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■  ポンと村おこし  第11話「火山が村おこし」              ■
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「いらっしゃいませ〜」
「ありがとうございました〜」
 山が火を噴いて大変な事になるって思ったけど、お店は大繁盛。
 今では噴火を観に来る観光客で村は賑ってます。
 昼は昼で休憩に立ち寄る観光バス。
 夜は夜で夜空に赤い噴火を観光に。
 実は朝の空にそびえる火柱もいいそうです。
「いや、ミコちゃんが帰らない時はどうなるかと思ったけど、なんだか良かったよ」
「えへへ、あの時わたしが引き止めたの、よかったでしょう」
 わたしが言うと、店長さん笑いながら軽いゲンコツ投下です。
「ポンちゃんミコちゃんに乗せられてただけじゃん」
「えへへ〜」
 すると接客してたミコちゃんが戻ってきました。
「店長さん、もうすぐパン売り切れちゃいます」
「はいはいミコちゃん、工房に来てくれる」
「はーい」
 ミコちゃんと店長さん、パン工房に行っちゃいます。
 レジにはわたしだけ。
 コンちゃんはまだ治りません。
 いつも苦しそうな顔で寝てばかりです。
 ミコちゃんと店長さんが戻ってきたから、
「あの、店長さん……」
「なに、ポンちゃん、釣り銭きびしい?」
「いや……コンちゃんはどうしてます?」
「コンちゃん、うん、まだウンウン唸っていたけど」
「まだ具合悪いんでしょうか?」
「ポンちゃんさ、祠のお稲荷さまを壊したんだよね?」
「う……ちょっと落っことしただけです」
「ちょっと……ねぇ」
「わ、悪気はなかったんです」
「で、どんくらい壊したの?」
「そ、それは真っ二つ」
「し、死ぬんじゃないのかな」
「う……」
「で、ミコちゃんの能力で直してもらってるんだよね?」
「はい……山の頂上で直してもらったんです、ミコちゃんすごくてぴったりひっついてま
した」
「瞬間接着剤とかじゃないよね」
「ミコちゃんの能力ですよ」
 店長さん黙っちゃったから、わたしミコちゃんを呼びました。
 すぐにミコちゃんやって来て、
「なんです、ポンちゃん」
「ミコちゃん、コンちゃん『ちゃんと』直してくれたんだよね?」
「『ちゃんと』直しましたよ、見てましたよね」
「うん……でも、コンちゃんまだ治らないみたいだから」
 わたしの言葉にミコちゃん天井を見上げながら、
「確かにあの時は真っ二つなのを直しただけです」
 あんまり「真っ二つ」って言わないでほしい。
「あのお稲荷さまのやきものは本当に霊力を封じるだけの物でした」
 ミコちゃんは真面目な顔で、
「私の能力で見た目を修理するのは簡単なんです」
「え……見た目だけだったの?」
「私、ポンちゃんにちゃんと言ったと……完璧に直す為に神器の鏡のそばに置くって」
「でした、うん、はい」
「あのお稲荷さまの人形がしっかりと霊力を封じるだけの物になるのに、時間がかかりま
す」
 店長さんがうなずきながら、
「じゃ、完璧に、本当に直るのには時間がかかるんだ」
「はい、でも、今も山の社でしっかり直っているはずです、時間をかけて」
「それまでコンちゃんは調子悪いのかなぁ」
 店長さんの言葉に、わたしなんだかつらくなりました。
「あ、あの、店長さん」
「なに、ポンちゃん」
「わたし、やっぱりコンちゃんに謝ってきます」
「え……」
「悪気なくても、コンちゃんのご神体を壊しちゃったわけだし……」
「でも、コンちゃんにそんな事言ったら、ぶっ殺されるかもしれないよ」
 店長さんの言葉に、コンちゃんの能力思い出します。
 ダンプが飛んでいったり……
 ダムが爆発したり……
 心臓マッサージしたり……
 コンちゃん怒るとすごくこわいんです。
「でも、やっぱり謝ってきます」
「……」
「お店、お願いします」
 わたし、それでも謝る事にしました。
 コンちゃんが怒ってこわいのよりも、謝らない方がずっと嫌な感じだもん。

 二階の部屋にコンちゃんは寝ています。
 謝って怒られたら……ごまかすのに甘い物を持っていきます。
 っても、パン工房から貰ってきたどら焼きとメロンパンだけど。
「コンちゃ〜ん……」
 襖を開けて中を覗くと、お布団の山がもそもそ動いています。
「コンちゃん?」
 声を掛けても返事はなし。
 わたし、お布団のすぐ横まで行って揺すります。
「コンちゃん?」
 コンちゃんはお布団に潜っていて顔が見えません。
 でも、ちゃんとお布団の中にいるみたいです。
 ゆさゆさ動くお布団。
 もしかしたら、苦しんでいるのかも!
