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■  ポンと村おこし  第7話「まだまだ村おこし」              ■
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 お日さまも傾いて赤くなってます。
 お店の中はコンちゃんの見ているテレビの音だけ。
「ふう、今日もおしまいです」
 わたしはドアに「今日はもう終わりました」の札を下げて、
「今日はパン、残っちゃいましたね」
 わたし、パンを集めてまわります。
 コンちゃんはあいかわらずテーブルでぼんやり。
 残ったパンは食べていいから、テーブルに持っていきます。
「おお、ポン、もう店終いか」
「うん、コンちゃん今日も何もしなかったね」
「わらわはポンと違って神なのだよ神、いるだけでご利益じゃ」
「本当かなぁ」
「ポン、言うようになったのう」
「だってコンちゃん何もしてないもん」
「だ〜か〜ら〜!」
 するとパン工房から店長さんが出てきます。
「お疲れさま〜、今日は……そんだけ残ったんだ」
 店長さんもテーブルに着きます。
 残ったパンを食べながら、
「工事も中断で村も残ってはいるんだけど……」
 店長さんの言葉に、わたしもコンちゃんも注目。
「このままだと、お店が潰れちゃうよ」
「コンちゃん!」
「な、なんじゃポン、いきなり!」
「コンちゃん働いたらいいんです!」
「え?」
「コンちゃんこの間の勝負で勝ったんだから、お色気ですよ!」
「え!」
「コンちゃんぼんやりしている場合じゃないです!」
「……」
 コンちゃんジト目でわたしを見てます。
「ポン……おぬしこの間テレビの取材を受けたじゃろう」
「わ、わたしはお店にいただけ」
「おぬしのアピールが弱いから、客足が伸びんのじゃ」
「えー!」
 そう言われると、なんだか責任感じちゃいます。
 うう……わたしのせいなのかな?
 コンちゃんすまし顔で、
「わらわがレジに立つ日は売上抜群じゃ」
「う……」
「ポンなんか『かかし』じゃ、かかし!」
「ううっ」
「もう狸汁になって口減らしじゃ」
「くすん」
 なんだか涙があふれてきちゃいます。
 でもでも、コンちゃんがレジに立つ日は、本当に売上いいんです。
 やっぱりコンちゃんご利益パワーなのかな?
「あのさ、コンちゃんさ」
「なんじゃ、店長、言いたい事があるかの?」
「コンちゃんレジに立ってるの土日だけじゃん、平日に比べて売上いいに決まってるじゃ
ん」
「むっ!」
「そんなにご利益あるんなら、平日にレジに立ってよ」
「うう……」
 ああ、店長さんのお言葉にコンちゃん髪がうねってます。
 でもでも図星なのか、なにも出来ないみたい。
「ふん、この村に人が集まるようなものがないのがいかんのじゃ」
 コンちゃん言って、そっぽ向いちゃいます。
 コンちゃんご利益ってその程度なのかな?
 この間はダンプを吹き飛ばしたり、ダムを壊しました。
「おっ!」
 店長さんが売れ残りのパンを食べながら声。
 見ればテレビで温泉特集です。
 広いお風呂に白い湯気。
 女の人が何かしゃべってます。
「この温泉、近くなんだ」
「きゃーん、温泉ステキー!」
 コンちゃんいきなり店長さんに抱きつきます。
 わたしは……テレビを見ながら、
「ここにも温泉あったらお客さん増えますか?」
「うん、そうだね」
「この温泉は近くなんですよね……ここも出ませんか?」
「うーん、どうだろう……考えた事もないから」
 店長さん考える顔をして黙っちゃいます。

 家のお風呂は……温泉よりずっと小さいです。
 湯船でコンちゃんのびのびしながら、
「店長ははずかしがり屋じゃのう、遠慮せんでもよいのに」
「コンちゃん積極的ですね」
「ふむ、体には自信あるからの」
 コンちゃんが湯船の縁に体を預けて、
「まぁ、ポンの体ではまだまだ……」
「?」
 いきなりコンちゃんの手が伸びてきて胸を揉みます。
「こここコンちゃん何をっ!」
「い、いや……こう……どら焼き級?」
 どら焼きはお店でも作っているから知ってます。
 むー、わたしがどら焼き……
 コンちゃんは大きなメロンパン?
「ど、どうしたらそんな大メロンパンみたいになるんです!」
「め、めろんぱん……ポンも言うのう」
 コンちゃんまだ揉んでます。
 とりあえずその手から逃げると、
「わ、わたしも大きく……なるかなぁ」
「うむ、それは揉んでもらうとよいのじゃ」
「じゃ、コンちゃん揉んでいいよ」
「バカ、店長じゃ、好きな男に揉んでもらうとよいのじゃ」
「えー! そんな、恥ずかしい!」
「店長のこと、好きではないのか?」
「どどどどーして店長さんに揉んでもらうと大きくなるんですっ!」
「ふふふ……それは愛の力じゃ、愛!」
「あああ愛っ!」
 わたし、自分の胸を見て、コンちゃんの胸を見ます。
「こここコンちゃんっ!」
「なんじゃ?」
 わたし、コンちゃんの手を払ってコンちゃんの胸にタッチ!
illustration はづきゆう
「うわ、なんじゃポン!」
「こここコンちゃんは店長さんに揉んでもらったから、おっぱい大きいんですかっ!」
「い、いや、それは違う……」
「だ、だって大きなメロンパン!」
「わらわはポンと違って最初から育ちがよいのじゃ!」
「本当ですか! 店長さんじゃないんですか!」
 コンちゃん顔を真っ赤にして、
「もうそこまで行っておれば、今頃一緒に風呂に入っておる!」
「抜け駆けしたら、ゆるしませんよ!」
「せぬせぬ、安心せい」
「コンちゃんならやりかねません!」
「むー、どうしたものかの、信じるのじゃ」
 わたし、コンちゃんの胸から手が離せません。
 このボリュームに揉み心地、どうしたらこうなるんでしょう!
「ねぇ、コンちゃん!」
「な、なんじゃ……もう胸はよさぬか……ちょっと変な気持ちに……」
「コンちゃん……コンちゃんわたしの事好き?」
「?」
「ねぇ!」
「まぁ、嫌いではないのう、一応ここでは先輩じゃし」
「じゃ、わたしの胸、揉んで!」
「は?」
「コンちゃん揉んで!」
「う、うむ……ほれ、どうじゃ?」
 コンちゃんがわたしの胸を揉みます。
「どう? コンちゃん!」
「は? なにがじゃ?」
「わたしのおっぱい、大きくなった?」
「い、いや、だから、その……」
「こ、コンちゃんが揉んでも胸、大きくなりません!」
「ポン……」
「コンちゃんのわたしへの愛はその程度!」
「なにを錯乱しておるのじゃ、店長に揉んでもらえ、店長に!」
「愛だけじゃダメなんですか!」
「ポン……おぬし、わらわに揉んでもらって嬉しいのか?」
「大きくなれば、何だっていいんです!」
「必死じゃのう……」
「コンちゃんはそんな大メロンパンみたいだから何だって言えるんですっ!」
「あのな……」
「なんですっ!」
「店長はそーゆー胸が好きかもしれんぞ、貧乳好き」
「じゃ、わたしどら焼きでもいいですっ!」

