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■  ポンと村おこし  第21話「エロ本じゃないもん」            ■
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 ドアに「きょうはおわりました」の札を下げます。
 観光バスが来てくれたから、今日は完売で嬉しいな。
「毎日全部売れたらいいのになぁ」
 コンちゃんはうんざりした顔で、
「客が多いと面倒じゃ」
「コンちゃん、お稲荷さまがそれじゃダメだよ」
「えー!」
 コンちゃん面倒くさがりです。
 ミコちゃんが奥から出てきて、
「制服洗濯するわよ〜」
「はーい」
 わたしは返事をするけど、コンちゃんは指を鳴らして着替えちゃいます。
「わらわは術でいいから洗濯などいらん」
「コンちゃん便利〜」
「神じゃからのう」
「メイド服着たの、最初だけじゃない?」
「そうじゃのう、それからは術じゃ」
 わたし、着替えてメイド服をミコちゃんに渡します。
 新しい制服を受け取りますよ。
 メイド服でも、ちょっと色違い。
 ミコちゃんは服を渡しながら首を傾げて、
「ポンちゃん……」
「なに、ミコちゃん」
「ポンちゃんはずっと制服を着てる……のよね」
「ですね」
「ポンちゃんがお店に来た時から、このメイド服はあるの?」
「です……ね」
 わたしの言葉にミコちゃん視線を泳がせながら、
「私の着ている服も、今は店長さんから借りてるんです」
「そうだ、ミコちゃんも神さまだから、術があるもんね」
「術でコスチュームチェンジできるけど、これは借りてます」
 今日のミコちゃんの服はスカートですね。
 こう、特に変わったところはないですよ。
「店長さん、なんで女物の服を持ってるんでしょう?」
「!!」
 そう言えば、わたしも最初のワンピ以外は店長さんが出してくれたヤツです。
 今まで気付きませんでした。
「て、店長さんに聞かないと!」
 わたしの肩にミコちゃんの手。
「ミコちゃん、止めないでっ!」
「ポンちゃんポンちゃん、店長さんにそんな事聞いてもだめよ」
「え……」
「『浮気してるんでしょ』なんて聞いて『はい、そうです』なんて言う人はいないでしょ」
「む……そうですね」
 じゃ、どうしたらいいんでしょう?
「証拠を押さえて……からがいいんじゃないかしら」
 では、ガサ入れするとしましょう。
 店長さんの過去、よく考えたら全然知りませんよ。

 ミコちゃんは家の事でいっぱいみたい。
 コンちゃんに手伝ってもらう事にしましょう。
 店長さんの浮気捜査なら面白がってやるような気がします。
「ふむ……家捜しをするのか……」
「ですです、店長さんの浮気の証拠をあげるんです」
「店長の浮気かの……あの男がそんな事をするものかのう」
「コンちゃんは店長さんを信じているんですか?」
「まぁ……のう……というか、ポンはなにを疑っておるのじゃ」
「わたしやミコちゃんの女物の服ですよ」
「女物の服……それが?」
「店長さん男一人のはずなのに、なんでポンポン出てくるんですか!」
 わたしの言葉にコンちゃん押し入れを開けて、
「それは押し入れに入っておるのじゃ」
 収納の箱の中には女物の服がたくさん入ってます。
 もう、浮気の証拠に当っちゃいました。
「店長さん……こんなに女物の服をたくさん!」
 わたし、特に女物とわかるのを手にします。
 う……なんでしょう、このでっかいブラジャー。
 コンちゃん級ですよ。
「店長さーんっ!」
「なに、ポンちゃん」
「店長さん、これはっ!」
「?」
「これ、ブラジャー」
「ブラがどうかしたの?」
「押し入れの中に入ってました」
「うん、入れてたけど」
「浮気者ーっ!」
「え?」
「わたしという者がありながら、なんで女物の下着とか服とかたくさん持ってるんですか
っ!」
「そ、それ、母親とか妹のだと思うんだけど……」
「え……」
「今、家には俺しかいないけど、昔は親父も母親も、妹もいたんだよ」
「そ、そうだったんだ……」
「コンちゃんやミコちゃんには母親のを、ポンちゃんには妹の服とか出してたんだけどね」
「そ、それで制服もあったんですか」
「まぁ、以前は家族で店をやってたからね、うん」
「そうなんだ……」

 なんでも店長さん一家、昔は一緒にいたんだって。
 どうしてお父さんお母さん、妹さんがいなくなったかは、ちょっと聞けませんでした。
 聞こうかと思ったんだけど、
「ポンちゃん俺を浮気者よばわり? お外で寝る?」
 この言葉には弱いです。
 それに、わたしが店長さんを疑ったのも事実です。
 夜、お布団に入ってから、隣で寝ているコンちゃんに、
「ねぇねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ?」
「わたし、今日、初めて店長さんにお父さんやお母さんがいるの、知りました」
「ふむ、そうか」
「わたしの服は妹さんのなんだって」
「そうなのか」
「わたし、店長さんの事、あんまり知りませんでした」
 もう、コンちゃんからは寝息しかしません。
 もっと話を聞いてほしかったし、これからの作戦にコンちゃんには協力してほしかった
けど……これはもう、一人で作戦実行するしかないです。
 わたし、店長さんの事をもっと調べる決心しました。