「コンちゃん!」
 わたし、嫌な予感がしてお布団を剥がしました。
 怒られたっていいんです。
「コンちゃんっ!」
illustration はづきゆう
 そこにはゲームをしているコンちゃんがいました。
 音が外に漏れないようにヘッドホンもしてます。
 丸くなってうつぶせで、目を血走らせてプレイ。
 ゲームに集中してたみたいで、ようやくお布団がなくなったのに気付いたみたい。
「お、なんじゃ、ポン!」
「コンちゃんなにやってんですっ!」
「む……よいではないか!」
「わ、わたし心配したんですよっ!」
「い、いや、このゲームってヤツがわらわを誘うのじゃ」
「コンちゃんずっと遊んでいたんですかっ!」
「そ、そんなに怒らずともよいではないかっ!」
「わたし働いていたのにっ!」
 とりあえず「真っ二つ」の件は黙っておきましょう。
 だって心配してたのは本当なんだもん。
 それなのにコンちゃんお布団にうずくまって遊んでたなんて!
「ポンもやってみるか?」
「え?」
「ほれ、これで動かして、このボタンで弾が出るのじゃ」
「ええ?」
 なんだか楽しそうな音楽が流れてきて、ゲーム開始。
 わたし……すぐにはまっちゃいました。
 ゲームって楽しい〜!!
「ポンちゃんそろそろお店に……」
 店長さんがやってきたのにも気付かないでプレイしてました。
 わたしとコンちゃんを見て、電光石火のゲンコツ投下です。
「なにやってんだ! 二人ともっ!」
「あう〜」
 わたしとコンちゃん、一緒になって頭を抱え込んでしまいます。
「店長さん、コンちゃんひどいんですよ、ずっと仮病だったんです!」
「なに、ポン、おぬしだって遊んでたではないか!」
「今だけだもん」
 途端にまたゲンコツです。
「二人ともふざけてないで、とっととお店に出て!」
「は〜い」
 コンちゃんは指を鳴らして能力で瞬間着替えしちゃうと、
「ポン、平日なのに騒がしいのう、繁盛しとるのか」
「コンちゃん本当にゲームばっかりだったんですね」
「なんじゃ、その言いよう」
「山から火が噴いたんです、噴火です噴火、火山」
「火山?」
 窓のところから、ちょうど噴火が見えます。
「うわ、本当じゃ、どうしたのじゃ」
 階段を下りて、店に顔を出した瞬間にコンちゃんが固まりました。
 まるで足が床に張り付いたみたい。
「あ、あわわわ……」
「コンちゃんどうしましたか?」
「あわわわわわわわわ!」
 震えるコンちゃん……その視線の先にはレジで微笑んでいるミコちゃん。
「あ、あの人は新人のミコちゃんです」
「卑弥呼じゃねーか!」
「知り合いですか?」
 その時、ミコちゃんが振り向きます。
 コンちゃんとミコちゃんの視線が合わさるのがわたしにもわかりました。
「わあ、お稲荷さま、お久しぶり!」
「てめぇ、この、卑弥呼ここで何やってんだっ!」
 嬉しそうにやって来るミコちゃんに真っ青なコンちゃん。
 コンちゃんは逃げたいみたいだったけど、動けないでミコちゃんにハグされました。
「何年ぶりかしら!」
「ひ、ひぃっ!」
 抱き合うミコちゃんとコンちゃん。
 ミコちゃんはなんだか嬉しそうだけど、コンちゃんは気絶しちゃいました。
 店長さんが割って入ります。
「ミコちゃんミコちゃん、放して離して!」
「え?」
「コンちゃんまた気絶しちゃったから」
「あら、本当」
 店長さんコンちゃんを連れて再び退場しながら、
「ミコちゃん、今日、店が終ったら詳しく聞こうか」
「はーい」
 わたしも興味あるな〜。
 ミコちゃんとコンちゃん、昔何があったんでしょう?

 て、店長さんなんでわたしを!
 なんでわたしをコンちゃんとミコちゃんの間に座らせるんでしょう!
