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■  ポンと村おこし  第17話「犬のおまわりさん」             ■
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「店長さんの浮気者っ!」
「むー、どうしてそうなるかな」
「今からどこに行くんです!」
「だ〜か〜ら〜」
 お店の準備も終ったところで、店長さんが昨日の残りのパンを持って出かけようとして
います。
「あの白い犬の所に行くつもりですね!」
「世話しろって村長から言われたから……」
「浮気者〜」
「えさやりに行くだけじゃん、なんでポンちゃんそこまで怒るかな」
 もう、店長さんの腕をゆすっちゃえ。
「嫌なものは嫌なんです」
「なんで?」
「コンちゃんやミコちゃんのニオイはいいんです」
「?」
「犬のニオイは苦手なんです」
「なんで?」
「タヌキの頃、追っかけられた事があるから……」
 あ、店長さん笑ってます。
 真剣なのに〜
「もうポンちゃんも人間なんだから、しっかりしないと」
「犬は噛むんですよ」
「そうだ、俺は昼の仕込みがあるから、犬のえさやりポンちゃんが行ってよ」
「えー!」
「命令だから」
「そんなー!」
「俺が行ったら……浮気するかも」
「むー!」
 なんだかんだ言って店長さん奥に引っ込んじゃいました。
 わたしが行かないと……また夜はお外になっちゃいそう。

「ワンワン!」
 うう……吼えてますよ。
 鎖があるから、近付かなければ大丈夫な……はず。
「ほーら、アンパンですよー、感謝してくださーい」
 アンパン投げちゃいます。
 お、ナイスキャッチ、美味しそうに食べてますよ。
 ちょっと楽しくなっちゃいました。
 投げるとわんちゃん飛びついて食べちゃいます。
 すごいすごい。
 パンはあっという間になくなっちゃいました。
 わんちゃん、えさをもらったんだから、少しはわたしに懐いてほしい。
「!!」
 わんちゃん煙につつまれます。
 この間、タマちゃんが人間になった時と一緒です。
 って事は、今回も人間になっちゃうんでしょうか?
illustration p!k@ru
 煙が晴れると、そこには婦警さんが立ってました。
 それもミニスカポリス。
 嫌な予感……見ればやっぱり、白いしっぽがあります。
「やっぱりわんちゃん……なの?」
「そうでありますっ!」
「ななななんで人間になっちゃうの?」
「パンをもらったので恩返しで……あと……」
「あと?」
「先日猫の面倒を見てもらいました」
「タマちゃんの事?」
「あの捨て猫、本官にまとわりついて、うっとおしかったのであります」
 そういえば、あの時わんちゃんの鳴き声は悲鳴っぽかったもん。
「本官はシロともうします」
「シロ……そのまんまだね」
「あなたは?」
「わたし、ポンちゃん」
「お世話になったので、恩返しの一つもします」
「別に……いいんだけど」
「それと、パン職人の方にも挨拶がしたいであります」
 あ、やっぱりそう来ましたか……
 シロちゃんを店長さんに会わせたら、また怒られるのかなぁ。
 お外で寝るのは嫌なんだけどなぁ〜

