■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■  ポンと村おこし  第25話「村の温泉小屋」               ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 朝のパン屋さんは静かです。
 お客さんが多くなるのはお昼前からかなぁ。
「コンちゃん、お客さんが来ないのはなんでかなぁ」
「なんじゃ、わらわのせいとでも言うかの」
「むー、コンちゃんのせいとは言わないけど」
「なんじゃ?」
「ほら、村には温泉が出たよね」
「うむ、そうじゃ、温泉が出たのう」
「店長さんが温泉が出たら観光客が来るって言ってましたよ」
「うむ、たしかに」
「TVでも温泉特集とかやります……村の温泉は見た事ないけど」
「うむ……で、なにが言いたいのじゃ」
「たまに観光バスだって来ます……人はちゃんと来てるんです」
「そうじゃのう、観光バスが来る日はお客もたくさんじゃ」
「でもでも……朝はさっぱり」
 店長さんがパン工房から出てきて、
「ポンちゃんも村に配達に行くようになったからわかると思うけど……」
「店長さん……」
「村には旅館とか、お泊りする施設がないんだよ」
「ああ!」
「だから、お客さんが来るのは昼からになっちゃうんだ」
「そうなんだ」
 そんな静かな店内にカウベルが鳴ります。
 やってきたのは神社のたまおちゃん。
「ポンちゃん、悪さしてませんかっ!」
 入ってくるなりいきなりです。
 悪さをするなら、わたしよりもコンちゃんでしょう。
「なにをいきなり言うんですかっ!」
「いや……どうかなって思って」
「わたし、悪さなんてしてません」
「本当に?」
「なんで疑うんですか!」
「ほら、昔からタヌキは人をだますって言うから」
「悪さするならコンちゃんの方です!」
 たまおちゃん・ミコちゃん・店長さんがわたしとコンちゃんを交互に見ます。
 三人は一緒になって、
「どっちもどっち」
「わーん、わたし、ショック!」
「わらわも不満じゃ、今日はもう仕事なんかせん」
 コンちゃん引っ込んじゃいました。
 ミコちゃんが追っ掛けていきます。
「ひどい、たまおちゃん」
「い、いや……神社に相談があったから」
「え?」
「村の温泉でイタズラがあってるって……」
「え……」
「そこで村長さんから依頼があって、バケモノ退治を……」
「わたしがバケモノですか!」
「ま、まぁ……しっぽもあるし、タヌキだし」
「今度からたまおちゃんからは倍額いただきます」
「ぼ、ぼったくりだ〜」
 話を聞いていた店長さんが、
「うちの看板娘がそんな事は……」
 わたしをじっと見つめる店長さん。
 その目が疑っているの、感じました。
「たまおちゃん、イタズラってどんな事?」
 ガーン……店長さんわたしを疑ってるんでしょうか?
「村の温泉のイタズラなんです」
「それで?」
「村の温泉のお湯がいきなり熱くなったりするんです」
「ほかには?」
「いきなりおぼれたりするらしいんです」
 わたしと店長さん、お互いに見合います。
 店長さんが頷きながら、
「まぁ、ポンちゃんやコンちゃんじゃないね」
「そうなんですか」
「うん、村の温泉には行った事ないんだ……しっぽもあるしね」
「一応、隠してるんですね」
「最近はオープンなんだけど」
 店長さん、わたしをじっと見ながら、
「まず、ポンちゃんは絶対違う」
 わ、店長さんわたしを信じてくれてます。
 もう、すっかりホレ直し。
「コンちゃんやミコちゃんじゃないと術が使えないからね」
 あう、それでですか。
 たしかにわたしは術とか使えません。
「でも、コンちゃんやミコちゃんでもないと思うんだ」
「店長さん店長さん!」
「なに、ポンちゃん」
