■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ポンと村おこし 第113話「釣りキチ・ポン吉」 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「ねー!」 「……」 「ねー!」 「……」 「ねーったらねー!」 わたし、さっきからお仕事の準備なの。 そんなわたしのしっぽをレッドがつかんでいます。 まさにしっぽをつかまれ状態。 普段ならチョップなところですが、パンを並べている最中で手がふさがってます。 「ポン姉ーったら!」 「レッド、わたし、仕事の準備中なんですけど」 「ほらほらー!」 レッド、抱いていたぬいぐるみをみせびらかしながら、 「いるかさん」 「はいはい、イルカさんですね、よかったですねー」 「すいぞくかん、たのしみー!」 「ミコちゃんにお話しした?」 「おお!」 レッド、奥に行っちゃいました。 とりあえず仕事に専念できます。 「ちょっとアンター!」 今度はみどり……今日はなんだかモウって感じです。 「ちょっとアンター!」 「なんですか? みどり?」 見ればみどりもイルカのぬいぐるみを抱いてます。 レッドは青でみどりはピンク色。 「ほら!」 「?」 「ほら、抱っこしていいわよ!」 「あ、ありがとう……」 わたし、みどりが抱いていたぬいぐるみを受け取ります。 枕よりちょっと小さいくらいのぬいぐるみ、抱き心地はすごいいいの。 「ねぇねぇ、みどり」 「なによー! あげないわよー!」 「いや……抱っこさせてくれてありがとう」 「ふん、どういたしまして!」 「で、みどり……」 「なによっ!」 わたし、ぬいぐるみをモニュモニュしながら、 「レッドもこれを持ってるけど、どうしたの?」 「配達人からもらったのよー!」 「そうなんだ」 「今度の遠足、水族館って言うじゃない!」 「うん、知ってるよ、わたしも行きた〜い」 って、言っちゃってますが、実はわたしが行くの、決定なんです。 遠足、全員参加なの。 チケットがタダで手に入るから……ってのもあるんですが…… 一番は子供達の見張りで人手がいるからなんだって。 それと、一番重要なのは「しっぽ」。 遠足はみんな、しっぽを付けて行くんですよ。 レッドとみどり、ポン太・ポン吉にあわせてなんです。 みんなしっぽを付けてたら変かな? でもでも、コスプレって言えばへっちゃらかな? みどり、わたしをじっと見て、 「わわわワタシがお願いしてあげようか!」 「そうですね、お願いします」 「ふん、ワタシにおまかせなんだから、モウ」 「ぬいぐるみ、ミコちゃんにも見せてあげたら?」 「そ、そうね」 わたしがぬいぐるみを返すと、みどりも奥に行っちゃいました。 これでようやく仕事に専念できます。 って、コンちゃんが姿を現しましたよ。 今までステルスの術で姿を消していたみたい。 「レッドとみどりがせわしないのう」 「コンちゃん、隠れてないで助けてください」 「今日は日曜ゆえ、相手をすればずっとなのじゃ」 「そうだ、日曜でした、あの二人学校に行かないや」 「ずっと張り付かれてはたまらん」 「ですねー」 コンちゃん、真剣な顔で、 「しかし……」 「どうしたの、コンちゃん」 「わらわも水族館に行くのじゃ」 「うん、そうだね、見張りだよね」 「ふう、面倒じゃのう」 「じゃぁ、サボればいいじゃない」 「フン!」 コンちゃん、そっぽをむいちゃいました。 でも、モジモジしながら、 「わらわ、タダで働くのは嫌なのじゃ」 「?」 「一緒に行くのはいいのじゃ」 「なにが言いたいんですか?」 「わらわ、アルバイト料を要求するのじゃ!」 「はぁ! なに言ってるんですかっ!」 「わらわはタダ働きせん」 「じゃあ、行かなければ……」 「しょうがないので、イルカのぬいぐるみで働いてやるのじゃ」 「……」 「早く配達人来んかのう、わらわ、イルカのぬいぐるみでOKなのじゃ」 イルカのぬいぐるみが欲しいだけなんですね、はいはい。 そこに「のこのこ」配達人です。 お店に入って来た途端にコンちゃんにつかまってるの。 さーて、とりあえず開店準備は完了。 お店の前の札を「営業中」にします。 お店の奥からメイド姿のシロちゃん登場。 「あれ、どうしたの? 今日はパン屋さんモード?」 「はい、ポンちゃんと交代するように言われたであります」 「え? なんの事?」 