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■  ポンと村おこし  第8話「店長さんにアタック」             ■
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「ねぇ、コンちゃん」
「なんじゃ、ポン」
 朝のパン屋さん。
 もうお店の方の準備は終ってて、あとは開店を待つばかり。
 わたしはコンちゃんの祠の掃除をやって、ご神木に水やり。
 コンちゃんは今、歯を磨いている最中です。
 朝のコンちゃんはスケスケな寝巻きなんだけど……
 髪はボサボサでセクシー半減です。
 歯を磨いている最中は、なんだかお腹を掻いたりしてますよ。
「コンちゃんその寝巻き、恥ずかしくない?」
「なんじゃ、これか?」
「うん……スケスケ」
「これがいいんじゃ、わかってないのう、ポンは」
「だ、だって……」
「これを見たら男どもはイチコロなのじゃ」
「でもでも店長さんには通用しませんよ」
「ふん、あーやって気のない素振りで実はちらちらとわらわを見ておるのじゃ」
「あ! それはあるかも!」
 わたしの手のジョウロから水がなくなります。
 コンちゃんの方を改めて見ると……正直目のやり場に困っちゃいます。
「店長さん怒ってるんじゃないです?」
「なんでじゃ?」
「だって、その格好はちょっと……どこ見ていいのか」
「ふむ、ポンはどこを見ていいのかわからんか……どこに目がいくかの?」
「そ、それは……その」
「ここか? 胸か? のう?」
「うう……胸とかお尻とか……」
「ポンもエッチじゃのう」
「こ、コンちゃんが聞いたのに!」
 コンちゃん腕でもって胸を強調するポーズ。
illustration はづきゆう
「店長は怒っている振りをして、わらわにぞっこんなのじゃ」
「そ、そんな〜」
「ポンが結婚する前にわらわがゲット!」
「うう……」
 じっとコンちゃんを見ます。
 スタイルばっちりです。
 わたしが山で勉強した雑誌にも載ってたのに負けないプロポーション。
 コンちゃんにはかないませんよ!
「うう……」
「なんじゃ、ポン、いつもみたいに『コンちゃんなんかおばあちゃん』とか言わんのか?」
「うう……だってコンちゃんのスタイルが良いのは本当なんだもん」
「ああ、つまらん、ポンが怒るのが面白いのに」
「むー!」
 わたし、自分の胸を触ってみます。
 この間「どら焼き」って言われました。
 ずばりな表現です。
 でも、どら焼きよりはやわらかいと思うんだけど……
「なぁ、ポンよ」
 コンちゃんが口をよそぎながら言います。
「おぬしは店長に命を救われた……んじゃよな?」
「うん、お腹空いているところを助けてもらったから」
「それで、恩返しでここにおるわけなんじゃよな?」
「うん」
「で、ポンは恩返ししておるのか? 恩返し出来ておるのか?」
「!!」
「ポンは恩返しとは、どんな事と思っておるのじゃ?」
「そ、それは……」
 わたし、考えちゃいました。
 言われると、すぐに出てきません。
「そ、それは……」
「どうじゃ、ポン、おぬしの恩返しを言うてみい!」
「え、えっと……」
 わたしが山に捨ててある本で勉強した事……
 そう、男の人は女の子に胸をときめかせるんです……
 だから、女の子の姿になって恩返しに来たんです……
「わたしは捨ててある本で勉強したんですっ!」
「おお、で、どーするんじゃ!」
「そ、それは女の子なんでやっぱりセクシー!」
「は……」
「だ、だからセクシーで……セクシーで……」
 コンちゃんを見ると、開いた口が塞がらないみたいです。
「な、なんです! コンちゃんが聞いてきたから言ったのに!」
「い、いや、ポン、おぬしの口からセクシーなんて言い出すとは思わなんだ」
「え?」
「いや、ポンはもっと清純なのかと思ったが、おぬしもう処女ではないのか?」
「きゃー!」
「まだ……よのう?」
「わたしの初めては店長さんに捧げるんですっ!」
「ふむ……では、とっととセクシーで恩返しすればよいではないか」
「えっ!」
「わらわみたいに、スケスケで迫るのじゃ、持っておらぬなら貸すが?」
「そ、その格好をするのは……こっぱずかしい……」
「おぬし、何をするのか知っておろう、はずかしがるところか」
「そ、そんな〜」
 わ、わたし捨ててある雑誌で勉強してるけど、やったことないもん。
「コンちゃんわたしにも出来る作戦ないですか?」
「むー、しょうがないのう、この狸娘は頭でっかちで困るわい」
 コンちゃん考えてから、一度お店に引っ込みました。
 すぐに一冊の絵本を手に戻ってきます。
 お子さま用の絵本。
「これ、読んだことあるかの?」
「ふえ?」
 見れば「鶴の恩返し」。
「これはお店の本棚にある絵本ですよね……読んだことないです」
「ポン、おぬし余計な知識ばっかりで、こーゆー基本がなってないのう」
「き、基本っ!」
「そうじゃ、この通りにするんじゃ!」
 パラパラめくって読んでみます。
 子供向けで字が少ないからあっという間におしまい。
「コンちゃん……わたしはタヌキで鶴じゃないから……飛んで行けません」
「バカかおぬし、恩返しのところが大事なのじゃ」
「え……毛で織物なんかしたら風邪ひいちゃいます」
「痛い……じゃないのか?」
「そ、それは痛いけど……」
 わたし、やっぱりわかりません、鶴じゃないから!
「むう、ポンは本当に世話がやけるのう……」
「だ、だって〜」
「よし、わらわが手本を示してやる」

