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■  ポンと村おこし  第10話「人柱さんいらっしゃい」           ■
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「ただいま〜」
 お店に帰ってみると「今日はお休み」の札。
 部屋まで行くと、コンちゃんがお布団の中で大人しくしてます。
 コンちゃんを見守っていた店長さんが、
「あ、ポンちゃんお帰り」
「コンちゃんは?」
「うん、お腹の具合もよくなったみたいだけど」
 店長さんそこまで言って、表情が険しくなります。
「ポンちゃん、その女の人は?」
 店長さん、わたしの後ろに立っている神さまに視線を送ってます。
「あ……その……」
 わたし、テキトーな言い訳考えてませんでした。
 いきなり返事なんて出来ません。
「はじめまして、私は山の神です」
 いきなりな神さまの挨拶。
 店長さんはこめかみをピクピク。
 わたし冷や汗ダラダラ。
 店長さんわたしの腕を引っ張って部屋の隅。
「ポンちゃんちょっと……」
「て、店長さん強引なんだからモウ!」
 途端にゲンコツ投下です。
「ちゃ、ちゃめっけ出しただけなのに!」
「ふざけてないで、説明して」
「え、えっと……コンちゃんの病気が治るように、山の神さまにお願いしたんです」
「ふうん」
「そしたら神さまがついてきて」
「犬や猫じゃないんだから……」
「店長さんタヌキとキツネがいるんだから……」
「出て行く?」
「そ、そんな〜」
 あ、神さまが来ました。
 わたし、そんな神さまを楯にして、
「ほら、店長さん、山の神さまですよ、すごいんです」
 神さまにっこり微笑んで、
「はじめまして」
 店長さん、ムスっとして、
「はじめまして……山の神さまって本当?」
「はい、山の頂上で山を守っていました」
「まぁ……タヌキにキツネもいるから信じるけど……」
「このタヌキさんが壊れた……」
「あーっ!」
 わたし、「壊れた」って辺りですごいピンチを感じました。
 神さまの口を塞いで一時退避。
 部屋を出てから、
「かかか神さま!」
「なんですか、タヌキさん」
「わ、わたしのことは『ポンちゃん』で」
「じゃ、ポンちゃんどうしました?」
「あの、あの、お稲荷さまの人形のことは黙ってて!」
「え?」
「あのことはナイショでお願いします」
「でも……」
 神さま指差します。
 わたし……じゃなくて……後ろ?
 見れば店長さんが腕を組んで立ってます。
「て、店長さんっ!」
「ポンちゃんお稲荷さまの人形ってなに?」
「え、えーっと何でもないですよ」
「今夜、外で寝たい?」
「う……」
 わたしが黙っていると、神さまが代わりに説明してくれました。
「そんな事があったんだ」
「だ、だって、わたし掃除してただけで、悪気なかったもん」
「素直に言えばいいのに」
「なんだか怒られそう」
「悪気がないなら……」
 店長さんはそう言ってくれたけど……途中で表情が暗くなります。
「あー、コンちゃんには黙っていた方がいいな、聞いたら暴走するよ」
「この間みたいにダンプが飛んだりダムが爆発します」
「そうそう……神さまだっけ?」
「はい、なんでしょう?」
「神さまじゃ呼びにくいなぁ……名前は?」
「ひみこです」
「ひ、卑弥呼っ!」
 店長さんプルプル震えています。
 怒ってるわけじゃなさそう。
「ひみこさんですか……じゃ、ヒミちゃんとか?」
「あ、私、ミコちゃんがいいな〜」
「じゃ、ミコちゃんでいきましょう」
「はい、私の事はミコちゃんと呼んでください」
 店長さんまだプルプルしていたけど、
「じゃ、ミコちゃん、その格好じゃなんだから、制服に着替えて」
「はーい」
「ポンちゃん」
「はい、店長さん」
「ミコちゃんと一緒に明日からお店やってね」

 夜、コンちゃんはまだ本調子じゃないみたいで、すやすや寝ています。
 わたしとミコちゃんはお布団を並べてお休み。
「あの、お稲荷さまの人形は直したのに、なんでコンちゃんよくならないんでしょう?」
「ああ、あれはまだ完璧には直ってないんです」
「そうなんだ」
「だから神器のそばに置いて、霊力を借りて直しているんです」
「時間がかかるんだね」
「ですね」
 暗い部屋の中でもミコちゃんはっきり見えます。
 すごく肌が白くて綺麗なんだもん。
「私、すごく嬉しかったです」
「なにがですか?」
「今日、ポンちゃんが遊びに来てくれて」
 遊びに行ったんじゃないんだけど、
「山に祀られて永い間一人ぼっちだったから」
「そうなんだ」
「人とお話するのは楽しいです」
 むー、わたしはタヌキだけど、まぁ、嬉しそうだからいいか。
「神さまなんだから、勝手に出歩けばいいのに」
「そうなんですけど……じゃ、どこに行けばいいんです?」
「え?」
「だって、知った人はもうみんな死んじゃってて」
「あー、ミコちゃん昔から神さまやってるからね」
「はい」
「いつから、なんで神さまやってるの?」
「ずいぶん昔に、なんでも余所から人がたくさん来たんです」
「ふんふん」
「なんでも戦争になりそうだったんですよ」
「ふーん」
「で、あちこちから偉い人が集まって来て、話し合って私を神にしちゃったんです」
「え……」
「私、それまで畑で働いている普通の女の子でした」
「そ、そうなんだ」
「偉い人が勝手に私を神にして、あの場所まで連れて行って……」
