村おこし  第114話「監督さんの大けが」            ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

「ポンちゃん、ありがとうね」
 老人ホームの配達&お手伝いも終わりました。
 お昼もごちそうになったし、今から帰るところ。
 村長さんや職員さん、おじいちゃんおばあちゃんに手を振って老人ホームを後にします。
 でも……老人ホームと学校はすぐ近く。
 帰る時に注意しないと、子供達に捕まっちゃいます。
 そしたらドッチを一緒させられてめんどうくさいの。
 ちらっと校舎の陰から運動場を見ます。
 もう誰もいませんね、午後の授業に入ったんでしょ。
 捕まる事もないので、普通に……
「ちょっとポンちゃん!」
「!!」
 保健の先生の声……見ればわたしを手招きしてるの。
 うーん、保健の先生もめんどうくさいけど、逃げると後がこわいので行くとしますか。
「どうしたんです?」
「ちょっと助けて」
「?」
 窓から保健室を見てみると、現場監督さんがいます。
 腕を吊ってますね、どうしたんでしょ。
「現場監督さん、怪我したんです?」
 って、現場監督さんの隣にはレッドがいるの。
 目を真っ赤にして座ってます。
「保健の先生、どうしたんです?」
「昼休みにドッチをしてたらしいんだけど」
「いつもの事ですよね」
「監督さんが転んで、腕を痛めちゃったのよ」
 そうです、現場の人たちは学校に遊びに来たりしてくれるんです。
 子供達、大喜びなんですよ。
「レッドが関係してるんですね?」
「そう、レッドを避けようとして、監督さん転んだらしいのよ」
「はぁ……」
 わたし、レッドを手招きして、
「どーしたんですか、レッド」
「かんとくしゃん、けがした、ぼくのせい」
「はぁ……」
 現場監督さんを見れば、確かに怪我はしてるけど、苦笑いしてますね。
 ここはテレパシーですよええ。
『現場監督さん、本当にどうしたんです?』
『いや、ボールを取ったらレッドとぶつかりそうになって』
『で?』
『避けて転んで腕折れた』
『お、折れたんです〜!!』
『俺もびっくり』
『いい体してるのに、もろいもんですね』
『俺もびっくり』
 今度は保健の先生に目を向けます。
『本当に折れてるんです?』
『綺麗にポッキリいってるわね〜』
『先生はヤブじゃないんです?』
 途端に先生、懐のポワワ銃をチラつかせます。
 もう、すぐに武力をチラつかせるんだから。
『あ、でも!』
『どうしたの、ポンちゃん?』
『なんでわたしの助けがいるんです?』
『レッドよ〜』
 レッド、グスグス言って現場監督さんから離れません。
『レッド、責任感じてるんですね〜』
『なのよ〜』
『いい事じゃないんですか?』
『めんどうくさいじゃない』
 現場監督さんも無事な方の手で頭をかきながら、
『俺も現場に戻れないし』
 そーゆーのはダイレクトに言っちゃいましょう。
「ほら、レッド、もう手を放して」
「ほえ?」
「現場監督さん、仕事に戻れないでしょ〜」
「だってだって、けがしてるゆえ」
「レッドどうしようもないでしょ〜」
「おてつだいするゆえ〜」
「あー!」
 めんどうくさいですね。
 レッドに現場監督さんのお手伝いは無理でしょムリ。
「って、現場監督さんが現場に戻るのも無理じゃないです?」
「!!」
「とりあえずレッドが原因みたいだから、お店でお詫びの一つもしますから」
 わたし、現場監督さんの腕を引っ張りながら、
『いいからお店に来てください!』
『ええ〜!』
『レッドが寝たら、逃げられるでしょ!』
『おお!』
『ミコちゃんやコンちゃんが名案出してくれるかもしれないし』
『そ、そうだな、ここはポンちゃんに従うとするか』