「ミコちゃんはともかく、コンちゃんはイタズラするかも」
「ポンちゃん……後でコンちゃんにイジメられるよ」
「だ、だってコンちゃんずる賢いもん」
「そ、そうかな?」
「だって馬糞のおはぎとか、祠のウソとか」
「まぁ、そんな事もあったね」
 店長さん苦笑いしながら、
「でも、どっちかというとミコちゃんの方がずる賢いような気がするけど」
「え? そうなんですか?」
「しれっとウソ泣きとかする辺りが」
「む〜 一度人柱になったくらいだから、魔性の女かもしれません」
 店長さん笑いながら、
「せっかくだから、コンちゃん達の術で原因を探ってもらおう」
 わたしを見ながら、
「ポンちゃん達の活躍で温泉出たけど、まだ入った事もないから……掃除当番ついでに温
泉にも浸かってきたらいいよ」
 そう、わたし達の活躍で村は復活、そして温泉発見です。
「温泉かぁ〜」
 わたし、もう、すごく楽しみです。
 でも、店長さんはじっとわたしを見つめて、
「ポンちゃん、お風呂大きいからって、はしゃいだらダメだよ」

 たまおちゃんとコンちゃん、わたしで温泉小屋へ。
 ミコちゃんは配達の帰りに寄る事になってます。
 一応今日は「お掃除」という事で貸切状態なんだって。
 土壁の手作りな感じの温泉小屋。
 わたし達、早速浸かる事にしました。
 まず、どーゆーものか体験しないと、イタズラの具合がわからないもんね。
「たまおちゃん、いきなりお湯が熱くなるの?」
「そういう風に聞いてます」
 脱衣所も温泉も明かりは裸電球がぶらさがっているだけで薄暗いです。
 不気味と思うか雰囲気があると思うか、微妙かな。
「ふむ、広い風呂もよいのう」
 コンちゃんが真っ先に湯船に手を突っ込んで湯加減確認。
 それからかかり湯を浴びて、温泉に浸かります。
「ふう、気持ちよいのう」
 特に問題なさそう。
 わたしとたまおちゃんもかかり湯を浴びて入る事に……
 って、さっきからたまおちゃん、わたしのしっぽガン見です。
「た、たまおちゃん、そんなに見ないで」
「い、いや……本当にタヌキなんだな〜って」
「さ、さわったら怒るよ」
「う……ガマンする……でも、後でちょっとくらいダメ?」
「絶対嫌!」
 わたしが洗面器を振り上げると、たまおちゃんサッと離れます。
 逃げられました。
「近寄らないで下さいっ!」
「ちょっとくらいモフモフさせて」
「絶対嫌!」
 わたしとたまおちゃん、離れ離れでお湯に浸かります。
「ポンちゃんポンちゃん」
 たまおちゃんが呼んでいます。
 なにかな?
 でも、警戒しながら近付きます。
 あ! お湯になにか白くて丸いものが浮かんでいます!
「なにこれ?」
「クラゲクラゲ」
「クラゲ?」
 近付いて見たら、タオルでやってるみたいです。
 初めて見ました。
 すると建物が微かにゆれ出しました。
「こら〜!」
 浴室に響く声……どっかで聞いた事ありますよ。
 じりじりとお湯が熱くなります。
 にょきにょきとお湯が持ち上がって、龍みたいになります。
「あ、山の頂上で会った!」
「!!」
「えっと……地の神さまですよね」
「うむ、狸娘、あの時以来じゃのう」
 うわ、お湯、熱いです。
 間違いなくこの神さまのせいですね。
「あ、あの、神さま、お湯が熱いです」
「熱くしておるのじゃ」
「えー!」
 見てるとコンちゃん、たまおちゃんお湯から出ちゃいました。
「な、なんで人の嫌がる事をするんですかっ!」
「温泉に浸かる時は、湯尻から浸からんかっ!」
「は? 湯尻? ごめんなさい、足から入っちゃった」
「湯尻とは、あっちじゃあっち!」
 神さまはコンちゃんの方を見ます。
「コンちゃん?」
「違う……お湯の流れ出る方と言う意味じゃ」
「ふへー!」
 神さま、今度はたまおちゃんの方を向いて、
「あの娘、まったくなっておらん」
