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■  ポンと村おこし  第18話「コンの家出」                ■
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 村のパン屋さんの午後。
 今日はわたし一人です。
 店長さんは村長さんに呼ばれて外出。
 ミコちゃんはスーパーにお買い物。
 コンちゃんはお散歩。
「退屈……」
 お客さんでもいればいいんだけど……
「そうだ!」
 いつもコンちゃんが座っているテーブル席。
 今はコンちゃんいないから、座ってみます。
 テレビがいい感じで見える場所ですよ。
「……」
 でも、なんだかやっぱり退屈です。
 たまおちゃんとか、シロちゃんが来たらいいのにな。
「ただいま〜」
 思ったらミコちゃんが帰って来ました。
「ミコちゃんよかった〜」
「??」
「すごく退屈で、死にそうでした」
「ふふ、そう……」
 ミコちゃんお店を見回して、
「コンちゃんは?」
「お散歩に行きました」
「そう……ポンちゃん一人に店番させてモウ」
 ミコちゃん言いながら、レジ袋を覗き込みます。
 そして手を入れると「いなり寿し」と「プリン」を一度出して、
「お願いされてた『いなり寿し』と『プリン』買ってきたわよ」
「きゃーん、プリンプリン!」
「ポンちゃん女の子ね、甘いの好き?」
「プリンはプルンとしていて好き〜」
 わたし、プリンを手についつい笑みがこぼれます。
 三つパックになったプリン。
 ひっくり返して、底の出っ張りを折ると出てくるんです。
 スプーンでつつくとフルフルするプリン。
 甘くておいしい、食後のデザートなの。
 ミコちゃん、そんなプリンをわたしから取り上げて、
「デザートだから、冷蔵庫に入れておくわね」
「はーい」
「コンちゃんが帰ってきたら、渡しておいて」
「うん……」
 ミコちゃん、わたしにいなり寿しのパックを渡して引っ込んじゃいます。
 今からきっと、夕ごはんの支度。
「むー!」
 いなり寿し……三個パックになってるヤツです。
 これ、コンちゃんの晩酌の時のおつまみなの。
 コンちゃんお酒を飲みながら、これを美味しそうに食べるんだ。
 お値段はプリンとかわらないくらい。
 でも、大きさはいなり寿しの方が小さいかな。
「むー!」
 匂いをかいでみます……おいしそうな匂いです。
 いなり寿しはミコちゃんお手製を食べた事がありますよ。
 あれとはまた、全然違う感じがします。
 ちょっと食べてみたくなりました。
 わたし、周囲を見回して……三つあるから、一つくらい食べてもいいよね。
 そんなわけで、一つ食べました。
 む……おいしいです。
 パックを閉めるけど……なんだかスカスカ。
 これでは食べたのがばれてしまいますね。
 ではでは証拠隠滅するしか。
 二つめ……むう、ミコちゃんお手製と全然違います。
 最後の一個……こうも味が違うと別物ですね。
 さて、全部食べちゃいました。
 ゴミはゴミ箱……なんかだと、コンちゃんに見つかってしまいますから、焼却炉の中に
捨ててきます。
 コンちゃんはゴミ捨てなんかしないから、焼却炉に近付く事はないんですね。
 ちょっと指に匂いが残っているから、しっかり洗ってしまいます。
 匂いは本当にほんのちょっとだけど……コンちゃんもキツネだから用心に用心。
 今日は新しい発見がありました。
 同じいなり寿しでも、味は全然違う事があるんですねぇ。

