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■  ポンと村おこし  第16話「捨て猫タマちゃん」             ■
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「ポンちゃ〜ん!」
 朝霧の中、祠の掃除をしていたら店長さんの声。
 もしかしたら、愛の告白かもしれません。
 なんたって店長さんと二人きりなわけですから。
「ポンちゃ〜ん!」
「はーい、店長さ〜ん!」
 人の影。
 あー、でも、店長さんだけじゃないです。
 ミコちゃんも一緒ですよ。
「どうしたんです、二人で?」
 そうです、ミコちゃん普通なら朝ごはんの準備です。
 店長さんだって昼に焼くパンの仕込みのはず。
 ま、まさか店長さんとミコちゃんの婚約発表とか!
「ポンちゃん、悪いけど留守番頼むから」
「て、店長さん、まさかミコちゃんと駆け落ちとか!」
「ポンちゃん、最近なんかおかしいよ」
「だ、だって店長さんミコちゃんと一緒な事が多いし!」
「そうかなぁ……俺とミコちゃん出かけるから、留守番頼むね」
「やっぱり、二人でホテルとか行くんでしょ!」
「俺は村長さんの家で、ミコちゃんは老人ホーム」
 さっきから話しているのはわたしと店長さんだけです。
 ミコちゃんはバスケット持って、とっとと行っちゃいました。
「本当でしょうね!」
「どうしろと……」
「キスしてくれたら、信じてあげます!」
 わたし、目を閉じてキス待ちモード。
 二人きりだから、恥ずかしくないよね。
 って、なかなかキス、来ませんよ。
「?」
 目、開けたら、店長さんもういません。
 あう〜、逃げられちゃいました!

「ただいま〜」
 カウベルが鳴って店長さんが帰ってきました。
 ミコちゃんはずっと先に戻ってきましたよ。
 二人は深い仲ではないみたいです。
 でも、店長さんを責めずにはいられません。
 さっきキスしてくれたら、全然問題なかったのに、モウ。
「店長さん、さっきはキスしないで行っちゃった……」
 わたし、店長さんに近付いたら臭いました。
「ててて店長さんっ!」
「な、なにっ!」
「店長さん、ちょっとー!」
「な、なんだよっ!」
 わたし、店長さんの服をクンクンします。
 なんたってタヌキをやってたわけですから、鼻は利きますよ。
「浮気者ーっ!」
「え!」
「めめめ雌のニオイがします、雌の、女の!」
「えー!」
「なにが『えー!』です、なにが!」
「いや、そんなはずは!」
 わたしという者がありながら、別の雌に走るなんて!
 コンちゃんミコちゃんはまぁ、ガマンします。
 でも、この雌のニオイはほかの雌・女のニオイ。
「俺、別に……」
「わーん、この浮気者ーっ!」
 もう、そこら辺のパン、投げちゃえ。
 あ、でも、全然効いてないみたい。
 こんな時は援軍を呼ぶにかぎります。
「コンちゃん、ミコちゃん、店長さんが浮気しましたー!」
 音量MAXで叫びます。
 ドタバタしながらコンちゃん登場。
「ほ、本当か、店長っ!」
 ミコちゃんはエプロン姿でやって来ました。
「朝からにぎやかですね〜」
「店長さんから女のニオイがしますーっ!」
 わたしは店長さんを羽交い絞め。
 コンちゃんとミコちゃんがクンクンします。
 ミコちゃんは首を傾げて、行っちゃいました。
 元々人間だから、嗅覚は弱いのかも。
 コンちゃんは見る見る鬼の顔にミューテーション。
「確かに雌のニオイがする……店長、覚悟は出来ておろうな」
「い、いや、俺、本当にそんな事してない」
「正直に言うのじゃ」
「俺、村長さんに言われて、駐在さんの置いていった犬を見てきたんだ」
 途端にコンちゃん、いつもの顔に戻っちゃいます。
「なんだ犬か、しょーのない」
 コンちゃんも退場です。
「ウソーっ!」
「ぽ、ポンちゃんいいかげんにしなよ」
「犬だけじゃないもん、ほかのニオイもするもん」
「むー!」
 店長さん、わたしの手をしっかり握りました。
「じゃ、一緒に行こうか」

