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■  ポンと村おこし  第6話「ダム壊れちゃった」              ■
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 今日の仕事も終わり。
「今日はもう終わりました」の札をドアに下げます。
「なぁ、ポンよ」
 テーブルの方から声。
 コンちゃんはティーカップを片手に、目で「こっちに来い」って言ってます。
「コンちゃん……」
「どうした、ポンよ、元気のない」
「コンちゃん……」
「心臓マッサージでもしてやろうか」
「……」
 怒ってる視線送っちゃいます。
「な、なにもそんな目で見ないでもよいではないか」
「コンちゃん仕事しないし、ふざけてばっかりです」
「わらわがこうしていると、ポンの仕事っぷりが良く見えるじゃろう」
「コンちゃん……コンちゃんダムが出来たら死んじゃうんですよ」
「運命(さだめ)じゃ」
「わたし、嫌です」
「おぬしもお人好しじゃな、わらわが死ねば、店長はおぬしのモノだ」
「そんなの、コンちゃんがいてもいなくてもわたしのモノだもん」
「くく……ポン、言うな、おぬしも」
「コンちゃんとちがって、わたし、若さがあるもん」
「胸はないな」
「若さ」
「ほれほれ」
 コンちゃん胸を強調ポーズです。
 くく……くやしいっ!
「わらわも、あの男に充分な容姿で……」
「コンちゃんなんか平家時代のおばあちゃんがにじみ出て……」
 途端にコンちゃんの髪がうねうねヘビみたいに動き出します。
「なんじゃ、もう一度言うてみ」
「だ、だって、コンちゃんが先に胸って!」
「言うただけじゃ」
「もう!」
「今朝は祠で手を合わせてくれたな」
「!!」
「ポンの気持ちはよくわかった」
「コンちゃん……」
「でもな、ダムができれば村も沈む」
「……」
「運命(さだめ)なんじゃ」
「コンちゃん……」
 涙がこみ上げてきます。
 コンちゃんが、背中をトントンしてくれました。