「ポンちゃんありがとう」
「どういたしまして、店長さんのためなら火の中水の中です」
 今日はお店が終ってから、ちょっとパン工房で店長さんのお手伝いをしました。
 生地を作るの、お手伝い。
 力仕事だったけど、店長さんから上手っていわれました。
 これからはわたしも店長さんと一緒のお仕事、増えるかもしれません。
 店長さんと一緒なら、どこまでだってついていきます。
「おつかれさま、ポンちゃんお風呂に入って」
「は〜い、わたし一人で? ミコちゃんは?」
「そうね、コンちゃんは先に入っちゃったみたいだし、ガスがもったいないから……」
 そんなわたし達の前に、湯上りのコンちゃんが通ります。
 湯気をたてながら、裸で、台所に向かいます。
「むー、お先にお風呂、いただいた〜」
 そんなコンちゃんが足を止めます。
「うん?」
 コンちゃん、わたしの方をじっと見ます。
「ポン……」
「わたし、今まで店長さんのお手伝い」
「いや……ポン……いいにおいがする……」
「ああ、パン生地練ってたから、そのにおいかも」
 ちょっと甘い感じのにおいですよ。
 コンちゃんそんなわたしの体を真剣な顔でにおっています。
「パン生地……」
「ですです」
「いや、そんなんじゃなくて……なんだろ……」
 コンちゃん、結局首を傾げたまま行っちゃいました。
「コンちゃんどうしたんだろ?」
 ミコちゃんに聞いてみましたが、ミコちゃんにもわからないみたい。
 お風呂が終ったら夕ごはん、そして待ちに待ったデザート・プリンの登場です。
「プリン、プリン!」
 わたし、冷蔵庫を開けて定位置を確認。
 でも、プリンありません。
 よーく奥まで見てみます。
「ねー、ミコちゃん、プリンはー?」
「冷蔵庫のいつもの所に入ってますよ」
「ないよー」
「そんなはずは……」
 ミコちゃんもやってきて覗き込みます。
「本当だ」
 すぐにミコちゃん、台所のゴミ箱をチェックして、
「ポンちゃん食べた?」
「ううん」
 ミコちゃん、ゴミ箱からプリンの容器を出して見せます。
「えー! わたし食べてない!」
「でも、三つとも容器が……」
「!!」
 わたし、ソファーに座ってテレビを見ているコンちゃんをにらみます。
 でも、わたしの思いの、恨みのこもった視線にもコンちゃん不動。
「コンちゃんっ!」
 頭に来ました!
 楽しみにしてたのに!
 絶対許さないんだから!
 思わずビール飲んでいるコンちゃんにチョップ。
 あ、コンちゃんも怒ってます。
「なにをするのじゃっ!」
「わたしのプリン食ったー!」
「なにを証拠に……」
 すぐにわたし、コンちゃんをにおいます。
 む、やはり微かにプリンの匂いがしますよ。
「やっぱりコンちゃんがプリン食ったーっ!」
「むう……冷蔵庫に美味しそうに置いてあったから……」
「あったからなにっ!」
「一つくらいよかろうと……」
「……」
「そしたら、二つ残って……わらわが食べたのがばれてしまうと思い……」
「……」
「残り二つも食べてしまったのじゃ」
「コンちゃんのバカー!」
 もう、髪を引っ張ったり、引っ掻いたりの大ケンカです。
「コラっ! 二人ともなにやってるのっ!」
 ミコちゃんが大きな声。
 その迫力にケンカ終了です。
「そこに正座」
「はーい」
「なんでコンちゃんプリンなんか食べたの」
「それは冷蔵庫に入っておったからじゃ」
「晩酌はいつもいなり寿しでしょ」
「今日、いなりを忘れたのはミコではないか!」
「え……」
「いなり寿し、昼に貰ってないし、冷蔵庫にも入っておらん」
 コンちゃんとミコちゃんのやりとり。
 わたしの背中、汗でびっしょり。
「私、ポンちゃんに渡すように言ったけど……」
 二人の視線がわたしに集中します。
 ああ、コンちゃんはもう、わたしが食べたってわかってるみたい。
 髪のうねりが大きくなるのがわかるもん。
「ポン……」
「……」
「おぬし、わらわのいなり寿しを食ったのか?」
「……」
「食ったのであろう!」
「う……おいしそうだから、食べちゃった」
「くっ!」
「ご、ごめん……なさい……」
 顔、上げられません。
 でも、ちらっとコンちゃんの方を見ます。
 コンちゃんの拳が震えているよ。
 わたし、コンちゃんがダンプを吹き飛ばしたりしたの、思い出します。
 こ、殺されるかもしれません。
「ふんっ!」
 もう一度顔を上げると、コンちゃんはもういませんでした。
 さっさと寝床に行っちゃった。
 残されたわたしにミコちゃんが、
「ポンちゃん……」
「ミコちゃん……」
「明日、コンちゃんに謝らないとだめよ〜」
「今日じゃなくていいかな……」
「今日じゃ、火に油だから、明日ね」
「うん……でも……」
「でも?」
「謝るだけで、許してくれるかなぁ」
「そ、それは……」
 ミコちゃん苦笑い。
「私もなにか、手がないか考えておくから」
 ミコちゃん……ミコさま……お願いします。
 このままコンちゃんと仲が悪いままだと、なんだか気まずいから、早く仲直りできると
いいな。