 ミコちゃん明るくしゃべってるけど、なんだか嫌な予感。
「私を『人柱』にして埋めちゃったんです」
 あ、やっぱり、なんだかサスペンス劇場です。
「私、お酒をたっぷり飲まされて、知らない間に死んじゃってて……」
「そ、それで神さまになったの?」
「はい、あの山はなんだか地脈とかがあって、霊力てんこ盛なんです」
「今みたいに、神さまになった訳?」
「そうです」
 隣の部屋から音がしました。
 すぐにふすまが開いて、
「話を聞かせてもらった」
 店長さんはシリアスな顔で手招きします。
「ちょっと来て、こっちで話を聞こうか」
「はい、なんでしょう?」
「ミコちゃんは卑弥呼って名前で、人柱にされたわけで」
「はい、その通りです」
「で、山の神さまをやっているのは、地脈を守るためなのかな?」
「最初はそうじゃなかったような気がします……でも、最近はそんな感じです」
「ふうん……」
 店長さん難しい顔してうつむいちゃいます。
 しばらく黙ってたけど、
「で、ポンちゃんのお願いを聞いて、そしてついて来たんだよね?」
「はい、ずっとさみしかったから」
「その……離れて大丈夫なのかな?」
「え!」
「いや、山の神さまってくらいだからさ」
 店長さんがわたしを見ながら、
「この間、村のご神木を切っちゃったんだ」
「あ、わたしが駐車場に植えたのですね」
「そう、ポンちゃんが枝を持ってきて植えたあれ」
 店長さんミコちゃんに目を戻して、
「あの木がご神木って人が勝手に決めたものだけど、ポンちゃんが声が聞こえるみたいだ
から、まんざらご神木ってのもウソじゃないような気がするんだ」
「そうです、長くその場にとどまっていると霊力が備わるんです」
「霊力……」
 わたしと店長さんがはもるのを聞いて、ミコちゃんうなずきます。
「その霊力は、人には神の能力に見えるわけです」
「そうなんだ……」
 店長さん深くうなずいてから、
「本当に山の頂上から離れて……大丈夫?」
 途端に地震が始まりました。
 家具がカタカタ・ギシギシ音を立てます。
「あわわ、店長さん地震です!」
「小さい地震だけど……」
 わたしと店長さん、一斉にミコちゃんを見ます。
 ミコちゃんは改まった顔をして、
「わ、私、今まであそこを離れた事ないから、わかりません!」
 今度は何か爆発音みたいなのがしました。
 真っ暗な筈の窓に、夕日みたいに赤い光!
 わたし、店長さんと一緒に窓を開けて外を見ました。
 山の頂上に火柱が上がってます!
illustration はづきゆう
「火山? 噴火?」
 真っ暗な山の夜に赤い光がきらきらして綺麗。
 わたし、ちょっと見入っちゃいました。
「綺麗ですね〜」
「ぽ、ポンちゃんのんきだね!」
「なんでです? 店長さん?」
「噴火してるんだよ、噴火!」
「噴火? えっと、漫画で勉強してます、花火の親戚ですか?」
 店長さん、なんだか唇噛んで黙っちゃいました。
 わたし、何か悪いこと言っちゃったかなぁ。
 店長さん一人行っちゃいます。
 わたし、ミコちゃんに、
「ねぇねぇ、あの綺麗なの、何か大変なの?」
「え、えっと、山火事とかなっちゃうかも」
「それは、ミコちゃんの能力でなんとかならないの?」
「えーっと、山の頂上の社に戻ったら収まるかも」
「じゃ、帰りましょう」
「え……そんな……」
 ミコちゃんすぐに目に涙が溜まります。
 この目をされると「帰れ」なんて言えません。
「でも、あの花火みたいなのが収まらないと困るし」
「すぐに大事にはならないから、もうちょっとここにいさせてください〜」
「て、店長さんが許してくれればいいんだけど〜」
「ポンちゃんからもぜひ!」
「うー!」
「ポンちゃんっ! ポンさまっ! ポン先輩っ!」
 ああ、その「先輩」って響きステキ!
「よーし、先輩におまかせっ!」
「さすが、ポン先輩っ!」
 ミコちゃん拍手してます。
 えっと、冷静に考えたら、なんだか乗せられちゃったのかな?
 でも、約束したからには店長さんに話さねばっ!
 って、振り向いたらもう店長さんいます。
「え、えっと、店長さん話全部聞いてました?」
「うん……ポンちゃん乗せられてるから」
「で、でも、ミコちゃん山に帰れっていうのも、ちょっとかわいそう……」
「かわいそうって……山、火噴いてるんだよ、大変なんだよ」
「で、でも、もしかしたらすぐに収まるかもしれないし!」
「……」
「あ、あんなに火がぼんぼん出るなら、温泉も出るかも!」
 言っても言っても店長さんムスッとしてます。
 こういう時はどうしたら……
 そう、こーゆー時は女の武器を使うんです。
 でも、わたしも学習してるんです。
「一肌脱ぐ」じゃないんです。
 わたし、自分で自分をつねります。
 店長さんに見えないように。
 痛くて涙がすぐに溜まっちゃいますよ。
「店長さん、おねがい、クスン」
 もう涙あふれちゃいます。
 そう、女の涙は最終兵器なの。
「この手は何してんの?」
「え!」
 自分をつねっていた手、店長さんに捕まっちゃいました。
「もう、ポンちゃんもなんだかコンちゃんに似てきたよ」
「えー!」
「ミコちゃんのことはわかったから……」
「え、じゃ、居ていいんです?」
「でも……大事になったら山に帰ってもらうからね」
 とりあえずミコちゃん、ここに居ていいんだって。


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