 そんなこんなで現場監督さんと一緒にお店です。
 コンちゃんの所に座ってもらって、
「それはレッドちゃんが申し訳ありません」
 さっきからミコちゃん頭を下げまくり。
「しかしもろい体よのう」
 コンちゃんは吊ってある腕をツンツンしながらぼやいてます。
 パトロールから戻って来たシロちゃんが、
「被害届を出すでありますか?」
「それは大げさだろ」
「でも、レッドが原因で怪我でありますよね?」
「一緒に遊んでただけだし……」
 現場監督さん、シロちゃんに目で、
『子供と遊んでて骨折なんて格好つかねーだろ』
『なるほどであります……しかし……』
 シロちゃん、どこからともなく携帯を出して、
「工事現場には連絡しておくであります」
 電話をしながらお店の外に出ちゃいました。
 問題のレッドですが、現場監督さんの膝の上で舟を漕いでいます。
 シロちゃん戻って来て、
「迎えに来るそうでありますよ」
「現場監督さん、よかったですね、ちょうどいい感じでレッドも寝ちゃってますよ」
「ああ、そうだな」
 現場監督さん、レッドをコンちゃんに渡しながら、
「ああも泣かれると、なんだか悪い事した気分になっちまったぜ」
「いい体してるのに、ポキっと折れちゃうからですよ」
「俺も歳かな」
 店先に軽トラックがやって来ました。
 二人の職人さんがやって来ると、
「監督〜、大丈夫っすか?」
「折れてるって話っすけど?」
 二人の職人さん、現場監督さんの腕が吊ってあるのを見て、
「ああ、こりゃ大変だ!」
「レッドが折ったって聞いてますぜ」
 二人の職人さん、一瞬はレッドを見たけど、すぐに何故かミコちゃんを見て、
「ミコちゃん困るな〜」
「これじゃ現場に立てねーじゃねーかよ」 
 職人さん、ミコちゃんに顔を寄せると、
『監督いなくても仕事出来るから、こっちで預かってください』
『いるとガミガミうるさいんです』
 多分、その囁きはみんなに聞こえてますよ。
「じゃ、軽トラには二人しか乗れないので」
「ミコちゃん、監督治るまで頼みます」
 二人の職人さん、ダッシュで逃げ帰っちゃいました。
 現場監督さんの頭には「怒りマーク」がピクピクしてます。
 小さくなる軽トラックを見てコンちゃんが、
「行ってしまったのう」
 シロちゃん、頭をかきながら、
「監督さん、どうするでありますか?」
 現場監督さん、苦笑いしながら、
「あの二人、後でコロス」
 でも、すぐに自分の腕を見て、
「監督が腕吊ってるんじゃ士気にかかわるのも本当だしなぁ」
「じゃあ、現場監督さん、どうするんです?」
 って、わたしの言葉に現場監督さん、ミコちゃんを見ます。
「術でなんとか出来ないかなぁ」
「え、えーっと……」
「コンちゃんはどうなんだよ」
「わらわも専らは攻撃系かお色気系なのじゃ」
 お稲荷さまなのにご利益はその辺だそーです。
「山やダムぶっ壊したから期待したんだけどなぁ」
「すまぬのう」
 現場監督さん、わたしを見て、
「ポンちゃんはタヌキだから術はないよな」
「まぁ……ですね」
 でも、そんなわたしに裸電球点灯。
「温泉、温泉はどーですか?」
「は?」
「村の温泉には行った事ないんですか?」
「うーん、宿舎の風呂で済ませちゃってるからなぁ」
 ミコちゃんが考える顔で、
「温泉の神さまは治癒の術があるかもしれないわね」
 って、すぐさま温泉セットが出てきます。
 ミコちゃんの出してきた温泉セットは3つなの。
「ねぇミコちゃん、どうして3つ?」
「現場監督さんとポンちゃんとレッドちゃん」
「レッド……」
「レッドちゃんいないと、温泉の神さま出てこないでしょ」
『ねぇねぇミコちゃん』
『何、テレパシーで?』
『温泉の神さまの姿ヌキでご利益ゲットできないかな?』