「そんなわけで、交番のわんちゃんです」
 お店に帰ったら、やっぱり店長さんへの字口。
 腕を組んでわたしとシロちゃん交互に見ています。
「またポンちゃんがやったんだ」
「わ、わたしのせいになっちゃうんです?」
「だっていつもそうじゃん」
「店長さんが行けって命令したんです」
「ポンちゃんが俺が浮気って疑うからだ」
「むー!」
 わたし、シロちゃんを楯にして、
「シロちゃんは警察の犬なんですよ、こわいんですよ」
「警察の犬……」
 店長さん、なんだかあきれ顔。
 じっとシロちゃんを見ながら、
「交番の犬なんだ……シロちゃん?」
「そうであります!」
「なんでここに来たの?」
「捨て猫とパンのお礼に来ました」
「本当? 居候じゃないよね?」
「本当であります、店長さんのパンに命を救われました」
「……」
「恩返しをしたいと思います」
 シロちゃん言います。
 でも、店長さん相変わらず嫌そうな顔。
 でも、シロちゃん全然気にしていないみたい。
 お店を見渡して、そしてわたしを見てから、
「店長さん」
「なに? シロちゃん?」
「店長さんはタヌキに憑かれています?」
「ま、まぁ……そうだね」
「では、タヌキ退治します!」
 え……それってわたしを退治するって事?
 あ……シロちゃんわたしの方を見て笑ってます。
 う……腰から拳銃抜きましたよ。
 い……嫌だな……まさか撃たないよ……ね?
 お……恩返しってわたしの恩返しは怨返しとか!
「タイホだーっ!」
 シロちゃんの容赦ない発砲!
 わたしの眉間とか制服、赤く染まります。
 や、やられた〜!
 頭抱えてしゃがんでも、まだ撃ってきます。
「やめて〜!」
「死ぬまでやめません、タイホだーっ!」
 シロちゃんの撃っているのは銀弾鉄砲です。
「あ、ありがとう、止めやめ!」
 店長さんが止めてくれました。
 でも、わたし血まみれですよ。
 もう、死んじゃうのかな?
 でもでも、体じゅう血まみれなのに、平気なの。
「?」
 店長さんもわたしの体をチェック。
 特に額の血の痕を指でさわって、匂いを嗅いでいます。
 首を傾げながら店長さんはシロちゃんに、
「これ、血じゃないね?」
「銀弾鉄砲で殺せたりしません」
「まぁ……そうだけど」
「それはペイント弾であります」
「ペイント弾……」
「口に入っても安全な成分であります」
 わたしも制服についた赤いの、舐めてみます。
 ちょっと甘いかな……血じゃないですね。
 死なないですんで、よかったです。
「タヌキは退治しました」
「死んでないよ」
「実弾で本当に殺されたくなかったら、山へ帰ってください」
「銀弾鉄砲、人に向けて撃ったらいけないんだ〜」
 シロちゃん、今の言葉に反応しました。
 正論なので、反論できないみたいですよ。
 でも、シロちゃんツンとして、
「タヌキだからいいんです」
「むー!」
「やられたタヌキはさっさと退場!」
「シロちゃん、さっきわたしにも恩返しするって言ってたのに」
「命を見逃してやってるんです」
「見逃してやってる……そうきますか……」
 なんだかくやしいですね。
 なにか手は……お店を見回すとコンちゃんがいます。
「ほら、あそこに女狐がいますよ」
「!!」
「あれも退治しなくていいんですか?」
「タイホ……」
 シロちゃんの言葉にテレビを見ていたコンちゃんも振り向きます。
 二人の視線が火花を散らしているの。
「タイホ……」
 シロちゃんの言葉には、さっきの勢いがないです。
 やっぱりコンちゃんのこわさがわかるみたい。
 銀弾鉄砲を構えても、発射できないでいますよ。
「雌犬のニオイがすると思えば……この警察の犬め」
「その通りであります」
「店長からするニオイはおぬしのニオイであったか」
「その通りであります」
「雌犬の分際で、このわらわに銃口を向けるのじゃな」
「その通りであります」
「その仔タヌキを退治したからというて、わらわも簡単に退治できると思うなよ」
「銃の腕には自信があるであります」
 銀弾鉄砲を構えるシロちゃんの目が鋭くなりました。
 さっさと撃てばいいのに、なんでコンちゃんの時は撃つのをためらうのかなぁ。
「よし、そなたと勝負してやろう」
 あ! コンちゃんの手に銀弾鉄砲が現れました。
 コンちゃんが持っているのは、六連発の回転式のヤツです。
 シロちゃんのはワルサーの銀弾鉄砲で丸い弾が出るヤツ。
 二人がにらみ合います。
 コンちゃんがわたしに、
「ポン、レジのお金を一枚放るのじゃ」
「え? お金を放る……いくらでもいいの?」
「小銭じゃ小銭」
「十円でいいかな?」
 コンちゃんシロちゃんを見て言います。
「小銭が落ちた瞬間に抜く……いいかの?」
「了解であります」
 村のパン屋の店内なのに、どことなく西部劇な雰囲気。
 コンちゃんとシロちゃんがわたしを見ています。
 一応店長さんに目をやると、頷いてくれました。
 この決闘、公認ですよ。
 コンちゃんは銀弾鉄砲をテーブルに置きました。
 シロちゃんは腰に銀弾鉄砲を戻したけど、手を離したりしません。
 余裕のコンちゃんに、シロちゃんがヒクヒクしながら、
「余裕……バカにしているのでありますか!」
「わらわの方が、何枚も上手という事じゃ」
 コンちゃん挑発してます。
 シロちゃんムッとしているの、なんとなく伝わってきます。
 余裕のコンちゃん。
 引金に掛かった指が震えるシロちゃん。
 わたし、店長さんに改めて視線。
 頷いてくれたから、コイン・トス。
 十円玉はくるくる回りながら山なりになって落ちていきます。
 そんな十円玉が床で音を立てて弾けました。
「!」
 コンちゃんとシロちゃんの動きはほぼ同時。
 シロちゃんのワルサーから連射音。
 コンちゃんの銀弾鉄砲は一度弾けて終了。
「うっ!」
 でも、額が赤く染まったのはシロちゃんだけ。 
 膝をついて、うなだれてしまうシロちゃん。
 勝負あり、コンちゃんの勝ち。
 なぜか座り込んだシロちゃんの回りにワルサーの弾が散らばっています。
 コンちゃん、シロちゃんを見下ろして、
「おぬしのワルサー、下に向けたら弾がこぼれるのじゃ」
「!!」
「おぬしには、わらわの銀弾鉄砲を授けよう」
 コンちゃんがしゃがんで、シロちゃんの前に銀弾鉄砲を置きます。
 シロちゃんはその銃を手にしながら、
「参りました!」
 パン屋の決闘は幕です、ジ・エンド。

 空にはたくさんの星。
 そこかしこから、虫の声だってします。
 今、わたしは夜を楽しんでいるの。
 ダンボールに入ってお外でお休みしてるんだけど。
 今回は制服を汚しちゃったりしたからです。
 隣にはシロちゃんもいますよ。
 なんでもお店で決闘したから、なんだって。
「シロちゃんなんでここにいるの〜」
「店長さんに言われたからであります」
「まさか、居候したりしないよね」
「交番勤務ですので、そこは大丈夫であります」
 わたし、怒った感じで、
「ねー、わたしに恩返ししてくれるんじゃなかったの〜」
「殺さなかったであります」
「そ、それで恩返しなの〜」
 わたし、ムッとした顔。
 シロちゃん全然気にしていないでニコニコしてます。
 でも、二人揃ってブルッときました。
 身を寄せ合って寒さをしのぎます。
「仲良くしないとね」
「了解であります」


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