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■  ポンと村おこし  第13話「今度こそ村おこし」             ■
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「起きろっ!」
 まだ真っ暗なのに、いきなり起こされました。
「は、はい?」
 真っ暗な部屋に店長さんの真剣な顔。
「店長さん、まだ眠いです」
「いいから、起きて、コンちゃんも起きて!」
 店長さんコンちゃんを起こしてます。
「何をするのじゃっ!」
 あ、コンちゃんの寝起きは危険です。
「早く家を出てっ!」
「え!」
 窓の外、なんだか赤い。
「噴火がひどくなったんだ!」
「え!」
 わたしとコンちゃん、一緒になって窓の外を見ます。
 山のてっぺんの火柱がすごい事に!
 今まで一本しかなかった火柱が何本も上がってます。
 それに火柱の高さも、なんだか高くなってるみたい。
「ミコちゃんは?」
「あ、ミコちゃんは押し入れです」
「なんで?」
「社に帰りたくないって、押し入れに篭ってます」
「もう」
 店長さんムスっとして押し入れを開けます。
「ミコちゃん起きて!」
「お、起きてます!」
「早く逃げるんだ!」
「嫌です、それは私を社に帰す作戦です」
「もう!」
 店長さん怒ってミコちゃんの腕をつかまえました。
 そのままお姫さま抱っこ。
 いいなあ、わたしも今度、あの手を使おう。
「ポンちゃんもコンちゃんも早く出ろっ!」
 店長さんの声にわたし達、家を出ました。
 流れて来た溶岩が村を飲み込もうとしてます。
 お店はもう、溶岩に飲まれちゃいました。
 わたしたちギリギリセーフ。
「ミコちゃん!」
 店長さんの大きな声に、ミコちゃん小さくなってます。
「ミコちゃん噴火を止めて!」
「え、えっと、出来ないんです」
「な、なんで……」
「その、昨日帰れって言われた時からもうどうにもならなくて」
「え……昨日言ったから、あんなになったの?」
「店長さん私の気持ち全然わかってません! あそこは寂しいんです!」
 店長さんが黙っちゃいます。
 代わりにわたしが、
「ミコちゃん、あれ、止められないんですか?」
「なんだか昨日思い切り泣いたら地脈が押さえられなくなって……」
 村にも溶岩が迫ります。
 コンちゃんが、
「ポン、おぬし村人を起こして回るのじゃ! 避難させるのじゃ!」
「うん、コンちゃん、でも、どこに?」
「公民館でよかろう、ミコも……」
 みんながミコちゃんを見ます。
 でも、ミコちゃん小さくなってて、とても使い物にはなりそうにないです。
 ともかく村の人達を避難させないといけません。
『助けて!』
 あれ、なんだか頭の中に声がします。
『助けて、タヌキさん!』
 あ、これはご神木さんです。
 駐車場の隅に植えられたご神木さんにも溶岩が迫ってます。
 わたし、とりあえずスコップで掘り起こして、バケツに入れて脱出。
「ポン、なにをしておるのじゃ!」
「コンちゃん聞こえないんですか?」
「?」
「わたし、ご神木さんの声が聞こえます」
「木がしゃべるものか」
「わたしには聞こえるんです」
 ミコちゃんがわたしを見ながら、
「ポンちゃんはこの木と話が出来るのですか?」
「うん、なんだかわたしには声が聞こえるみたい」
「この木はなんですか?」
「うん、村のご神木の枝なの」
 ミコちゃんバケツに入ったご神木の枝を見ながら、
「この木なら、私の代わりに山の神ができます」
「なら、わたし、この木を植えに行って来る!」
 みんなの目が、溶岩だらけになった村に、そして流れの先に向けられます。
「うむ、わらわもダムを完成させて溶岩を止めてみせよう」
 コンちゃんの体からオーラ。
 空をふわふわとダンプや岩、瓦礫が飛んでいきます。
 店長さんは視線をミコちゃんに向けると、
「じゃ、俺とミコちゃんは村の人達を公民館に誘導」
 役割分担完了。
 わたし、頑張って山に登ります。
 早くしないと全滅だもん。

 近くで見る噴火は迫力満点です。
 とりあえず社の近くに穴を掘ってご神木さんを植えなおす準備。
「ねぇ、ご神木さん」
『なんですか?』
「ご神木さんは、山を鎮める事ができますか?」
『はい、でも……』
「でも?」
 ご神木さんの言葉に、なんだか嫌な予感。
 穴掘りやめて振り向いたら……
 噴火の火柱が龍みたいになってます!
 ああ、炎の龍さんがわたしの方に来ました。
 熱いですよ、狸汁も嫌だけど、このままじゃ丸焼きです。
「あ、熱いから来ないで!」
「狸娘よ、何をしておる」
「噴火すると村が全滅で困るんです」
「ふむ……それで我を封じようと?」
 あ、炎の龍さん、一度は止まったけど、じりじり近付いて来ます。
「だ、だってわたし、店長さんに恩返ししないといけないんです」
「ふむ……それで我を封じようと?」
 とりあえず炎の龍さん止まってくれました。
「噴火……炎の龍さんも最初はよかったけど、村が……お家が燃えたら夜寝るところがな
くなっちゃいます」
 って、もう、焼けちゃいました。
 そう思うとついつい涙がこみあげてきちゃいます。
「狸娘よ、私もこう、封じられてばかりではうんざりなのだよ」
「噴火ばっかりでも困ります」
「知らぬ」
「わーん!」
 炎の龍さんじりじり接近。
 わたし、バケツinご神木さまに抱きつきます。
『地の神よ』
「うむ、おぬしは森の神!」
『わたしはこの狸娘に助けられた……それに免じて』
「で、我は封じられてしまえと?」
 炎の龍さん、首を伸ばしてきます。
 はわわ、わたしもうチャーシュー状態。タヌキなんだけど。
『わたしに良い考えがある、みなが喜ぶ考えじゃ』
 炎の龍さん止まり、そしてゆっくり後ずさり。
 ご神木さんが、
『温泉になって沸くのじゃ、それなら皆、喜ぶ』