『ど、どうして?』
『だって、あの神さま見たら、現場監督さんびっくりしないかな?』
 ミコちゃんの視線が考えてる風。
『でも、ポンちゃん……』
『なに?』
『あの神さま見た方が、きっと効能アップすると思うの』
『そりゃ、まぁ、見ればびっくり効能アップかも……』
 と、レッドを抱いたコンちゃんが、
「では、行くとするのじゃ」
「って、コンちゃんも行く気?」
 見ればコンちゃん、タオルを肩に掛けているの。
「おもしろそうだからの」
「現場監督さんのびっくりするのを見たいんだ」
「わかっておるのう、それ、レッド、起きるのじゃ」
 コンちゃん、抱いていたレッドをゆすります。
 最初はぽやぽやしていたレッドですが、目をこすりながら、
「ほわわ、おはようございまする〜」
「レッド、起きましたか」
「おめざめのきっす?」
 って、いきなりわたしに顔を寄せます。
 そんなレッドをブロックして、
「現場監督さんと一緒に温泉行きますよ〜」
「なぜに?」
「温泉の神さまに怪我を治してもらうんですよ」
「おお! ではではごいっしょしま〜す」
 レッド、ニコニコしてます。
 一方現場監督さん、わたしに顔を寄せて、
『温泉の神さまって何?』
『行けばわかりますよ』
 そう、行ってのお楽しみです。
 わたしも現場監督さんのおどろくの、すごく見たいし。

 温泉の脱衣所……@男湯。
 コンちゃんはレッドの脱いだ服をかごに入れたりしてます。
 わたしはお掃除の準備です。
 って、タオルを腰に巻いた現場監督さんが、
『ポンちゃん達、どこまでついて来るんだよっ!』
「なに小声になってるんです?」
「だ、だって……こっち男湯だぜ」
「美少女と一緒で嬉しいですか?」
「えー!」
 もうチョップです、チョップ。
「でも、お風呂に入るの、お手伝いしないとダメかなって思ってたんですよ」
「風呂くらい一人でも入れ……」
「それ」
 わたし、現場監督さんの吊っている腕をツンツン。
「ああ、そうだ、怪我してるんだった」
「シャツ、前が開きますもんね、でもボタン一人で外せたんだ」
「手先は器用かな〜」
 わたし達が話していると、レッドがタオルをフリフリやって来ました。
「かんとくー、はやくいこー!」
「おお、レッド」
「かみさまおまちかね」
「おお、わかった」
 現場監督さん、レッドに手をひかれて戸の方へ。
 わたしの方をチラ見して、
『ポンちゃん、温泉の神さまって何っ!』
 ひきつった顔がちょっと面白いです。
 わたしもコンちゃんも、微笑んで返すだけなの。
 でも、心の中じゃ大爆笑してたり。
 先行してたレッドがカラカラと戸を滑らせます。
「かみさまー、きたゆえー!」
「レッド、何故毎日来ぬのだ」
 温泉の神さま、早速登場です。
 現場監督さん、固まってますよ。
 わたしもコンちゃんも耐えられずに、うずくまって大笑い。
 ちらっと見たら、現場監督さんは真っ白。
 すごいびびってるみたいです。
 レッド、温泉の神さまと現場監督さんを何度も見返してから、
「かみさまー、なにかした?」
「さて……この男は現場監督ではないかの」
「ごぞんじで?」
「ここを造っておったでのう」
 温泉の神さま、舐めるように現場監督さんを見てから、
「ふむ、腕を折っておるようじゃの」
 レッド、ピョンピョン跳ねながら、
「ぼくがけがさせちゃったの」
「ふむ、レッドが原因かの」
「かみさま、なおしてあげてー」
「ふむ……」
 まだ真っ白な現場監督さん。
 そりゃ当然なんですが……レッドがそんな現場監督さんをゆすります。
illustration 朱坂理樹
「かんとく、かんとくー!」
 と、ようやく現場監督さんに色が戻りました。
