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■  ポンと村おこし  第20話「真でれら」                 ■
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 今日は観光バスがたくさん来て、大繁盛です。
 温泉ツアーなんだって。
 もう、午前も午後も完売御礼です。
 なんでこんなに忙しいんでしょう。
 それはコンちゃんがなにもしないからです。
 お客も引けたから、抗議しましょう。
「コンちゃん!」
「ポン、さっきからお茶のおかわりがまだじゃが」
「ああ、ごめんごめん」
 わたし、ティーポットを持って改めて行きます。
 コンちゃんのティーカップに注ぎながら、
「ごめん、忙しくて」
「おぬしがさばけんから、いかんのじゃ」
「ごめ〜ん」
「まったくこのタヌキ娘はモウ」
「だって今日はお客さんが多くて……」
 む、思い出しました。
 コンちゃんが手伝ってくれなかったから、忙しかったんです。
「コンちゃんっ!」
「なんじゃ、大きな声を出しおって」
「コンちゃん忙しいのに、ポーっとしてたでしょう」
「……」
「コンちゃんが手伝ってくれたら、問題なかったんです」
「わらわのせいと言うのか?」
「そーです」
「おぬしとは一度対決しておる、わらわの勝ちじゃったが」
「それはそれです、忙しい時くらいは手伝ってください」
「ふう……そんな面倒な事できるか」
「なっ!」
「わらわは神じゃぞ、神、お稲荷さまじゃ、ここにおるだけで商売繁盛なのじゃ」
「ひ、ひらきなおりましたね〜」
「ポン、おぬしはなにが言いたいのじゃ」
「忙しい時は手伝って!」
「今日くらいでは、忙しいとは言わん」
「手伝って〜」
 わたし、コンちゃんをつかまえて怨念目線送ります。
 コンちゃん、うっとおしそう。
「ポン……」
「て〜つ〜だ〜え〜」
「……」
「て〜つ〜だ〜え〜」
「ポン……おぬしを手伝わぬのは、訳があるのじゃ」
「え?」
「これじゃ」
 コンちゃん絵本を出します。
 タイトルは「シンデレラ」。
「読んだ事があろう」
「ううん」
「このタヌキ娘は……おぬし、ここに来るまでなにを勉強してきた」
「山に捨ててあったのは雑誌ばっかりだったもん」
 わたし、シンデレラをぱらぱらめくりながら、
「絵本と漫画は絵で似てるけど……うん……これは読んだ事ない」
「まぁ、それをよく読むのじゃ」
 わたし、レジに椅子を持ってきて座るとぱらぱらめくります。
 絵本は子供向けだから、あっという間。
 あっという間なんだけど……

 ミコちゃんがやってきました。
「二人とも〜」
「なになに、ミコちゃん」
「お店の方、片付けは終ったの?」
「まだだけど……」
「今日は村祭りなんだけど……」
「え?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ〜」
「もう、店長さん行っちゃってるから、私達も早くね」
「むう……」
 コンちゃんがめんどうくさそうな顔で、
「一人がやって、二人は先に行けばよいではないか」
 コンちゃん発言……コンちゃんは自分を二人の方に入れてます。
「そうね……お掃除は一人でもできるかしら」
 ミコちゃん考えながら言いますよ。
 二人がグーを握ってじゃんけんのしぐさ。
 わたしも頷いて、
「じゃんけんぽん!」
 わたしグー、二人はパー。
「う……」
「くくく、ポン、弱いのう」
「さ、最初はグーじゃなかったのー!」
 コンちゃん手をひらひらさせながら行っちゃいました。
 ミコちゃんは落ち込んでいるわたしに、
「簡単でいいから、早く片して来てね」
「はーい」
「そんなに落ち込まないの」
「落ち込むよ〜」
「ポンんちゃん……村祭りには、伝説があるのよ」
「!!」
「村祭りには盆踊りがあって、そしてフォークダンス」
「フォークダンス! 村祭りなのに!」
「そうよ、村祭りなのにフォークダンスがあるの」
「ててて店長さんと一緒に踊れます!」
「そして、踊っている時に告白すると、結ばれる運命なの」
「わたし、速攻で掃除やっつけます」
「じゃ、私達は先に行くわね」
 コンちゃん・ミコちゃん、指を鳴らして浴衣にチェンジ。
 二人は神さまだから、こーゆー時便利です。
「ふふ、ポンが来る前に店長ゲットじゃ」
 コンちゃんめ……
「私も店長さんと結婚したら、ここにずっと住めるわね」
 ミコちゃんもおそろしい事を……
 二人は行っちゃいました。
 わたし、掃除を頑張ります。