「嫌ーっ!」
「嫌じゃないだろ、嫌じゃ!」
「わわわわたし、犬は苦手なんですっ!」
「もう、浮気じゃないの証明するから」
 店長さん手を引っ張ります。
 そしてわたしをお姫さまだっこ。
「嫌ーっ!」
 お姫さまだっこは嬉しいけど、犬はやっぱり嫌です。
 わたしが野良だった頃、よく追っかけられたんだから。
 噛まれたら、痛いんですよ。
「ほら、この犬」
 交番の前には一匹の白い犬。
 でも、なんだかさっきから悲鳴みたいな鳴き声ばっかり。
 様子が変です。
「俺、この犬の面倒見るように頼まれたんだ」
「な、なんで?」
「駐在さんいなくなっちゃったんだ……統廃合」
「犬、置いていっちゃったんですか?」
「うん」
 話している間も、白い犬はキャンキャン言ってます。
 わたし、犬語はわからないけど、なんとなく……悲鳴と思った。
「残り物でいいから、えさやって世話しろって」
「そ、そうなんですか……」
 わたし、お姫さまだっこでゼロ距離だから、店長さんのニオイを改めて確認。
「でも、店長さんから、猫のニオイもしますよ」
「猫は本当に覚えがないんだけど……」
 わたし、店長さんの腕から逃れると犬の周りを見ます。
 猫のニオイはここからただよってくるんだけど……
 犬と猫も仲はよくないですよね……
 あ、犬小屋の裏に黒猫発見!
「店長さん、猫です猫!」
「ああ、本当だ、さすがポンちゃん」
「店長さん、これこれ!」
 交番の建物の影にはダンボール。
 マジックで文字「ひろってください」「名前はタマです」だって。
「捨て猫さんですね」
「で、俺の浮気は晴れた?」
「本当でした、犬と猫」
 店長さんがアンパンを一つくれました。
 見れば店長さんは犬にアンパンをあげてます。
 わたしは黒猫・タマちゃんにあげましょう。
「捨てられて、かわいそうです」
 タマちゃん、アンパンにかぶりつき。
 気持ちはよくわかります。
 わたしもこのアンパンに助けられたもん。
「!!」
 いきなりタマちゃんからモクモクと煙!
 わたしと店長さん、びっくりして見てたら黒いワンピの女の子登場です。
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「だだだ誰っ!」
「タマにゃん!」
「タマにゃんって……まさか黒猫タマちゃん?」
「そうにゃん、アンパンを貰ったから、恩返しするにゃん」
 黒猫が人間の女の子になっちゃいました。
 むー、最近こんな事があったような、なかったような。
 わたしの記憶の中で、ミコちゃんが微笑んでいます。
「ててて店長さん」
「な、なに、ポンちゃん」
「また、ミコちゃんの時みたいに、わたしのせいになっちゃうんでしょうか?」
 途端にびっくりしていた店長さんの顔が冷静さを取り戻しました。
 クールな視線をわたしに向けて、
「そうしたほうが、丸く収まるのかなぁ」
「えー! またお外で寝るのー!」