 でも、コンちゃん、寝床に行ったわけじゃなかったんです。
「ミコちゃん、コンちゃんいないよ!」
 そう、コンちゃんの布団は空っぽ。
 さっき怒って、出て行ったみたいです。
「ミコちゃん、どうしよう!」
「むー、本当に怒ってたのね」
「店長さん、どうしたらいい?」
「……」
 二人から返事はないです。
 わたしのせいで、コンちゃん家出しちゃったの?
 こんな事になるなら、いなり寿しを食べなきゃよかった。
 わたしがいなり寿しを食べなかったら、コンちゃんもプリンを食べなかったはずです。
 全部悪いの、わたしなんです。
 もう、涙がぽろぽろあふれちゃう。
 そんなわたしの背中を、ミコちゃんがトントンしてくれます。
「ポンちゃん、もういいから」
「わわわわたしのせいなんだ……」
「そんな事ないから」
「わたしがいなり寿しを食べなかったらよかったんだ」
「それはそうだけど」
「コンちゃん、今ごろ野犬に食べられてます」
「コンちゃんそんなに弱くないわよ」
「いいや、いなり寿しを食べられないで落ち込んで弱っているから、野犬に負けちゃいま
す」
「まぁ、落ち込んでいるかもしれないけど、そこまで弱くないわよ」
「わーん、わたしのせいだー!」
 本当、コンちゃんどこに行っちゃったんでしょう。

 朝です。
 結局コンちゃん帰ってきませんでした。
 祠の掃除をしていたら、豆腐屋さんのおばあちゃんが通ります。
「なんだね、まるでタヌキみたいだよ」
「おはよう、おばあちゃん」
 眠れなかったから、目の回り隈ができて黒いんです。
「あんたのところのお姉さん、家にいるんだけど」
「え!」
「お姉さん、家にいるよ」
「コンちゃん、おばあちゃんの家にいるんですか!」
「ああ、夜にいきなり来て、うちの子になるなんて言うんだよ、バカだねぇ」
「おばあちゃん、すぐにわたしを連れてって!」

 コンちゃんは豆腐屋さんの店先でニコニコしています。
 あぶらあげを山のように積んだ皿を箸でつついているよ。
「コンちゃん!」
「なんじゃ、ポンではないか」
「家に帰ろう」
「嫌じゃ」
「なんで!」
「あそこには、人のものを勝手に食べてしまうヤツがおる」
「むー!」
 コンちゃんだって、わたしのプリン食べてるのに!
「もう、謝るから、帰ろうよ」
「嫌じゃ、ここには好物のあぶらあげも沢山あるしの」
「もう、どうしたら帰ってくれるの〜」
「帰らんと言うておるのじゃ」
「もう、ごめんってばー!」
「わらわはポンなんか好かんのじゃ」
 コンちゃんツンってして、あぶらあげ食べてます。
 こっちを見てもくれないよ。
 また涙が込み上げてきました。
 そこにおばあちゃんが出てきて、コンちゃんにチョップ。
「こりゃ!」
「なにをするのじゃ」
「妹さんがあんなに言っているのに、聞き分けのない」
「あやつは人のものを勝手に食うのじゃ」
 おばあちゃん、コンちゃんをじっと見ています。
 コンちゃんはあぶらあげを食べるのに一生懸命。
 あ……おばあちゃん、コンちゃんのしっぽ、さわってます。
 でも、コンちゃん食べるのに必死で気付いてないみたい。
「こりゃ」
「なんじゃ」
「あんたが家に帰ったら、毎日あぶらあげ、配達するよ」
「きゃーん、本当! おばあちゃん!」
 おばあちゃん、今度はわたしの横に来て、わたしのしっぽをさわりながら、
「だから家に帰って、妹さんと仲良くするんじゃよ」

 夕ごはんを済ませてからお風呂。
 今日は仲直りしたばっかりのコンちゃんと一緒だったよ。
 お風呂から出てきてみると、ミコちゃんが手招きしてます。
 なにかな?
「はい、ポンちゃんにはプリン」
 ミコちゃんが手にしているのはティーカップ。
 でも、中は確かにプリンです。
 もしかしたら、ミコちゃんお手製とか!
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「やったー!」
 わたし、大喜び。
 そしてミコちゃんは一緒に湯上りがコンちゃんにも、
「はい、おばあちゃんがあぶらあげ持ってきてくれたから、いなり寿し」
 ミコちゃんお手製いなり寿し。
 コンちゃん恋する乙女の瞳ですよ。
「きゃーん!」
 わたしとコンちゃん、ミコちゃんのお手製で大満足でした。


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