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■  ポンと村おこし  第12話「山を鎮めるしかっ!」            ■
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「コンちゃんもミコちゃんも、先輩を敬うべきですっ!」
 今日は一緒にお風呂。
 本当は店長さんと一緒に入れればいいけど……恥ずかしいかも。
 湯船に浸かっているコンちゃんが、
「ポン、おぬし今、店長と入りたいとか思ったであろう」
 うわ、コンちゃん鋭いです。
「ポンちゃんおませさん」
 ミコちゃんはさっきからわたしの背中をこすってます。
「コンちゃんもミコちゃんもモウっ!」
 わたし怒って言うけど、笑われてばっかり。
 コンちゃん湯船の縁につかまって、
「ポン、おぬしはまずその胸をなんとかせい」
 コンちゃんの手が伸びてきて、わたしの胸を触ります。
「やめて、コンちゃんのエッチ!」
「触診というのじゃ、たわけが!」
「わたし、捨ててある雑誌で勉強してるんです、そーゆーのはモグリの医者って言いますっ」
「わらわはキツネゆえ、モグラではない」
 まだコンちゃん揉んでます。
 えい、払っちゃえ。
 あ、逃げられました。
「ポンちゃんは控えめですね」
 今度は背中をこすっていたミコちゃんの手が胸を揉みます。
 背後から回された両手が、しっかりゆっくり揉み揉み。
「ミコちゃんやめて〜」
「揉んでもらったら、大きくなるって知らないんですか?」
「好きな男の人に揉んでもらったら大きくなるって知ってるよ」
「それなら、店長さんに揉んでもらえばいいのに……」
「そ、それが出来たら苦労しません」
「え? 苦労するところですか?」
「だ、だってこんなおっぱいで、店長さん喜ばないかも……」
 二人が納得したようにうなずきます。
 なんだかすごく、悔しいです。
 コンちゃんのおっぱいは大きなメロンパンクラス。
 そしてミコちゃんもこんもり・ぷっくりです。
 それに比べてわたしはどら焼き級。
 なんだかもう、二人とは一緒にお風呂したくない気分。
 でもでも、ガスが勿体無いから、女の子は一緒に入らないとダメなんだって。
 わたし、ずっとコンちゃん達の胸に圧倒されて暮らすんだ。
 先輩なのに屈辱です。
「うーん、でも」
 ミコちゃんの声。
 そしてミコちゃん、まだわたしの胸を揉んでいます。
 でも、なんだか落ち込んじゃって何も感じません。
「うーん……」
 ミコちゃん唸ってばっかり。
 見ればすごく神妙な顔です。
「ミコちゃん、どうかしましたか?」
「いや……ポンちゃんの胸なんですが……」
「?」
 ミコちゃんのゆっくりとした指の動き。
 なんだか、何かを確かめている感じ。
 まさに「触診」ってやつでしょうか!
 ミコちゃんさっきから黙ってしまってます。
 も、もしかしたら、わたしの胸、病気とか!
「ミコちゃん、どうしたんですっ!」
「……」
「なにか言ってくださいっ!」
「……」
「わ、わたしの胸、病気とかっ!」
「あ、そんな事じゃないんです……」
「なんで黙ってるんです〜!」
「いや、その、こんな胸もいいな〜って……」
「うう……そんなフォロー要りません」
「本当ですよポンちゃん」
「わたしの胸、どうせちっちゃいもん」
「店長さん、こーゆー胸が好きかもしれませんよ」
「!!」
「この間だってキス、てれくさかっただけかも」
 ポンちゃん復活っ!
 この間キスしてくれなかったのも、きっとそうです!
 胸だって、若いからこんななんです!
「……」
 湯船の縁につかまっているコンちゃんの大きな胸。
 あれは大人の胸なんです。
 なんたって平家の落ち武者時代の骨董品!
「……」
 こんもり・ぷっくりなミコちゃんの胸。
 あれも大人の胸なんです。
 話によればコンちゃんよりも年代物!
「わたし、なんだか自信とりもどしました」
 そう、どら焼き級でも、店長さんが好きだったらいいんです。

 夜、わたし、店長さんに勝負をかけます。
「うむ、ポン、健闘するのじゃ」
「ポンちゃん頑張って〜」
 コンちゃんミコちゃんも応援してます。
 店長さんはまだパン工房。
 明日の仕込みももう終った頃ですよ。
「早く行かぬか」
「朝になりますよ」
 外野がうるさいです。
 一度にらんでから、パン工房に突入。
 あれれ、工房は真っ暗です。
「店長さん?」
「あ、ポンちゃん、どうかしたの?」
 声はします。
 店長さんいるみたいだけど、なんで真っ暗なんでしょう?
「どうしたんです……真っ暗です」
「あ、ああ、もう仕込みは終ったからね」
「どこです?」
「あー、窓の所」
 見れば店長さん窓辺に立って外を見ています。
 わたしも横で外を見ます。
 外は真っ暗……って思ったらぼんやり赤い光。
「店長さんあれは?」
「あれ、あれは溶岩」
「ああ、噴火して流れているのですね」
「そうそう、わからなかった?」
 溶岩は川のあった所を流れています。
「昼間見たら黒い固まりなだけで」
「ああ、だね、夜はあんなふうに見えるんだ」
「そうなんだ……」
 赤いのがもやもやと揺れているのがわかります。
 なんだかロマンチックな雰囲気になりました。
 これはチャンスです。
 えいっ! 腕を組んじゃえ!