 我に返った現場監督さん、レッドを抱っこ。
「な、何、レッド?」
「おめざめ?」
「あ、ああ……」
「こちらはかみさま、おんせんのかみさま」
 レッドが温泉の神さまを紹介。おじぎする神さま。
「かんとくもあいさつしましょー」
「お、おおっ!」
 レッドに言われるままに、現場監督さんも一礼して、
「ここで道路工事をさせていただいてます」
「うむ、御苦労、ここを造ったのもおぬしらじゃの」
「は、はぁ……」
「今日は湯治に来たのであろう、ゆっくりしていくとよいのじゃ」
 神さまは普通なんですが、現場監督さんはさっきから汗だく。
 レッドは神さまの体をゆすりながら、
「ねぇねぇ、かみさまー!」
「うむ、レッド、どうしたのじゃ」
「けがをなおしてー」
「……」
 神さま、現場監督さんの吊った腕に顔を寄せて、
「うむ……術をかけるゆえ、こっちに一人で来るのじゃ」
 現場監督さん、温泉の神さまに言われるままに行きます。
 浴室の隅で神さまからオーラが伸びて、吊った腕を包みます。
 ぼんやりと光る現場監督さんの怪我。
 で、オーラの光がおさまったんですが……神さまレッドの方にやって来て、
「うむ、怪我がひどいので、一週間は通ってもらうのじゃ」
「はーい」
「ではレッド、体を洗うのを手伝ってやるのじゃ」
 神さまはレッドと一緒に湯船の近くへ。
 わたし、すぐに現場監督さんをつかまえるの。
『ちょっと!』
『うわ、なに、ポンちゃん!』
『怪我治るのに一週間って本当ですかっ!』
『……』
 現場監督さん、黙っちゃいましたよ。
 わたしとコンちゃんがじっと見ていると、
『いや……実はもう治ってる、びっくり』
 現場監督さん、神さまをチラ見しながら、腕をブンブン動かします。
『でも、神さまがレッドと一緒にいたいからって……』
『あー!』
 わたしとコンちゃんはもっちゃうの。
「しかし……」
「しかし? なんです、監督さん」
「いや、神さまって本当にいるんだな〜って思った」
「そうなんだ」
「人の姿のタヌキやキツネはいるもんなぁ」
「神さまだっているんですよ〜」
 って、わたしと現場監督さんが笑ってると、どんより暗黒オーラが渦巻いてます。
 見ればコンちゃんの髪がうねってるの。
 怒ってますね。
 なんでかな?
「こーらー!」
 コンちゃん、現場監督さんを引き寄せて、
「おぬし、今、何と言いおったかの?」
「は?」
 もう、コンちゃんコワイ顔で言うから現場監督さんビビってるの。
「おぬし、今、何とぬかしおったーっ!」
「な、何て言ったっけ?」
「おぬし『神さまっているんだな〜』ってぬかしたのじゃ!」
「た、確かに……それが?」
「わらわも神なのじゃーっ!」
 コンちゃん「プンプン」。
 わたしと現場監督さんは「ポカーン」。
「でした、コンちゃんは神さまですね」
「そうじゃ、ポン、いまさら思い出したのかの!」
 現場監督さん、視線を天井に向けて、
「コンちゃんが神さま……」
「そうなのじゃー!」
「なまけ神?」
 ぷっ!
 現場監督さんナイス。
 コンちゃんまさに「なまけ神」ですね。
 いつもTV見てお茶してぼんやりしてるんだもん。
「なんじゃとー!」
 コンちゃんってなんの神さまでしたっけ?
 なまけ神で正解って思うんだけどなぁ〜


pak114 for web(pak114.txt/htm)
pak114 for web(pak114.jpg)
NCP5+(2016)
illustration 朱坂理樹
HP:EmptySide
(pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=467347)

(C)2008,2016 KAS/SHK
(C)2016 朱坂理樹