「台所でミコちゃんに言われたでありますよ?」 シロちゃん、壁に貼ってあるカレンダーを指でなぞりながら、 「今日は日曜ですが観光バスはないであります」 「うん、だね」 「ぽんた王国の予約もないであります」 「うん、で?」 「お客さんはいつもの日曜より少ないので、本官がパン屋の娘をやるであります」 「わたしと交代だよね……わたしはどうしたら……」 わたしの頭に、イケメンのラーメン屋さんが浮かび上がりました。 「も、もしかしたら、ラーメン屋さんの手伝いに行かされるとか?」 「いいえ……ポンちゃんの任務は……」 奥から足音が近づいて来ます。 レッド、わたしに飛びついて、 「ポン姉、すきすき〜」 「はいはい、なんですか」 「いっしょにさかなつりー!」 「ワタシも一緒に行ってあげるわよっ!」 「はぁ……」 どうやらわたし、レッドとみどりの「おもり」って事みたい。 ミコちゃんも奥から出てきて、 「ポンちゃん、お願いできるかしら」 「お店、大丈夫かな?」 「シロちゃんがいるから大丈夫よ、コンちゃんにも働いてもらうし」 『ミコちゃん、わたしに押しつけてない?』 『ポンちゃんって魚釣り、上手なんでしょ』 『むー!』 ポン吉と勝負して勝った事あるけど、釣りは運だよね。 『あ!』 『何、ポンちゃん!』 『条件がある』 『何かしら?』 『ポン吉を召喚して、ポン吉も魚釣り上手だから』 「それならお安い御用で」 ミコちゃん微笑しながら指を鳴らすと、ごはん食べてる最中のポン吉召喚。 「うわ、どうなってんだ!」 そりゃ、術で呼び出されたらびっくりでしょう。 「ポン吉、今日はわたしに付き合ってもらうんだから!」 「えー、ポン姉とデート、オレ、シロ姉の方がいいな」 チョップです。チョップ。 ポン吉笑いながら、 「だってポン姉は店長が好きなんだろー!」 「ポン吉、なんか嫌そうな顔してなかった?」 「だってポン姉じゃぁ……」 チョップですチョップ。 でも、ポン吉笑ってます。 そんなポン吉にレッドが飛びつくの。 「わーい、ぽんきち、すきすきー!」 「おお、レッド、おはよー」 「おはー!」 もみくちゃにされるポン吉、わたしが、 「今日はわたし達と一緒に魚釣りに行くんですよ」 途端にポン吉の眼が輝きます。 「やったー、仕事さぼれるー!」 わたし、ポン吉にコンちゃんを見たような気がしました。 ポン吉を連れて来たおかげで、わたしの仕事は「見てるだけ」。 「ちょっとアンタ、なにやってんのよー!」 川辺の笹の中に入り込んでいるポン吉にみどりの声。 すぐにポン吉出て来て、 「釣り竿にするんだぜ」 レッドもみどりも感心して声も出ないみたい。 わたしも釣り糸と釣り針くらいしかなかったから、竿はどうするのか心配してたの。 ポン吉手際よく笹の枝を払うと、釣り竿完成。 「アンタすごいわね!」 「ぽんきち、すごーい!」 ポン吉、鼻歌まじりで二人に釣り竿を渡しながら、 「ほらー頑張って昼ごはん釣るんだー!」 「おまかせよっ!」 「らじゃー!」 って、レッドがポン吉をじっと見て、 「ぽんきちのぶんがないですよ?」 「オレの分はないのだ」 「なにゆえ?」 「レッドとみどりのお手伝いだー」 「おお、てつだわれるゆえ〜」 みどりがちょっと眉をひそめて、 「アンタが釣らないで大丈夫かしら?」 「やってみてからだー」 「ふむ、アンタの言い分ももっともね」 ふーん、ポン吉、今日は釣る気ないんだ。 ここはテレパシーです。 『ねぇ、お昼ごはん、大丈夫?』 『ミコ姉がおにぎり持ってきてくれるって……釣れればみっけもん』 『あー、なるほど……でも』 『なんだよ、ポン姉』 『ポン吉、釣らないで我慢できる?』 『うーん、大丈夫な気がするー』 って、ポン吉、早速レッドのお手伝い。 餌をうまくつけられないみたいです。 「ぽんきちー、どうしたらー?」 レッド、手先がイマイチ不器用。 ポン吉が針に餌をつけてくれました。 「ほらー、ゆっくり振り込めー」 「らじゃー!」 みどりがおっかなびっくり、餌を触れもしません。 そんなみどりに肩を並べて、 「オレが付けてやるよー」 「あ、ありがとう」 「あの辺を狙って振り込めー」 「釣るのはおまかせよっ!」 みどりが竿を振ります。 って、すぐにヒット! 「きゃっ! ビクビクするっ!」 「ゆっくり竿を上げるんだよー!」 ポン吉、みどりの背後に立って一緒になって竿を持っています。 みどり、最初はびっくりしてたけど、慣れたのか竿も落ち着きました。 