 お掃除が終りました。
 浴衣に着替えて…浴衣!
 コンちゃん達は能力で着替えてたけど、わたしの浴衣はあるんでしょうか?
 探すとミコちゃんのメモと一緒に浴衣を発見です。
 でも……わたし、浴衣を着た事ない!
「ど、どうしよう……」
 今頃店長さんはコンちゃんの毒牙にかかっているかもしれません。
「わーん」
 ミコちゃんの「こっそり」も脅威です。
「見回りであります」
 営業時間も終ったのにカウベルが鳴ってシロちゃんの声。
「なんですか〜」
「あ、ポンちゃん、よかった」
「どうしたの?」
「見回りです……残り物のパンを下さい」
「えー! 売り物なんだよ〜」
「本官、今月は苦しくて」
 苦しくて……シロちゃんのお給料ってどうなっているんでしょう?
 まぁ、そこは突っ込まないでおきましょう。
「ダメです、うちも商売ですから」
「ツケで!」
「ツケ」とか言いながらシロちゃん銃を構えてます。
 あれはコンちゃんから貰った回転式六連発のヤツ。
「ツケで!」
「むー!」
 銃口ピクリともずれません。
 ここで殺されたら困るので、わたしの権限でOKしましょう。
 シロちゃんガツガツ食べてます。
 喉を詰まらせても困るので、お茶くらい出してあげましょう。
 シロちゃん満足すると、
「ポンちゃんにはお世話になりっぱなしです」
「そろそろ恩返しして欲しい……シロちゃん」
「はい?」
「浴衣の着付けとかできる?」
「いいえ」
「どうしよう……」
 わたしが浴衣を見ていると、シロちゃんも一緒に見ながら、
「村祭りに行きたいわけですね」
「うん」
「では、本官もポンちゃんに恩返しと」
「え?」
 シロちゃん銃を構えて容赦なく発射。
 わたし、びっくりして目をつむります。
 でも、痛くもなにもなかったよ。
 ゆっくり目を開いたら、わたし、着替え完了してます。
 む……でも、浴衣は置かれたまま。
 わたし、見てみたら「浴衣っぽい」のです。
illustration p!k@ru
「これは?」
「ポンちゃんには浴衣よりも甚平でしょう」
「甚平?」
「今の流行であります」
「そうなんだ……」
「浴衣よりも、動き易いであります」
「確かに……」
「さ、早く村祭りに行くであります」
「うん、ありがとう、シロちゃん」
「そうそう、本官の魔法は十二時で切れます」
「!!」
「十二時過ぎたらヌードなので、それまでには帰ってきてください」
「えー!」
 わたし、考え込みます。
「それって、もしかしたらすごく都合よくない?」
「?」
「店長さんの目の前でヌード」
「……」
「そのままメイクラーブ!」
「はずかしくないでありますか?」
「そ、そうだね」
 バカな事言っている場合じゃないよ。
 これから戦闘開始。
 コンちゃんとミコちゃんを押し退けて店長さんをゲットです。