 わたし、ご神木を植えて村にバックホーム。
 ご神木さまの名案で噴火も収まりましたよ。
 でも、村に近付くと、溶岩だらけ。
 ダムは真っ黒で湯気が立ってます。
 溶岩は完成したダムでストップ。
 さすがコンちゃんパワー。
「店長さーん!」
「ポンちゃん!」
 村のみんなは、村外れの高いところ、公民館にいました。
「店長さん、噴火が止まりました、ご神木さんのおかげです」
 作戦大成功です。
 えい、店長さんの腕に抱きついちゃえ。
 これだけ頑張ったんだから結婚するしか。
 店長さん嫌って言ったら、もう女の武器で勝負です。
「ポンちゃん……」
 あ、でも、なんだか店長さんの顔、そんな雰囲気じゃないです。
 店長さんの腕にはコンちゃんがぐったりしてます。
「店長さん、コンちゃんどうしたんです?」
「コンちゃんの祠、溶岩に沈んじゃったろ」
「!!」
「ダムが出来たらコンちゃん死んじゃうって言ってたじゃん」
「そ、そんな……」
「祠、溶岩に沈んじゃったから……」
 コンちゃんすすけて、ちっとも動きません。
「コンちゃんっ!」
 わたしが揺すったら、まぶたがゆっくり開きます。
「ポン……楽しかった……店長……」
 コンちゃんの手が、店長さんの腕をつかみます。
「最後に……キスして……」
 もう、かすれるような声。
 わたし、店長さんを揺すっちゃいます。
 最後にキスしてあげて!
「店長……」
「コンちゃん……」
 店長さんとコンちゃんが近付いていきます。
 コンちゃんが死んじゃう前に早くキスしてあげて!
 わたし、涙うるうるしていると背中をトントンされました。
 見ればミコちゃんが首を傾げてます。
『どうしたんですか?』
 小声のミコちゃん、わたしも、
『コンちゃんは祠が沈んだから死んじゃうんです』
『え?』
『だから村にあった祠が沈んだから……』
『この間ポンちゃんが持ってきた人形は何だったんです?』
 そういえば、そんな事もありました。
 どっちが正解なんでしょう?
「こりゃ、ポン、今のひそひそ話、聞こえたぞ」
 もうキスまで十センチくらいのところで、コンちゃん怒った顔してます。
「あ、わたし、祠のお稲荷さま壊したから、ミコちゃんの社で直してもらってる最中だっ
たんです」
「くっ、具合が悪いと思ったら、そんな事がっ! あっ!」
 店長さん、コンちゃんを抱いていた腕をほどいてます。
 コンちゃん地面に落ちて、なんだか頭打って「ゴン」なんて音が。
 頭を押さえたコンちゃん、痛みに体をくねらせてます。
 店長さんこめかみに怒りマークが浮かべて、
「コンちゃん今の、お芝居?」
「う、うう……」
「ミコちゃんのせいで、村は全滅……」
「ほほほ……」
 コンちゃんとミコちゃんの株暴落。
 わたしの成績はほっといても……
「ぜーんぶ、ポンちゃんが来てからだよね?」
「え!」
「ポンちゃんが来てからコンちゃんも来たし……」
「そ、そんなぁ〜」
「お稲荷さま壊して、結局ミコちゃん連れて来たのもポンちゃん」
「うう……悪気はなかったんです」
「もう山に帰って……」
 わたしと店長さんの間に、いなり寿司が差し出されます。
「命が無事だったんですから、もういいでしょう」
「……」
「わたしが炊き出しで作ったんです、おにぎりもありますよ」
 ミコちゃんが笑っています。
 早速コンちゃんが飛びついて、
「きゃーん、いなり寿司!」
 わたしも店長さんもつまみます。
 甘くて美味しいですよ。
 みんなで黙々と食べました。
 村の人達も、ミコちゃんお手製を食べて泣くのも忘れてます。
 でも……
「なにもなくなってしまったねぇ」
 隣にうずくまっていた豆腐屋のおばあちゃんがつぶやきます。
 その瞬間、また地面が揺れました。
 公民館の脇に大きな水柱。
 みんなびっくりして声を上げて、そんな水柱を見上げます。
 落ちてくる水は……温かい……お湯ですよ。
 店長さんわたしの頭を撫でてくれながら、
「この間、温泉でも出れば……って言ってなかったっけ?」
「!!」
「この温泉で、村おこしできるかも知れない」

illustration はづきゆう
 温泉で村おこし。
 パン屋さんも復活しました。
 店長さんはパン工房。
 ミコちゃんは家事当番。
 コンちゃんはテーブルでお茶。
 わたしはレジで頑張ってま〜す。
 みなさんも、山のパン屋さんにいらっしゃいませっ!


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illustration はづきゆう(MK-HOUSE)
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