「ゆっくり、ゆっくり……」 みどり、一匹目をゲットです。 でも、釣りあげた魚をつかめないで、またポン吉の世話になってますよ。 「おお、なかなかの大きさ」 「あ、ありがとう」 みどり、自分の釣ったのを見て目を輝かせてます。 「もう一人で出来るな〜」 「お、おまかせよっ……でもでも」 「?」 「餌はモゾモゾしててこわい……」 「しょうがないな〜」 ポン吉、みどりの針に餌を付けて、 「餌はオレがやってやるよー」 「あ、ありがとう……」 みどり、赤くなって釣りを始めました。 今度はレッドがポン吉の服を引っ張ります。 「つれませぬ〜」 「おお、レッド、竿をあげる」 「はえ?」 レッドが釣り竿をあげてみると、釣り針がキラリ。 はて、餌はどこ行っちゃったんでしょうね。 「餌、盗られたみたいだな、ほら、付けられるか?」 「やってみる〜」 返事はいいんですが、どーもレッド、苦戦してます、ダメです。 「うごくゆえ〜」 「不器用だなー」 ポン吉、ササッと餌をつかまえて針に刺します。 「おお、すご!」 「ほら、餌付けたから、さっきのポイントにGO!」 「らじゃー!」 ここからはレッド、なかなか上手なんです。 老人ホームの釣りゴッコで鍛えられてるからかな? でもですね〜 レッドもみどりも釣りは「へたくそ」。 わたしの目から見ても「ちょっと」って思っちゃいます。 みどりは釣ってます。 でも、餌と魚をつかめません。 レッドは釣ってません。 ウキが沈んでからのアワセがなってませんね。 いつもバレちゃってるの。 正直言って、見てられません。 『ねぇねぇ、ポン吉』 『なんだよ、ポン姉』 『退屈じゃないです?』 『は? なんで?』 『だってレッドもみどりも素人でへたくそ』 『あはは、だなー!』 『でもでも、ポン吉楽しそう』 『うーん……』 ポン吉はみどりの釣った魚を外しながら、 『ポン姉はレッドやみどりと一緒で楽しくないのかよー』 『うーん、あんまり楽しくないかも』 『オレって弟も妹もいないだろ』 『お兄ちゃんはいるよね』 『そこなんだよ』 『?』 『オレって今までアニキに頼る事はあっても、弟に頼られる事なんてなかったんだよー』 『そりゃ、弟いませんよね』 『だから、レッドやみどりに頼られると嬉しい〜』 『はぁ……』 『オレ、今、お兄ちゃんなんだーってね』 『わたしはお姉ちゃんやってるわけなんですが』 『?』 『プリンとかガマンしないといけないんですよ』 『……』 『お姉さんなんて、損ばっかりです』 『そう?』 『ポン吉、今日は仕事さぼってますよね』 『だって呼び出されたからしょうがないじゃん』 『今頃、ポン太大変ですよ』 『アニキはしっかりしてるから大丈夫』 『それを「お兄ちゃんはしっかりしてるから大丈夫」って言うんですよ』 ポン吉、一瞬黙っちゃいました。 でも、一瞬です。 すぐに笑顔になって、 『でも、お兄ちゃんって頼られるの、かっこいいじゃん!』 ポン吉、レッドに餌をつけてやりながら、 「レッド、レッド」 「なになにー」 「レッド、オレの事『お兄ちゃん』って言ってみて」 「おにいちゃー」 ああ、なんだかポン吉、ほんわかした顔になってます。 今度はみどりの魚を取ってやりながら、 「みどり、オレの事『お兄ちゃん』って言ってみ」 「おおお……お兄ちゃん……なんて事言わすのよーっ!」 ああ、ポン吉、しあわせ、腑抜け顔。 むう……そう言えばわたし、「お姉ちゃん」って言われた事ないかも。 レッドの横にすり寄って、 「ねぇねぇ、レッド、わたしの事『お姉ちゃん』って言って」 「ポン姉〜」 「お・ね・え・ち・ゃ・んっ!」 「どうして?」 「どうしても」 と、ミコちゃんがお弁当持ってやってきました。 レッド、釣り竿を置いてミコちゃんにダッシュ。 ミコちゃんに抱きついて、 「ポン姉がいじめるー!」 ああ、ミコちゃんにらんでます。 レッドめー! 一緒にお風呂に入ったら覚えてろー! pak113 for web(pak113.txt/htm) pak113 for web(pak113.jpg) NCP5+(2016) illustration 朱坂理樹 HP:EmptySide (pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=467347) (C)2008,2016 KAS/SHK (C)2016 朱坂理樹