「わ、びっくりした!」
「店長さん、好き!」
 えへへ、言っちゃえ。
 今日は行けるところまで行っちゃうんです。
「そう……」
「……」
 店長さんの事だから……てっきり怒るかと思ったら全然。
 わたしの頭を撫でてくれながら、じっと外を見たまんま。
illustration はづきゆう
「店長さん、どうしたんです?」
「うん……いや、ちょっとね」
「?」
「あの赤いの、昼はわからないよね」
「はい、夜はあんなに綺麗です」
「うん、だね、あれ、ずっと続いてるよね」
「流れたところは赤いです」
「あっちまで、ずっと続いているよね」
 店長さんが窓に顔を近づけます。
 わたしも一緒になって、溶岩の流れている先を見ながら、
「店長さん、わかりません」
「あ、ああ……」
 店長さんわたしをじっと見つめて、
「あの溶岩がさ……ずっと流れると困るなって……」
「え……」
「ほら、流れる先は街だろう」
「街……」
 わたしの中で七つの傷の男の伝説がよみがえります。
 街はこわいから、わたしはどうでもいいんだけど……
「ポンちゃん、お客さんは街から来てるんだ」
「そうなんですか……」
「あそこが溶岩で燃えちゃったら大変な事になるし」
「うう……噴火を止めるしかないですね」
「うん、だね」
「そんなの嫌です!」
「!!」
 ミコちゃんの声。
 店長さんと一緒に振り向いたら、ミコちゃんの髪がうねってます。
 泣き虫のミコちゃんが怒ると、ちょっとこわいかも。
「噴火を止めるって事は、私をまた社に帰すって事です!」
 ミコちゃんから青白いオーラ発生。
 真っ暗な部屋がぼんやりと明るくなります。
「わわわ、あいつ怒ってる」
 コンちゃんもわたし達のところに来ました。
「私を山に帰すと言うなら、みんなを殺して私も死にます!」
 ミコちゃんが手を振ると、オーラが伸びてきました。
「ふぎゃっ!」
 コンちゃんが悲鳴を上げます。
 オーラはわたしや店長さんにも巻きつきました。
 でも、わたしと店長さん、へっちゃら。
「な、なんで効かないの!」
「ミコちゃん、わたしには山でも効きませんでしたよ」
「あ、ああ……そうだった」
「俺も効かないみたいだけど」
 わたしと店長さん、オーラに触ろうとしても触れません。
「でも、コンちゃんには効いてるみたい」
 さっきからコンちゃんのたうちまわってます。
「ミコちゃんやめて、コンちゃん死んじゃいます」
「あ、はい……」
 とりあえずオーラ終了。
 でも、コンちゃんはこんがり狐色に焼けました。
「もう、ミコちゃんオーラなんか出すんだから」
「だ、だって私を山に帰そうとするから」
「ミコちゃん山の神なんですよね」
「辞めます」
 そんな、わたしに辞めるって言われても、
「ポンちゃんが山の神になったらいいじゃないですか」
「わ、わたしは店長さんのお嫁さんになるからダメ」
「ほら、自分が神になって、あんな寂しい所に行くのが嫌なだけなんです」
「そ、それはちょっとあるかも」
「わーん、みんなで私をいじめるんだ!」
 神さまなのに、すぐにいじけるんだから。
「でも、ミコちゃん山に帰ってくれないかな?」
 店長さんが静かに言います。
「わーん!」
 ミコちゃん駆け出します。
 パン工房を出て行っちゃいました。
 足音はそのまま二階の部屋に行きましたよ。
 出て行くわけじゃ、ないんですね……
「ポン、店長」
「!!」
 すすだらけのコンちゃんが、体を起こしながら言います。
「おぬしら、本気で帰れと言うとるのか?」
「……」
「どうなのじゃ、ポン、泣いているあいつを帰せるか?」
「う……」
「店長もどうなのじゃ?」
 わたしとコンちゃんで、じっと店長さんを見ます。
 嫌そうな顔をして店長さんが、
「そ、そりゃ、泣いてる女の子を追い出すなんて出来れば」
 店長さん愛想笑いを浮かべて、
「それにミコちゃんが来てから売上もいいし」
「店長は何をのんきな事を言っておるのじゃ、山が火を噴いておるというのに」
「あの噴火も、あの程度なら……」
「もっとひどくなるかもしれんじゃろうが」
「そうかなぁ」
「ポン、一緒にあの人柱をやっつけるぞ」
「え、わたしもやるの?」
「当たり前じゃ、ポンが連れてきたんじゃろうが」
「そ、それはそうだけど、そんなに嫌わなくても」
「わらわが嫌っておるだけとでも、思っておるのか!」
「だ、だってミコちゃんに封印されたんだよね?」
「そんな昔の事、もう根に持っておらぬ」
 でも、すごく根に持っているようにしか見えません。
「ともかくもう寝なよ、ミコちゃんの事は明日にでも考えよう」


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