 夜、夕飯が終ってお風呂も終りました。
 テレビを見て、あとは寝るだけです。
『コンちゃんお手本は?』
『うむ、今からやるから、よく見ておけ』
 わたしとコンちゃんは一緒のソファーで、店長さんは向かいのソファー。
 コンちゃんが立ち上がって、
「うむ、もう寝るとするかのう」
「コンちゃんおやすみ」
「店長も一緒に寝るかの?」
「うんにゃ」
「てれずともよい」
 コンちゃん言いながら、一人お布団の部屋に向かいます。
 ふすまを開けて、隣の部屋へ、
「店長、そんなに女の誘いを断るとは……」
「女っても、お稲荷さんだし……」
「ふん、恥をかかせおって……クスン」
 あれれ、コンちゃん泣いてますよ。
 目をこすりながら、
「謝っても、ゆるしてあげないんだから!」
 なんだか言葉遣いもいつもと違います。
 ふすまが閉まって、わたしと店長さんだけ。
「店長さん、コンちゃん泣いてましたよ」
「なんだかウソ泣きっぽかったけどな〜」
「見にいかなくていいです? へそ曲げてるかも!」
「……」
 店長さん、なんだか浮かない顔で立ち上がると、ふすまを開けます。
「コンちゃんなにを……」
 ふすまの向こうには、裸のコンちゃん!
「店長……わらわは裸を見られたからには……もう」
「……」
「責任取って!」
 コンちゃん瞳をウルウルさせて、店長さんに抱きつきます。
 う、うまい、こーやって店長さんのハートをつかむのか!
 ふすまを閉めていて、開けるといきなりで、逃げられないのがミソみたいです。
「好き……」
 コンちゃん瞳を閉じて、店長さんの背中に腕を回してます。
 ああ、いいな〜、わたしもあんなに抱き合いたい。
 店長さんも、コンちゃんの背中に腕を回しました。
 こ、恋人みたいですよ。
「ぐえ……」
 でも、なんだかカップルの台詞には合っていない声がしました。
 見ればコンちゃんぐったりしてます。
 店長さんそんなコンちゃんにパジャマを着せて、お姫さま抱っこして、布団に寝かせちゃ
いました。
「て、店長さんどうしたんです?」
「コンちゃんいつもふざけてばっかで……こう、ぎゅっと抱きしめて気絶させたの」
「この間もやってましたね」
「ポンちゃんもやってほしい?」
 わたしブンブン横に首を振ります。

 でもでも、なんとなく作戦はわかりました。
 ふすまを開けさせるのがいいみたいです。
 開けたら「言いがかり」をつけて、既成事実完成。
 わたしも作戦実行するしか!
「店長さんおやすみなさい」
「ポンちゃんおやすみ」
「店長さん、わたしが部屋に入ったら、ふすまを開けてはいけません」
「……」
「ではでは、おやすみなさい」
 ふふふ、「鶴の恩返し」だってそうです。
「開けたらダメ」って言われると、開けたくなるんですよ!
 ふすまを閉めて、あとは店長さんを待つばかり。
『ポン、うまく持ち込んだの!』
『コンちゃん起きてたんです?』
『うむ、なんだか寝かされたところで目が覚めた……どうなったかさっぱりわからん』
『そうですか』
『しかしさっきの台詞だけで店長が来るかの?』
『ダメって言われたら、やりたくなるものなんです!』
『おお、ポンもなかなかやるのう』
 あ、店長さんの足音が近付いて来ます。
 早く脱がないと……でも、はずかしいから下着は着てよう。
「ポンちゃん!」
 ふすまが開きます。
 店長さん、隣の部屋の明かりを背にシルエット。
「ててて店長さん開けちゃいましたね!」
「……」
「わわわわたしは正体を見破られたからには……」
「鶴の恩返しだと、出て行かないといけないんだよね」
 シルエットだった店長さんの顔が見えてきました。
 笑ってるけど、ひきつってて、怒ってます。
「え……わたしコンちゃんから既成事実って」
 と、とりあえずコンちゃんのせいにしちゃえ。
「わらわはそんな事言ってな〜い!」
 コンちゃん起き上がって大否定。
 店長さんの肩が震えてます。
 にっこり笑顔の額に「怒りマーク」。
 そんな「怒りマーク」がピクピクしながら大きくなります。

 村の夜は暗いです。
 お店の前なんか駐車場で、本当に真っ暗。
 わたし、コンちゃんと一緒にお店のドアの前。
「ポン、おぬしのせいで追い出されたではないか!」
「こ、コンちゃんの言う通りやっただけだもん!」
「おぬしなんか好かん!」
「わ、わたしだって!」
 でもでも、離れられません。
 だって山の夜は寒いんです。
「ねー、コンちゃん、なにか別の作戦はないんですか?」
「むー」
 コンちゃん考える顔をしてから、
「大きなつづらと小さなつづらの話なんかどうかの?」


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illustration はづきゆう(MK-HOUSE)
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