 村祭りの踊りの輪。
 わたしが駆けつけた時には、ちょうど音楽が終ったところでした。
「うう……間に合わなかった」
 もう、涙があふれそうです。
 店長さんを探すけど、見つかりません。
 コンちゃんもミコちゃんもどこにもいません。
 もしかしたら、もうホテルに行っちゃったのかもしれない!
「本日のメインイベント、フォークダンスに参加する方は〜」
 スピーカーからたまおちゃんの声。
「櫓の周りに並んでください……」
 わたし、テントのところに走ります。
「外側が女性で、内側が男性になりま〜す」
 放送を終えたたまおちゃんをつかまえて、
「ねー!」
「わわ、ポンちゃん、どうしたの?」
「フォークダンスは誰でも出れるの!」
「え、ええ……外側が男で内側が女……」
「たまおちゃん、ありがとうっ!」
 わたし、ダッシュで輪に入ります。
 たまおちゃん「内側が女」って言ってました。
 あとはここで踊りながら、店長さんを待つばかり。
 なんて言っていいか、考えておきましょう。
 音楽が始まりましたよ。
 パートナーが次々と替わります。
「?」
 わたし、店長さんと結婚の事ばっかり考えてて回りが見えていませんでした。
 ふと、隣から痛い視線。
 見れば隣には女の子。
「え?」
 何人か交代して、その中にミコちゃんやコンちゃんもいました。
 さっきから女の子ばっかり通り過ぎていきます。
「??」
 そこにたまおちゃんが来ました。
「あの〜たまおちゃん」
「ポンちゃん内側は男ですよ」
「え……さっきたまおちゃん『内側が女』って言ってなかった?」
「ごめん、間違ってました」
 そう言い残してたまおちゃん、行っちゃいました。
 ちょ……わたし「男」の方で踊っていたら、一生店長さん来ませんよ。
 ってか、よく見ると前が店長さん。
 すぐそこにいるのに、一生結ばれる事のない運命。
 音楽も終っちゃいました。
 そこにある店長さんの背中。
 そしてその向こうにコンちゃんミコちゃんが迫ってます。
「店長さんっ!」
「わわ、ポンちゃん、そこにいたの?」
「好き、結婚して!」
 信じられない光景が目に入ってきます。
 コンちゃんが大きな時計を持っています。
 そして今、その時計の針を指で回しています。
 あれ、十二時にされたら……嫌な予感。
「告白したら、結婚なんだよ!」
 わたし、みんなの前で裸になるの嫌だから、ダッシュで帰ります。
 つまずいちゃいました。
 転んできなこもち状態。
 む、コンちゃんまだやめません。
 転んで草履も脱げちゃいました。
 でも、裸足で走りやすくなりましたよ。
 全力で走っていたら……お店の前でスッポンポンに!
 誰もいないところでよかった〜

「ポンちゃん、ポンちゃんっ!」
「ふえ?」
「ポンちゃんっ!」
 誰ですか、わたしの頭をぽんぽん叩くのは。
 って、見れば店長さんですよ。
 わたし、いつのまにか眠っちゃったみたい。
「もう、店が終ってるからって片付けもしないで」
「わ、わたし、ちゃんと片付けやったもん」
「寝てたじゃん」
「いや、寝てなんかいませんよ」
「……」
「村祭りがあって、盆踊りでオクラホマミキサー」
「オクラホマミキサー?」
「じゃなくて、フォークダンス」
「フォークダンス?」
「わたし、コンちゃんとミコちゃんにじゃんけんで負けて居残りで」
「……」
「シロちゃんがやってきて魔法で着せ替え」
「……」
「ダンスには間に合ったけど、たまおちゃんの陰謀で男組」
「ポンちゃん……」
「でも、ちゃんと店長さんと婚約の誓いをたてたんです」
「どこまでも寝ぼけているね……」
「わたしが忘れてきた草履があるはずです」
 コンちゃんが、いいタイミングで草履を持ってきてくれました。
 ふふ、これを履いたらわたしがヒロインなのをわかってもらえます。
 そしたら店長さんは結婚するしかないんですよ。
 コンちゃんが草履を見せながら、
「ポン、おぬし、この草履をどうするのじゃ?」
「コンちゃん、さっき絵本を貸してくれたでしょ」
「ああ、うむ……」
「シンデレラは忘れてきた履物でもって、自分自身を証明してみせたんですよ」
「ああ、うむ、そうじゃのう」
「草履を履いた人が店長さんと結婚するんです」
「物語ではガラスの靴だったようじゃが、これは草履じゃぞ」
「なんだっていいんですよ」
 わたし、草履を履こう……って思ったらコンちゃんが履いちゃいました。
「ちょ、ちょっとコンちゃんっ!」
「草履なんか、誰でも履けるであろう」
 ああ、ミコちゃんもやってきて、
「私でも入りますよ……って、みんなでなにを盛り上がっているんです?」
 あうう、ミコちゃんも履いちゃいました。
 わたし、草履を奪って履いて見せます。
「ほら、店長さん、わたしの草履です、ほら」
「ポンちゃん……」
「店長さん……」
「どこまで寝ぼけてるんだか……」
 う……なんだか店長さん怒ってます。
「頭冷やさないとね……今夜は外でお休み」
「えー!」


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