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■  ポンと村おこし  第22話「給食大作戦」                ■
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 老人ホームに持って行くどら焼きを準備中です。
「ねぇ、ポンちゃん」
「なに、ミコちゃん」
「私はミコで、ヒミコのミコ」
「うん、ミコちゃんそれがいいって言ったんだよ」
「そうなんだけど……コンちゃんは?」
「コンちゃんは店長さんがつけたの」
「ふうん……じゃ、ポンちゃんは?」
 最近はわたしの仕事も増えて、ミコちゃんのお菓子作りを手伝ったり。
「おはよー」
 店長さんがやってきて、作業台を見ながら、
「あ、今日は老人ホーム、どら焼きなんだ」
「そうです」
「配達お願いしようと思ってたんだけど」
「わたしが行くんですか?」
 老人ホームは行った事あるから大丈夫。
 店長さん首を横に振って、
「いや、今日は老人ホームじゃなくて」
「?」
「村の学校にもパンを卸す事になったからね」
「え……村の学校って小学校ですか?」
「うん、小学校と中学校一緒なんだけどね」
「いつから……そんな……」
「老人ホームに卸すようになってから、村長さんが学校にもって」
「て、店長さん、それってすごく儲かるんじゃないですか!」
「え? なんで?」
「だ、だって学校に卸すんでしょ、持って行くんですよね?」
「うん……そうだけど……」
「学校って言ったら、人がたくさんいて……」
「村の学校だからね、全部で十五人分だよ」
「そうなんですか……」
「今日はデザートも頼まれてるから……俺の作ったのだけど、どら焼きあるから持ってっ
て」
 店長さん言いながら、奥から大きな紙袋を持ってきます。
 結構な量ですね。
「ポンちゃん学校の配達、お願いね」
「え!」
「なにが『え!』なの?」
「い、いや、わたし、行った事ないし」
「老人ホームの隣だから」
「いや、ほら、わたし、しっぽがあるし」
「きっと大丈夫だよ」
「そ、そんな〜」
 店長さん、困っているわたしを見ながら、
「ポンちゃんが嫌がるなんて……」
「……」
「どうかしたの?」
「わ、わたしだって嫌な事、あるんです」
「配達だけだよ」
「学校ですよ、学校」
「それが?」
「イジメとか、あるんです」
「……」
「学級崩壊とか、あるんです」
「……」
「わたし、生きて帰ってこれるか、自信ない!」
「ぽ、ポンちゃん大げさ」
「わたし、野良の時、雑誌をたくさん読んで、ちゃんと知ってるんです」
「ほう……」
「みんなわたしのしっぽを見て仲間ハズレ」
「……」
「わたしをトイレなんかに監禁して、肉奴隷に!」
「どーゆー雑誌を読んでたんだか」
「店長さん、肉奴隷って食べられるんじゃないんですよ!」
「はいはい……じゃ、俺も一緒に行くならいいかな?」
「一緒なら行く!」
 ふふ、店長さんと一緒に配達です。
 でも……やっぱりタヌキだから、イジメられないか心配です。

 学校への配達はお昼前出発。
「むー、やっぱりこわい」
「なにを言っておるのじゃポン、さっさと行け」
「コンちゃん行かない?」
「おぬし、さっきまで店長と一緒で嬉しそうであったろう」
「そうなんだけど……」
 店長さん出てきて、
「じゃ、行こうか」
 わたしのしっぽ、テンションさがりっぱなしです。
「ポンちゃん元気ないよ〜」
「店長さんは、わたしの気持ち、わかってないです」
「きっとポンちゃん人気者になるよ」
「いーや、きっとしっぽでイジメられるんです」
「老人ホームの時だって、うまくいったろう」
 店長さん笑ってます。
 本当にうまくいくのかなぁ。

