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■  ポンと村おこし  第49話「わたしの使命はなんでしょう」        ■
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 今日のパン屋さん、お客さんさっぱりです。
 わたしもテンション下がっちゃって、コンちゃんと一緒にテーブルでぼんやり。
 ふふ、実はわたしの座っているところから、パン工房が見えるんです。
 店長さんが真剣な顔でパン生地練ってますよ。
 あんな顔されたら、惚れ直しで顔が熱々なの。
「ふう、今日は客が来んのう」
「そうだね……最近忙しかったから、ちょっと拍子抜け」
「ポン、おぬしここに何をしに来たのじゃ」
「は?」
「おぬしは、ここに、何を、しに、来たのじゃ」
「……」
「毎日まいにち『ぽやーん』としてレジに立っておるだけじゃ」
「そ、そう言われるとそうだけど……」
 って、なんとなく頷きそうになっちゃいました。
「コンちゃんに言われたくないです」
「む!」
「コンちゃんなにもやってないじゃないですか、『ぽやん』としているのコンちゃんの方
です」
「なんじゃと、なんともうした!」
「ダメダメコンちゃんって言ったんです」
illustration zpolice
「この仔タヌキが、神をもおそれぬ言いようじゃ」
「本当の事を言ったまでです……コンちゃんはどーしてここにいるの?」
「む……わらわはお稲荷さまじゃぞ、商売繁盛じゃ」
「そうそう、言ってたよね、いるだけでご利益満点とかなんとか」
「その通りじゃ」
「お客さんいないよ」
「む……」
「コンちゃん、本当に神さま? お稲荷さま?」
「ポン、おぬし、わらわを疑うのかの!」
「だって本当にお客さんさっぱりなんだもん」
「むむむ……言いにくい事をズケズケと言いおる」
「じゃ、お稲荷さまがいるのに、なんでお客さんが来ないんですか〜、ねぇねぇ?」
「ぬぬぬ……今日はちょっと体調が悪いのじゃ」
「こんな時こそ、神さまの、神通力でもってお客さん呼び込むもんじゃないんでしょうか?」
「クスン……ポンなんか嫌いじゃ」
「コンちゃん……『クスン』なんて言ったらウソ泣きバレバレ」
「ちっ!」
 コンちゃん一度お茶を口にして、
「ふむ、では改めて聞こう、ポン、おぬしはここに何をしに来たのじゃ」
「わたし……わたし……そう……」
「そう……なんじゃ?」
「わたしは店長さんに命を救われたので、恩返し」
「ほう」
「って言いたいけど、今は違います」
「うむ、なんじゃ」
「今は店長さんと結婚です結婚」
「!!」
「そうしたら、ずっと一緒にいられるし、子供だってたくさん作っちゃうんです」
 ああ、コンちゃんが闇のオーラに呑まれちゃいました。
 髪の毛がヘビみたいにうねうねしてます。
「ポン、おぬしとはいよいよ、雌雄を決する時が来たようじゃ」
「ふん、雌キツネなんかに負けません」
 わたし、ダッシュでレジに行きます。
 ここにはわたしの得物「打ち出の小槌」があるの。
「ポン、覚悟じゃ!」
「ふん、打ち出の小槌の錆にしてやるんだからっ!」
 わたしとコンちゃんのバックに雷がピカピカします。
 むむ……でも、わたしの打ち出の小槌は接近戦専用。
 コンちゃんの術はいろいろあって……勝ち目なし。
「コンちゃん覚悟っ!」
 でも、きっとコンちゃん油断してます。
 わたし、ここ一発の打ち出の小槌シュート。
 コンちゃん目掛けて飛んで行けっ!
 あ、コンちゃん、びっくりした目になってます。
 ふふ、まさか打撃系の武器を投げるなんて思ってなかったでしょ。
 え……コンちゃん涼しい顔でキャッチ。
 しげしげと打ち出の小槌を見ながら、
「ポン、死ねっ!」
 ああ……振り下ろされる打ち出の小槌がスローモーションで……

「まったく、雌雄を決するどころではない弱さじゃ」
「うう……」
「ポンがこれを投げるの、何度も見ておる」
「うう……」
「ポンなぞ的にもならんぞ」
「れ、練習台くらいには?」
「ならん」
 わたし、頭にバンソウコウを「×」印みたいに貼ってます。
「しかしなんじゃの……この打ち出の小槌は何か感じるものがあるぞ」
「そう……紙で出来た土産物って聞いてるよ」
「そうかのう……微妙に神々しさがあるんじゃが」
「コンちゃんの気のせいじゃない?」
「そうかのう……」
 コンちゃん、打ち出の小槌をいろんな角度から確かめてるよ。
 わたしも結構よく見てたと思うんだけど……本当に紙で出来てるみたいで、軽くてわた
しでも振り回せるの。
「こう、ポンって感じで振るうと願いがかなうというのが打ち出の小槌じゃ」
「へぇ、わたし、トンカチって思ってた」
「ポン、おぬしバチ当りじゃ」
「わたし、タヌキで獣だから、へっちゃら」
「むむ……ともかく打ち出の小槌は願い事をかなえると言う……」
 コンちゃんが何度か打ち出の小槌を振っていると、なにか落ちました。
「なに、これ?」
「ふむ……貼ってあった紙が一枚落ちたようじゃの」
「どこ……ここ?」
 って、わたしとコンちゃんの目、点になります。
 貼ってあった紙が剥げちゃったところ、数字が浮かび上がってますよ。
「コンちゃん、この数字はなにかな?」
「うむ……こう、レジの数字みたいにデジタルな感じじゃの」
「うん、そうだね」
 コンちゃん、真剣に数字を見てから、
「この数字、きっと願い事をかなえてくれる回数じゃ」
「!!」
「わらわと店長の結婚式じゃ」
「ちょ、ちょっとコンちゃん、それわたしの打ち出の小槌」
「うるさい、わらわと店長の結婚じゃ」
 ああ、コンちゃん打ち出の小槌、振りまくりです。
 でも、変化なし。
 わたしニヤリとして、
「ふふん、それの持ち主はわたしなんだから、泥棒ネコのコンちゃんには使えないんです」
「むむ……わらわはキツネなのじゃ」
「どうだっていいです、返してくださいっ!」
 取り上げて、わたしが振ってみます。
 でも、なにも変化なしでがっかり。
「持ち主のわたしでもダメなんて……」
「むむ、ポン、それはどこで手に入れたのじゃ」
「うん……これはたまおちゃんの神社に配達に行った時にゲットしたの」
「では、神社で話を聞いてみてはどうかの」