 でもでも、お店にお客さん来ないと困ります。
「店長さん、どうしたらいいでしょう?」
 お店が暇なので、聞いてみました。
「うん、昨日言わなかったっけ、温泉とかあればね」
「温泉……パン屋さんとは関係ないのでは?」
 わたしが首を傾げていると、店長さん笑って、
「パン屋に温泉は直接関係ないけど……」
「?」
「温泉に入りに人が来たら、ここにも寄ってくれるよね?」
「!」
「隣の豆腐屋さんも有名なんだけど、やっぱりもうちょっと何かあれば人は来やすいんじ
ゃないのかな」

 温泉は地面に深い穴を掘ったら出てくる……店長さんが言ってたので、ダム工事の現場
に行ってみました。
 ダム工事は……コンちゃんのせいでダムも山も壊れちゃったから中断してるんだけど、
道の工事は今もやってるの。
「あの〜」
「お、パン屋の娘がどうした?」
 この間コンちゃんに心臓マッサージされた現場監督さんが出てきます。
「あの!」
「うん?」
「ここに温泉とか出ませんか?」
「うーん、うちはボーリングとかしないからなぁ」
「そ、そうなんですか、工事屋さんは詳しいかと思いました」
「温泉、近くにあったから連れてってもらえばいいじゃないか」
「ダメなんです、ここに温泉ないと」
「?」
「温泉があると、人が集まるんです」
「あー、なあるほどね」
「わかりましたか?」
 そんな監督さんの後ろで、何か粉が舞い上がってます。
 すごい音でうるさいです。
「何の音です?」
「あー!」
 監督さんが退いてくれると、大きな木を切ってる最中。
 横に停まってる車よりも太いです。
「木を切っちゃってるんですか?」
「うん」
 なんだか監督さん、表情が暗いです。
「どうかしたんです?」
「うん、この木、あんまり切りたくないんだ」
「?」
「この辺のご神木らしいから」
「ご神木……神さまなんです?」
「らしい……よ」
「はー!」
「地元じゃないからわからないけど、まぁ、こんだけ大きいと気も引けちゃうし、でも、
工事はしないといけないし」
 木を切っている人が合図します。
 大きな木はミシミシいいながら倒れちゃいました。
 地響きがしてびっくりです。
「なんだか、ちょっと寂しいです」
「まぁ、なぁ、俺の田舎もこんな感じの所だから、ちょっとなぁ」
 監督さんは寂しそうな顔で行っちゃいました。
 倒された木はわたしの背丈よりも大きいです。
 そんな木を触っていると、
『タスケテ……』
「!」
『タスケテ……』
「助けて……?」
『狸娘よ助けておくれ』
 木に触っていると声が聞こえてきます。
「でもでも、切り倒されちゃって、わたしじゃ元に戻せません〜」
『枝を一本、持ち帰ってくれればよい』
「枝でいいんですか? これとか?」
 わたし、一つ枝を折ってみます。
 今度は枝から声がします。
『家に持ち帰って、庭先に植えておくれ』
 早速パン屋さんに戻って、駐車場の隅に植えました。
「ポンちゃん何してるの?」
「あ、店長さん、ご神木がですね……」
「ああ、あの大きな木、子供の頃遊んだよ」
「あの木が切り倒されちゃったんです」
「うん……この間回覧版で読んだ、今日だったんだ」
「ご神木が枝をここに植えてくれって」
「ふーん、ポンちゃんそんな能力があったんだ」
「店長さん、これでご神木は、神さまは大丈夫なんでしょうか?」
 枝だけになっちゃったから、すごく心配です。
 でもでも、店長さんは優しく微笑んで、
「ポンちゃんが来てからコンちゃんも来たくらいだから、きっとこのご神木も大丈夫と思
うよ」


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NCP5(2008)(adj/2009)
illustration はづきゆう(MK-HOUSE)
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