 木で出来た学校は静かです。
「店長さん、静かですよ、きっと学級崩壊してるんです」
「ほら、さっさと教室に持って行って」
「え……店長さんは!」
「俺は村長さんと話があるから」
 わ、わたしを置いて行っちゃいました。
 教室に行けって……学校を見上げたら、窓から子供達が顔を出しています。
 目と目が合いました。
 わたしドキドキ。
 子供達は「じーっ」と見ています。
 ともかく教室に行きましょう。
 お昼ごはん、待ってるのかもしれません。
 すると一人の女の子が出てきました。
「あの〜、パン屋さんですか?」
「あ、はい」
「みんな待ってますので……」
「はい……」
 出て来た女の子、じっとわたしを見ています。
 眼鏡の女の子……わたしがそんなにめずらしいのかな?
 い、いや……しっぽ見てます、イジメられちゃうのかな!
 でも……
 眼鏡の女の子、どこかで会った事があるような気がしますよ。
 教室でパンを配っている間も、気になりっぱなし。
 お仕事終って教室を出ても、もやもやした気持ちです。
 教室から「いただきます」の声が聞こえてきました。
 廊下には店長さんが待っててくれたよ。
「ポンちゃん終った?」
「はい、何事もなかったです」
「そりゃ、そうだろ」
 わたしが廊下を歩いていると、後ろから声がします。
「あの……」
 振り向けば、そこには眼鏡の女の子。
 わたしをじっと見上げて、ぽつりと、
「ポンちゃん?」
 声に、わたしの記憶プレイバック。
 思い出しました、野良をやってる時にごはんをくれた千代ちゃんです。
「ポンちゃん?」
「ち、千代ちゃん?」
「うん、やっぱりポンちゃんなの!」
 千代ちゃん、わたしのしっぽをつかまえてモフモフします。
「や、やめて、くすぐったい」
「このしっぽを見た時、ポンちゃんかもって思ったの」
「そ、そう……」
「引っ越す時においてけぼりにしちゃったけど……人間になってるなんて!」
「モフモフしないで〜」
 千代ちゃん、手を放してくれました。
 店長さんがびっくりした顔で、
「へぇ、ポンちゃんの飼い主なんだ」
「庭に来てたから、ごはんをあげてたんです」
「そうなんだ……」
 店長さんにこにこしてます。
「じゃあ、ポンちゃん返してあげようか?」
 む、いきなりな発言、ゆるせません。
 わたし、店長さんの腕につかまえて揺すりまくりです。
「もう、今は店長さんのものなんです」
「でも、この子、前の飼い主なんだし」
 すると千代ちゃんにこにこして、
「こんなに大きなタヌキは家では飼えません」
 よかった、これでパン屋に帰れます。
「ちょっと……千代ちゃんだっけ……いい?」
「?」
「ポンちゃんについて、あれこれ聞きたいんだけど」
 店長さんの言葉に千代ちゃんは頷いて着いて来ました。
「ち、千代ちゃん、給食、食べないでいいんですか?」
「うん……当番だから、ちょっとくらい」
「ふ、不良の始りですよ?」
「ポンちゃんの事、聞かれたから……」
「余計な事、店長さんに言わないでください」
「余計な事って?」
 わたし、考え込んじゃいます。
 千代ちゃんも視線が泳ぎまくり。
 店長さん苦笑いして、
「千代ちゃんだっけ……ポンちゃんの事、ともかくしゃべって」
「て、店長さん、なんでわたしの過去をそんなに聞きたがるんですっ!」
「いや、せっかくだから」
「お、女の過去を根掘り葉掘り!」
「女って……タヌキじゃん」
「タヌキでも女の子なのっ!」
 むー、千代ちゃんが余計な事をしゃべりませんように……
 そんなわたしの服を千代ちゃんが引っ張ります。
 小声で千代ちゃんが、
『ポンちゃんポンちゃん』
『なに、千代ちゃん!』
『なにかしゃべったらマズイ事って、あったっけ?』
「……」
 わたしと千代ちゃん、改めてシンキングタイム。
「うん、別になにもなかったような」
「だよね」
 千代ちゃん、店長さんに向かって、
「普通にごはんをあげてただけです……あの頃はタヌキの姿だったけど」
「そうなんだ……なんでポンちゃんってわかったの?」
「しっぽの感じで」
「そうなんだ……」
 店長さん目を白黒させながら、
「ね、千代ちゃん!」
「は、はい?」
「ポンちゃんの名前、付けたの千代ちゃん?」
「はい」
 そうでした、わたしの名前を付けてくれたのは千代ちゃんです。
 野良だった頃、ごはんを食べているわたしを撫でながらその名を呼ばれてたの。
「そうなんだ……ちょっと感動した」
 わたしも、なんだかちょっとウルウルしちゃってます。
 こう、ここで名付け親でもある千代ちゃんと出会えたのも、なにか運命っぽい。
「なんでポンちゃんなの?」
「それは……タヌキだからポンポコリンのポンちゃん」
「やっぱり」
 う……それを聞いたら、なんだかがっくりです。
 ポンちゃんってかわいい感じでお気に入りだったのに、それですか。
 千代ちゃん、またわたしのしっぽを触りながら、なにか感慨深気な顔。
 昔もしっぽをよく触られたものです。
 モフモフされるの、ちょっとくすぐったいんだよ。
「ポンちゃん……ポンちゃん……」
「どうしたの、千代ちゃん?」
「ポンちゃん……」
「?」
 千代ちゃん、わたしをじっと見上げています。
「どうしたの? 千代ちゃん?」
「うん……ポンちゃん……」
「千代ちゃん?」
「……」
 千代ちゃん、なんだかうつむいて、がっかりした顔。
 どうしちゃったんでしょう?
 そんな千代ちゃんが、顔を上げました。
「わたし……わたし……ポンちゃんの事……」
「なに?」
「男の子とばかり思ってた」
「!!」
「だから、女の子って知って、びっくり」
「ちちち千代ちゃん……」
 あ、今の千代ちゃん発言に、店長さん顔を背けてます。
 でも体がひくひく「笑って」ます!
「ポンちゃんって男の子って思って付けたのに……」
「ち、千代ちゃん、もういいから……」
「わたし、ポンちゃんに、タヌキの焼き物をイメージしてて」
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 わ、わたしにもわかります。
 タヌキの焼き物って、あのタヌキの焼き物です。
 わ、わたしのイメージって、あんなだったの!
 わたしの中で、なにかが切れました、プチンって。
「ちーよーちゃーんっ!」

「ひ、ひどい、わたし、女の子なのにっ!」
 もうヤケ食いです。
 夕ごはん、全部食べちゃう勢い。
 ミコちゃんはクスクス笑いながら、
「まぁ、男の子と思われてたなんて」
 コンちゃんはニヤニヤしながら、
「ポンにはお似合いじゃ」
 二人とも、言いたい放題です。
 わたしがここでは先輩って事になってるのにモウ。
 すると店長さんが、
「もうちょっと女の子らしく食べたら?」
「う……」
 乙女心ぶち壊しな発言。
 わたし、心を癒すために、食べてるのに。
「もう、店長さんも嫌いーっ!」


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