「俺の両親の事?」
「そうです、わたしが結婚するにあたって、知っておきたいんです」
「結婚……」
「そうです、わたしがタヌキなのを知ったら、店長さんのご両親、びっくりするかも」
「びっくりするよ普通、多分」
「し、心臓発作起こすかも」
 わたしが言うのに店長さん苦笑い。
 それからなにか言いそうになって、でも、言葉が出てきません。
 ちょっと開いた店長さんの唇、それから全然動かなかったんだけど、ようやく言葉にな
って、
「親父達なんだけど……ここって山の中で、道が曲がりくねってるよね」
「はい……」
「事故で車が道路を飛び出して……」
「え……」
「俺以外は、みんな死んじゃったんだ……俺は車に乗ってなかったんだ」
 いきなりなドラマ展開。
 店長さんはそれから、ずっと一人で暮らしてきたんです。
 そこにわたしがやってきたのは、やっぱり運命のはず。
「店長さんっ!」
「うわっ!」
 わたし、店長さんを「ひしっ」と抱きしめます。
「わ、わたしがずっと、家族やりますから、さみしくないです」
「そ、そう……ありがとう」
「明日にでも結婚式を!」
「妹でいいかな?」
「結婚なの〜!」

 でも、わたしの探偵家業は続きます。
 店長さん、家族がみんな死んじゃったって言ってました。
 わたしもお母さん死んじゃったから、その気持ちはわかるんです。
 でも……
 ミコちゃん言ってました。
 店長さんわたしにウソをついているかもしれません。
 聞かれたからって、本当の事を言うとは限らないんですよ。
 それに店長さんの事、もっと知りたいしね。
 まずは押し入れを調査です。
 押し入れ……ダンボールからゲーム機なんかがぞろぞろ出てきます。
 この間コンちゃんが遊んでいたのも入ってます。
 他にも女物の着物なんかが沢山ありました。
 押し入れや、家の中の収納には新しい発見はないみたい。
 では、あまり行かないところをチェックしましょう。
 パン工房……ここをわたしがうろちょろすると、店長さんに見つかっちゃいます。
 裏の小屋……ここにはパン焼き釜もあるんです。
 薪を焚いてオーブンを温めたりするんです。
 普段は熱いし、危ないから近寄りません。
 ここは男の職場なんだって。
 薪がたくさん積んである……わたしの探偵嗅覚反応です。
 においます、においますよ!
 新聞紙があります。
 探っていると、出ました、雑誌です。
 一冊どころか、ぞろぞろ出てきますよ。
「!!」
 この雑誌は見覚えあり。
 表紙は漫画なんだけど、内容は「どエッチ」なんです。
 店長さん、こんなところでこんな雑誌を!
 わたしというものがありながら、不潔です!
 早速抗議に行きましょう!
「店長さんっ!」
 パン工房で仕込みをやっている店長さんを直撃です。
 いいタイミングでコンちゃん・ミコちゃんもいますよ。
「な、なに、ポンちゃん?」
「これ!」
「?」
 わたし、例の雑誌を店長さんの鼻先に出します。
「店長さん、こんな雑誌読んで、エッチです!」
 コンちゃん達も寄ってきて、その雑誌を見つめます。
「わたし、店長さん信じていたのに!」
「……」
「この雑誌、人妻が強いんです、こっちは近親相姦」
「のう、ポン」
「なに、コンちゃん」
「おぬし、詳しいのう」
「それは、わたし、野良の時、不法投棄を見てたから」
「そうか……」
「店長さんエッチです、不潔です」
「店長はこれを読んでおらんと思うぞ」
「コンちゃん、これだけ証拠があるのに、店長さんの味方するんですか!」
「いや、ほら、ここにシールで封がしてある」
「!!」
「これでは中を見る事は出来ん」
「……」
「おぬしはよく知っておるようじゃのう」
 コンちゃんシールの封を外してパラパラめくります。
 店長さんとミコちゃんも覗き込んでから、目を丸くして、
「俺、これ、運送会社の人が焚き付けにくれただけで見た事なかったんだけど、すごい本
だったんだね」
「私もびっくりです」
 そしてコンちゃんが頷きながら、
「ポンは野良の時にこれを読んでおった……と」
 みんなが一斉にわたしの方を見ます。
「俺、ポンちゃん尊敬するよ、大人だ」
「私も、ポンちゃん大人……」
 店長さんもミコちゃんも……一応は褒めてくれてるのかな?
 でも、コンちゃんは、
「ポンは清純そうな顔して、こんな本を読んでおったのか」
「ふ、不法投棄なんですっ!」
「これからはポンの事は『エロポン』と呼ぶことにしょう」
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 ああ、店長さんとミコちゃん、しゃがみこんで笑ってます。
「エロポン」
「え、エロポンはやめてーっ!」

 星空がとっても綺麗。
 わたしはあの後、暴れて、そして今日もダンボールでお休み。
「ふふ、一人寝は寂しかろう」
 コンちゃんの台詞が思い出されます。
 ダンボールの中には例の大人向け雑誌がたくさん。
 今日はこれで寒くないです。
 でも、心の中は寒いです。
 もう、「エロポン」って呼ばないでほしい……です。


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