 そんなわけで、わたしとコンちゃんで神社訪問。
「きゃー、コンお姉さま、いらっしゃい!」
「あ、たまおちゃん、用事があるのはわたしの方」
「ポンちゃん……何の用ですか?」
「これこれ、覚えてる?」
「打ち出の小槌……これが?」
「わたしが配達に来たら、たまおちゃんが怒ってわたしを亡き者にしようとしたの、覚え
てないの?」
「そんな事がありましたね……私としては今日みたいにコンお姉さまが来てくれれば問題
ないのに」
「コンちゃんなんかどうでもいいから、この打ち出の小槌の事、知らない?」
「さぁ……紙で出来たお土産物でしょ……お祭りの時に露店で売ってます、縁起物」
「さっき、こんなのが出てきたの」
 わたしが打ち出の小槌のデジタル数字を見せると、たまおちゃんびっくりして眼鏡を何
度も擦り上げて見てます。
 コンちゃんもそんなたまおちゃんに、
「ポンはここでこれを得たと言うておる、たまお、何か知らぬか」
「いや……こんな土産物にデジタル表示なんて……何でなのかと」
「ともかく、この神社のいわれでもなんでもよい、知らぬか?」
 コンちゃん言うだけ言うと、売り場のどら焼きを持ってヌシの池に行っちゃいました。
「ねぇ、たまおちゃん、わからない?」
「打ち出の小槌……大黒さまの持ち物ですね」
「わかるの!」
「大黒さまなら……一緒に行きましょう」
 たまおちゃんと一緒に拝殿裏の洞窟です。
 ここ、この間、閉じ込められそうになったから、ちょっとこわいかな。
「たまおちゃん、わたしを閉じ込めたら怒るよ」
「だから一緒に入ってます」
「なんでこんな所に〜」
 池の水源の一つでもある洞窟、足元にちょろちょろ水が流れてます。
「この洞窟には、確か石仏が並んでいるんです」
 洞窟の壁面は岩で、そこになにか彫ってあります。
「それがなんの関係があるの〜」
「たしかこの洞窟、いろいろな神さまが彫られていて、七福神もいたはずです」
 わたし、たまおちゃんの背中にしがみつき。
 たまおちゃんもビクビクしてるけど、わたしほどじゃないみたい。
「あれ?」
 わたしとたまおちゃん、同時に声。
 後ろからまばゆい光が射してくるの。
 懐中電灯で前しか明るくないはずなのに。
「こ〜ら〜、タヌキ娘〜、百合娘〜」
「きゃー!」
 おどろおどおろしい声に、わたしとたまおちゃん悲鳴MAX!
 振り向けば青白い火の球……って、コンちゃんです。
「コンちゃんびっくりしたモウ!」
「ふはは、どうしたのじゃ、二人して面白そうな所に入りおって」
「きゃー、お姉さまっ!」
「たまおはしがみつくでない……ここで何をしておるのじゃ」
 って、それまで笑っていたコンちゃんの表情が一瞬で戦闘モードになるの、わかりまし
た。
「コンちゃん、どうしたの!」
 ただならぬコンちゃんの目に、わたしもその視線の先を見ます。
 真っ暗な洞窟の中に、赤い火の球がフワフワと飛び始めました。
 一人、また一人と赤い光の中に影が浮かび上がります。
「きゃー、お姉さま、こわいっ!」
 せっかくの緊迫感、浮かれたたまおちゃんの声で台無し。
 とりあえず、こんな空気読めないダメ巫女は眠らせましょう。
 ポンっと打ち出の小槌で叩いて気絶させちゃいます。
「これ、ポン、なにをするのじゃ」
「いや、たまおちゃんがいると戦闘力が半減するから」
「ふむ、納得じゃ」
「コンちゃん、敵の事、わかる?」
「さぁ……ただ、こっちはわらわとポンの二人で……」
 とりあえず、二人以上の影が見えます。
「コンちゃん、わたし達、勝てるかな?」
 コンちゃんからの返事ありません。
 でも、わたしが見ていたら、コンちゃんの喉が生唾飲むの、わかりました。
 今回はすごいピンチなのかもしれません。


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NCP5(2010)

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