 右にはコンちゃん。
 さっきから殺気だった目でちらちらわたしを見てます。
 でも、本当はきっとわたしじゃなくて、左隣のミコちゃん見てます。
 ミコちゃんは左に座ってます。
 にこにこしていて、コンちゃんの殺気視線なんかスルー。
 わたし、なんだかとっても居心地悪いんですけど。
 それにさっきからミコちゃんが「いきさつ」を話してくれたんだけど……
 店長さんコンちゃんを見ながら、
「昔、コンちゃんが悪さをして……」
「店長、わらわを悪者呼ばわりするかのっ!」
「コンちゃん黙ってて……で、そんな悪さをしたコンちゃんを……」
「はい、私がお侍と一緒になって封じました」
「そうなんだ」
 ミコちゃんが普通に言うのに、店長さんうなずきます。
 コンちゃんが拳を震わせて、
「店長、こんな女、とっとと山に帰すのじゃ!」
「……」
「この女の仕事は山を鎮める事なのじゃ!」
「……」
「それが証拠に、山が火を噴いておるっ!」
 わたしと店長さん、それを聞いてミコちゃん見ます。
 ミコちゃんどこからともなくハンカチ出して、
「そんな……あそこは寂しいんです……クスン」
 あー、泣かしちゃった。
 コンちゃんいけないんだ。
「店長さん、どうします、ミコちゃん泣いてますよ?」
「でも、コンちゃんが言うのも事実だし、帰ってもらうのがいいんだけど」
「え!」
「なに、ポンちゃん?」
「店長さん冷たい!」
「は?」
「ミコちゃん泣いてるのに!」
「……」
「それに、コンちゃんと違ってちゃんと仕事してます!」
「ポンちゃん」
「ミコちゃんお店に置いてあげてください!」
 店長さんちょっと怒ってミコちゃんに方に手を伸ばします。
 そして目をこすっている腕をつかまえてしまいました。
 ミコちゃんの手から白い何かが出てきましたよ。
「ほら、これ」
「?」
 店長さんそれを手に、わたしとコンちゃんの前に出します。
 わたし達それを覗き込んだら、急に鼻がツンとしました。
 涙がじんわり、わいてきちゃいます。
「ななななんですかこれ、涙が出ちゃいます……クスン」
 コンちゃんなんかティッシュで鼻をかんでいます。
 ミコちゃんは愛想笑いを浮かべて、でも、ちょっと気まずそう。
 店長さんジト目で、
「ミコちゃんってさ、結構したたかだよね」
「え、えへへ……」
「ポンちゃん、これ、たまねぎなんだよ、たまねぎ、涙出るの」
「え! たまねぎ!」
「ポンちゃんいつも乗せられたり騙されたり」
「えー、ミコちゃんひどーい!」
 わたしがぶーたれると、ミコちゃん自分で自分にゲンコツしながら、
「だ、だってあそこに帰りたくなかったから」
 コンちゃんが立ち上がります。
「この女狐がっ、出て行けっ!」
 コンちゃんが「女狐」なんて言ったら、なんだかな〜
 あ、コンちゃんついに実力行使です。
 振り上げたこぶしをミコちゃんにパーンチ!
 対するミコちゃんは指を弾いて、
「ゴッドウェーブ!」
 弾いた指先から衝撃波。
 コンちゃんに直撃、すすまみれです。
「け、けほっ!」
「おほほ、お稲荷さま……今はコンちゃん……私にかなうとでも?」
「こ、このクソ女」
「まぁ、女の子が使う言葉でしょうか?」
「ぶっ殺すっ!」
 あわわ、なんだかすごい感じです。
 コンちゃんはもう、さっきから殺気むんむん。
 バックには虎のオーラ出てます、狐だけに!
 ミコちゃんも、本気を出しているのがわかります。
 だってミコちゃんも背中に龍のオーラ背負ってるもん!
「二人とも、今夜外で寝たい?」
 あ、店長さんの一言で虎と龍がしぼんじゃいました。
 コンちゃんもミコちゃんも小さくなってます。
「ミコちゃんも居てもいいけど、ケンカしたら出て行ってもらうよ」
「はい」
「コンちゃんも、仕事サボってないで働いてくれよ」
「は〜い」
 コンちゃんの気のない返事に、店長さんの目に殺気。
「仕事しないなら、ゲーム禁止」
「えー!」
 にらむ店長さんと、頬を膨らませるコンちゃん。
「仕事したら、ゲームしていい?」
「はいはい」
 とりあえず、一件落着みたいです。
 あれ……でも……
「店長さん、ちょっとちょっと!」
「うん? なに? ポンちゃん?」
 わたし、店長さんの腕を引っ張って行きます。
 二人きりになったところで、
「店長さん、わたしにご褒美は?」
「え? なんで!」
「だ、だってわたし、コンちゃん達みたいに悪いことしてないですよ!」
「そ、そうだね」
「わたし、ご褒美欲しいな」
「むー、ご褒美はなにが欲しいの?」
 わたし、目を閉じてキス待ち。
 これで店長さんと恋人です。
 そしていつしか二人は結婚。
 わたし、たくさん子供産みます!
「……」
 でも、ぜんぜんキスしませんね。
 薄目を開けてみます。
 あれ、店長さんいません。
 それどころか、コンちゃんとミコちゃんがいます。
「店長さんはどこに行きました?」
「ポン、おぬしヌルイのう」
「コンちゃん……」
「あーゆー時はこう、抱きついてキスするのじゃ」
 ミコちゃんも微笑んで、
「ポンちゃんは、恋愛はまだまだですね」
「むー!」
 コンちゃんミコちゃんわたしをじろじろ見て、
「胸が!」
 はもって言います。
 わたし、なんだか泣けてきちゃいました。


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NCP5(2008)(adj/2009)
illustration はづきゆう(MK-HOUSE)
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