 そして新しい一日。
 祠をお掃除して、お店を準備して、今日も頑張ります。
 おばあちゃんも言ってたから、ともかく売るんです。
「おお、ポン、何を力んでいるんじゃ」
「わたし、パンをたくさん売るんです」
「ほう」
「そして、このお店を大きくするんです」
「ふむ」
「お城みたいに大きくして、そしたらダムに沈みません」
「ぷ!」
「あ、コンちゃん笑いましたね!」
「い、いや、ポンらしいと思って」
「今のわたしに出来るのは、そんな事です」
「まぁ、頑張るがよい」
「ふふ、わたしの頑張りに、コンちゃんもびっくりします」
「そうだ……昨日そんな事を話したな」
「ふえ?」
「わらわが何もせぬ……ポンは言うたな」
「うえ……」
「ふざけてばっかりとか……言うたな」
「そ、それは、その、成り行きで……」
「よーし、わらわも働くとしよう、ポンと勝負じゃ」
「え!」
「どっちが余計に売れるか勝負じゃ」
「え、えっと……どうやって……」
「ポンとわらわのどっちの前に並ぶかでわかるじゃろう」
 そ、そんな反則です。
 セクシーじゃコンちゃんの勝ちですよ!
 ああっ、コンちゃん笑ってます。
「ふふ、若さとやらで、売ってみるがいい」
 こ、こっちの気持ち、筒抜けです。
「ふふ、その服で不足なら、バニーさんや水着姿にしてやろうか?」
「ええっ!」
「ふふ、わらわの神の能力を持ってすれば、たやすいぞ」
 コンちゃんが腕を振ると、わたしのメイド服が水着になります。
「わわっ!」
「くく……ポンの体型では、酷かの」
 またコンちゃんが腕を振ります。
 今度はわたし、バニーさんです……タヌキなのに。
illustration はづきゆう
「コ、コンちゃんっ!」
「なに、まだ不満か、かわいいのに……そうか、胸か!」
 コンちゃんが腕を振ると、胸が増量……詰め物が入ります。
「さて、これでハンデもなしじゃ、勝負勝負!」
 すると、轟音がして、ダンプが店の前に並びます。
 いつもは夕方に来る工事現場の人が、ぞろぞろやってきました。
 ドアが開いて、カウベルがカラカラ鳴ります。
「今日は朝から来たぜ〜」
 現場の人たちは、ぞろぞろ入ってきます。
 パンを選んで回る人たち。
『ココココンちゃんっ!』
 わたし、コンちゃんに目で言います。
『この服、なんとかしてくださいっ!』
『なんじゃ、不満か?』
『ちょ、ちょっと恥ずかしい……』
『なかなかセクシーじゃぞ、若さは良いのう』
『わわわわたしはいつもの服の方がいいですっ!』
『てれずともよい』
『ももも元に戻して〜』
『今は客もおる、後にせい』
『むー!』
 いきなり脚にさわさわと……コンちゃんが触ってます!
『あー、若さとは、良いのう』
『コンちゃんなに触ってるんですっ!』
『ポンのひけらかしてた若さにあてられておるのじゃ』
『もう!』
 そんな事をやってるうちに、一人目が並びます。
 コンちゃんの前です。
 みんな、わたしを一度は見ます。
 でも、なんでかコンちゃんの前に並んじゃう。
 な、なんで?
「おぬしら、なんでこっちに並ばん、さばけんじゃろうが」
「い、いや、さすがにバニーさんは、ちょっと……」
 うう……この格好はマイナスみたいです。
 がっかり……せっかく恥ずかしい格好したのに。
 この勝負、もうコンちゃんの勝ち確定ですよ。
 せめてお手伝いに、パンを袋詰めにしちゃいます。
「今日はツンデレメイドじゃないな」
 現場監督さんが、コンちゃんに言います。
「まぁ、気分転換にな」
「相変わらず口のききかたは……」
 監督さん、にこにこしながら、こそっと手を動かしました。
 電光石火、コンちゃんのお尻をタッチ。
 にやりとする監督さん。
 ぱちくりとするコンちゃん。
「いつもは座ってて、触ることもできねーからな」
 わたし……袋に詰める手が止まっちゃいました。
 隣でレジを打っているコンちゃんが、ぷるぷる震えています。
 こ、この空気は、地震や噴火の前触れそっくり!
「おーぬーしーらー!」
「!!」
 監督さんも、空気を察したみたいです。
 でも、もう遅いよ。
 コンちゃんの髪、いつにも増してうねってるもん。
「よくも、わらわのしっぽに触れたな!」
「し、しっぽ!」
「神の祟りを受けよっ!」
 コンちゃんの手が、固く握りしめちゃって、横に振られます。
 お店の中にそよぐ風。
 でも、店の外に並んでいるダンプはまるでホームランみたい。
「人間風情が、おそれを知らぬな」
 コンちゃんがまた手を振ると、お店がカタカタと揺れはじめます。
 地震ですよ、これもコンちゃんパワー?
 監督さんも、現場の人たちも、一斉に逃げ出しました。
「逃がすものかっ!」
 ああ、コンちゃん必殺の心臓マッサージ。
 この心臓マッサージは「蘇生」じゃなくて「必殺」です。
 途端に駐車場でうずくまる人たち。
「コンちゃんコンちゃん、死んじゃうよ」
「かまわんっ!」
「ててて店長さんが、たぶん迷惑!」
「ぬう……」
 とりあえず、心臓マッサージは中断。
 でもでも、うずくまってる人たちはピクピクして動けないみたいです。
「あー、もう、気が収まらんっ!」
「ちょ、コンちゃんなにをっ!」
「ふんっ!」
 コンちゃんがパンチ!
 窓の外に見えていたダムが爆発!
「あ、あわわ……」
「あー、すっきりした、よくもしっぽを触りよって、あれに触れてよいのは店長くらいな
ものじゃ」
 店がうるさいのに、店長さんパン工房から出てきました。
「うるさいよ、二人とも、お客さん来てたみたい……」
 そこまで言って、店長さん固まっちゃいます。
 窓の外の景色が……ダムが、山が壊れてます。
 わ、わたしだって、びっくりです。
 店長さん真っ青になって、
「こここコンちゃん、なにやってんの?」
「あのむさくるしい連中が、わらわのしっぽに触ったから懲らしめたのじゃ」
 コンちゃん頬を膨らませて、指をさっと振ります。
 まだ残っていたダムが、ヒーロー番組みたいに爆発。
 山も轟音を響かせ、揺れ揺れです。
「やめやめやめっ!」
「おぬしも邪魔するかっ!」
 コンちゃんが宙を揉むと、店長さん悶え苦しみます。
 こ、こんな時は、
「こ、コンちゃんっ!」
「なんじゃっ!」
「いなり寿司がありますよ!」
「きゃーっ!」
 コンちゃん恋する少女の瞳です。
 すごいご長寿なんだけど。
「はやくはやく!」
「……」
「い・な・り・ず・しっ!」
「ごめん、ウソ」
 わたし、一目散に逃げちゃいました。
 ウソも方便って言葉があるんですよ。

 ダムも壊れて、祟りもあるから、工事は中断です。

 村はまた、のんびりした時間が過ぎています。
 わたしは七つの傷の伝説が嫌だったから、いいかな。
 それにコンちゃんも生きているし、店長さんも一緒だもん。
「この店にはウソつきがおる」
 コンちゃんはこの間から、へそを曲げてます。
 でも、働かないのは一緒だよ。
 店長さん怒って、
「この女狐がっ!」
「おう、おぬし、逆らうか!」
 テーブルでお茶を飲んでいたコンちゃん、店長さんにらんで心臓マッサージです。
 店長さん、目をつむって手鏡シールド。
「ほら、呪いの反射!」
 鏡に……コンちゃん目が点になって、胸を押さえて苦しみだします。
「ぐぐぐ……し、死む!」
 コンちゃん心臓マッサージやめればいいのに、変なの。
 そんなお店のカウベルが、カラカラ鳴ります。
 綺麗なお姉さんと、男の人が何人か。
 現場の人たちとは違うけど、サングラスでちょっとこわい感じです。
 まぶしい光に包まれる店内。
「いいいいらっしゃいませ〜」
 わたし、またこわい思いするかと……どきどきだよ。
「今回の突撃名店試食レポートはっ!」

 お店にやってきたのは、テレビ局なんだって。
 村がちょっとでも、にぎやかになってくれたらいいな。
 わたしは、ちょっとは役に立ったんでしょうか?
 ねぇねぇ!


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NCP5(2008)(adj/2009)
illustration はづきゆう(MK-HOUSE)
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