 お昼ごはんにはタマちゃんも一緒です。
 おなか空いてたのか、パクパク食べてますよ。
「おかわりにゃん」
 ミコちゃんがごはんをよそいで……
 途端にタマちゃん首を横に振ります。
「ほかのごはんがいいにゃん」
 ミコちゃんごはんにカツブシかけて渡しました。
 そんなおかわりが続きます。
 カツブシ・ふりかけ・たまごかけ・さんまの缶詰……
 猫ってまぁ、こんな生き物ですよね。
 あ、最後に味噌汁ぶっかけごはんで勢いが止まりました。
 猫だけに熱いのは苦手みたい。
「ねぇ、タマちゃん」
「なににゃん、タヌキ娘」
「タヌキ娘……いいけど……おかわりはもうやめた方がいいよ」
「なんでにゃん」
「三杯目にはそっと出し……です」
「むー!」
 あつあつの味噌汁ぶっかけごはんをふーふーして食べてしまうと、
「では、恩返しするにゃん」
 そう言うと、店長さんの腕にすがりついてしまいました。
「アンパンの恩返しするにゃん」
 わたしがあげたような気がするんだけど……ま、いいか。
「なにをしたらいいにゃん」
 タマちゃん、さっきから言うけど、店長さんはなんだか嫌そう。
 それに恩返しと言うわりには、じゃれてるだけ。
 店長さんの目が、わたしやコンちゃん、ミコちゃんに向けられます。
 あからさまに嫌そうで、追い出して欲しそうな目。
 わたしは微妙だけど、コンちゃんはやる気で、ミコちゃんは微笑んでます。
 そんな店長さんの鶴の一声は、
「ここ、食べ物屋だから、綺麗にしてないとね」
「猫だから、掃除とか出来ないにゃん」
「うん、そんな事だろうって思ってたから……」
「店先で招き猫でもするにゃん」
「いや、まず、お風呂に入ってもらうから」
「!!」
 カッと見開かれたタマちゃんの目。
 でも、もう、コンちゃんとミコちゃんが左右の腕をつかまえてます。
「お風呂嫌ーっ!」
 連行されるタマちゃんの悲鳴。
「にゃん」付けるの忘れてます。
「店長さん店長さん」
「なに、ポンちゃん、ポンちゃんもお風呂手伝ってあげて」
「なんだかかわいそうじゃないです?」
「なんだかやりたい放題な猫だから、ここで躾ておかないとね」
「き、厳しいですね」

 あっという間に一日が終りました。
 お店は今日も閑古鳥が鳴いている感じだったけど、タマちゃんのおかげで大変でした。
 もう、お風呂で暴れてひっかかれたし、夕ごはんもおかわりがすごくて、コンちゃんと
ケンカになったくらいです。
 結局タマちゃんはわたしに一番懐いちゃいました。
「ねー、ポンちゃん、一緒に寝てにゃん」
「いいけど、お風呂の時みたいにひっかいたら嫌だよ」
「もうしないにゃん」
 一緒のお布団に入ります。
 わたしに抱きついてくるタマちゃん。
「一人で眠れないの〜」
「いつもご主人さまと一緒だったにゃん」
「!!」
「やさしいご主人さまだったのに……捨てられたにゃん」
「……」
「お父さんが飼ったらダメって言ってたにゃん」
 タマちゃん、わたしにしがみついて体が震えています。
 泣いているの、わかりますよ。
 すごくかわいそう。
「やっぱり、ご主人さまと一緒がいいんですね」
「当たり前にゃん」
 もう、それからはタマちゃん黙ってしまいました。
 あんまりかわいそうだったから、こっちが眠れなくなっちゃいましたよ。

 次の日、こっそりお店を抜け出してタマちゃんと一緒に交番に行きました。
 犬はこわいけど、鎖でつながれているから、近付かなければ大丈夫。
 タマちゃんと一緒にダンボールを見ます。
「うう……」
 また、泣き始めるタマちゃん。
 わたし、タマちゃんの背中をトントンするくらいしかできません。
 すると、そんなタマちゃんの姿が猫に戻っちゃいました。
 子供だったから、ずっと変身出来なかったのかな?
 わたしの腕の中でおとなしくなっちゃいましたよ。
「タマ!」
 いきなり後ろから男の子の声。
 わたしの腕からタマちゃんを奪うと、ひしっと抱き合う男の子とタマちゃん。
「タマ……ごめんよ」
 ランドセルを背負っている男の子……これがタマちゃんのご主人さま?
「あなたが飼い主さんです?」
「はい、タマは僕の猫です……お父さんが飼ったらダメって言うから捨てたけど……」
 見れば交番の脇にタクシー停まってます。
 男の子とタマちゃんはタクシーに乗ると、
「もう、絶対離しません」
 男の子はそう言って行っちゃいます。
 タクシーはあっという間に見えなくなりました。
 タマちゃん、しあわせにね。

 こっそりお店を抜け出したから、今夜もお外でお休みです。
「店長さん厳しすぎ……」
 でも、お店をほったらかしにしたのは本当だから我慢ガマン。
 夜空は星でいっぱい。
 星座ってのがあるらしいです。
 星と星をつないで絵にするんですよ。
 山の中だから、星はたくさんあるんです。
 そんな星を見てたら、タマちゃんの顔を思い出しました。
 もう、今夜はご主人さまと一緒で、さみしくないはずですよ。


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