 たまおちゃん、お湯の出る場所近くから入っちゃったから、神さま怒っているみたい。
 龍みたいな神さまの体、さらに湯気がモウモウと出ます。
「このたわけーっ!」
 神さま怒ったら、たまおちゃん小さくなっちゃいました。
「神さまどうしたの?」
「この娘は、湯船に手ぬぐいを入れよった!」
 神さまカンカンみたいで、浴室の中は湯気で強烈サウナ状態。
 このままじゃ死んじゃいます。
 ああ、神さまがたまおちゃんにジリジリ迫ってます。
 たまおちゃんはダメ巫女だから、なす術なし。
「コ、コンちゃんなんとかしてっ!」
「むう……あれは地の神ではないか……わらわの術でかなうかのう」
 コンちゃんがにらみを利かせると、手桶や椅子や石鹸が飛んでいきます。
「ウガーっ!」
 あ、まさに逆鱗に触れちゃったみたい。
「うむ、わらわの攻撃は効かぬようじゃ」
「コンちゃん他には!」
「わらわはこーゆー攻撃系ばかりじゃからのう」
「心臓マッサージは?」
 コンちゃんが神さまの方を見て手で宙を揉みます。
「ううう……」
 あ、苦しんでいるの、たまおちゃんです。
 神さまには効果ないみたい……体は水だから心臓なさそう。
 コンちゃんの術は神さまを通り抜けてたまおちゃんに当っちゃったみたい。
 わたし、ともかく時間稼ぎで言いました。
「な、なんでそんな事するんですかっ!」
 神さま、一旦停止してわたしの方に向き直ると、
「こう、我はここに温泉となって現れた……じゃが!」
「じゃが? なんですか?」
「人間どもはまったくなっておらん!」
「え?」
「湯船で泳ぐわ、手ぬぐいはつけるわ、不愉快じゃ!」
 こ、細かい事言いますね。
 さっきのお湯の入り方も、わたしはたまたま、運が良くて地雷を踏まなかっただけです
よ。
 その時、浴室の引き戸がカラカラと音をたてて、ミコちゃんが入ってきました。
「それは子供ではなかったのですか?」
 微笑みながら、静かな口調で言うミコちゃん。
「子供もなにもあるものかっ!」
 神さま声を荒げてますよ。
 でも、ミコちゃんニコニコ顔で、弓を引くポーズ。
 その手に光が集まっていきます。
 地の神さまは、
「我はここに来た不心得どもをこらしめてやるのじゃ」
 ミコちゃん微笑んでいます。
 ニコニコ、優しい笑みですよ。
 でも、その額にいきなり怒りマークが浮かびました。
 にこやかな顔で怒りマークは、ある意味恐怖です。
illustration p!k@ru
「山の神よ……私が誰か判ってないみたいですねっ!」
「え!」
「ゴットアロー! ゴットアロー! ゴットアロー!」
 ミコちゃん連射。
 光る矢は次々と神さまの体にヒット。
 崩れ落ちて、お湯が震えています。
「この間まで山の頂上であなたを封印していた卑弥呼……お忘れ?」
「ひひひ卑弥呼……いなくなったと思ったのに!」
 ミコちゃんお湯に手を突っ込んで引っ張り出します。
 龍の格好した神さまはピクピクしてますよ。
「さっきから聞いていたなんですかっ!」
「ひ、人がマナーを……」
「話を聞いていたら、泳いだのだって、きっと子供でしょう!」
「う……」
「神さまのくせに、まったく器の小さいっ!」

 ミコちゃんのお説教が続くのに、わたし達は男湯に避難。
 三人でお湯に浸かりながら、
「ミコちゃん、なんだかこわかったね」
 わたしが言うと、コンちゃんは頷きながら、
「あやつは笑いながら、いきなり攻撃してくるから嫌なのじゃ」
 たまおちゃんは震えるばっかりで、言葉もなかったです。
 でもとりあえず、ミコちゃんの活躍で温泉のイタズラはなくなったんだよ。


pmp025 for web(pmp025.htm)
NCP6+(2009)
illustration p!k@ru
(C)2008- KAS/SHK
(C)2010 p!k@ru