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■  ポンと村おこし  第4話「コンちゃんも死ぬの?」            ■
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「いらっしゃいませ〜」
 ドアが開いてカウベルがカラカラと鳴ります。
 山の中のパン屋さん。
 平日なのに、大繁盛。
 それはわたしの「せくしー」……じゃなくて、単にダム工事の現場の人が買いに来てく
れるんです。
「今日も買いに来たぜ、コンちゃんよ〜」
 作業着のおじさんやお兄さん達は、店のテーブルでぼんやりとしているコンちゃんにそ
んな挨拶。
 コンちゃんは……いつも店内飲食スペースでくつろいでいます。
 なんでも神さまなんだから、働いていられるか……なんだって。
「うむ、店のパンを買う事を許す、汗くさいから、早く済ませよ」
「わはは、コンちゃん『ツンデレメイド』板についてるな」
 現場の人達はコンちゃんの口撃にもにこにこ顔で、パンを買うと行ってしまいます。
 ダンプが轟音を立てて行っちゃうのは迫力満点!
「うむ、ポンよ、ちょっと……」
 コンちゃんがテレビを指差しながら呼んでますよ。
 なにかな?
「ポン、これを見い、これを」
「コンちゃんなんです?」
 テレビの中では、女の人がお店を紹介しています。
「今回の突撃名店試食レポートは……ジャンボいなりで有名な……」
 大きないなり寿司がアップで映ってます。
 コンちゃん……うっとり見とれてますよ。
 恋する乙女の瞳になってます。
「ポン……この大きないなり寿司を買ってくるのじゃ!」
「美味しそうですね……」
 良い考えが思いつきました!
 このお店も、テレビに出たら、きっともっとたくさんお客さんが来ます!
「ポンちゃんお疲れ、どう、全部売れた?」
 店長さんがパン工房から出て来ました。
 わたし小走りで向かっちゃいます。
「店長さん、また工事現場の人が全部買ってくれました」
「この辺で食べ物屋ここくらいだしね」
「全部売れると嬉しいですね」
「だね」
 店長さんが頭を撫でてくれます。
 褒められると、嬉しいな。
 ここで勢い抱きついちゃえ……って思ったら、店長さんさっさと行っちゃいます。
 モウ、乙女心を解ってないんだから!
 店長さんはコンちゃんの席まで行くと、ゲンコツ投下です。
 なんだか重い音がして、コンちゃんの頭から★3つ。
「うっ! おぬし、何を叩く!」
「コンちゃんお客さんになんて口きくかな〜」
「あんな薄汚れた格好で店に入ってくる方がおかしいのじゃ」
「店員さんが席陣取って働きもしないでお茶してる方がおかしいっ!」
 あわわ、店長さんとコンちゃんにらみあってます。
 先に目を逸らすのはコンちゃん。
「ふん、わらわは山の神なのだぞ、おるだけでご利益てんこ盛じゃ」
「山の神かなんか知らないけどさ……」
「なんじゃ?」
「あれ、見える? 黄色い車、移動販売するの」
「?」
「ここがダムに沈むと、店なくなっちゃうだろ」
「ああ、うむ、そうじゃな」
「そしたら、あの車で公園なんかでパン売るの……そうしたら、もうコンちゃんみたいな
働かないのはいなくていいな〜」
 うわ、なんだか今日の店長さん、感じ悪いですよ。
 にやにやしてコンちゃんを見下ろしています。
 コンちゃん、ムッとして見上げてる。
 ああ、コンちゃんの肩がぷるぷる震えてます。
 すごく嫌な予感が、予感が!
「なんじゃ、おぬし、わらわが要らぬとでも?」
「うん」
「ほう」
「働かない店員は出て行け〜」
「いやじゃ」
「!」
「わらわはここにおるだけで、お稲荷さまパワーを与えておるのじゃ」
「ウソつけ」
 店長さん怒った顔で、手が出ます。
 別に叩いたりとかじゃないよ。
 店長さんが手を出すと、それは「しっぽ」を掴むんです。
「ほらほら〜」
「!!」
 途端にコンちゃん真っ赤っ赤。
 コンちゃんが腕を払うと、店長さんはひょいと避け。
「くくく……しっぽが弱点かわいい〜」
「ぬう……おぬし『セクハラ』というのを知らんのか!」
「コンちゃん人間じゃねー!」
「!!」
 また、コンちゃんの腕が払われます。
 店内に一瞬、風が吹きました。
 そして、窓の外で黄色い車が吹き飛んでいきます。
「!!」
「ふふ、車は飛んでいったぞ、どうする、移動販売できぬなぁ」
「コ、コンちゃん、なんて事を、もう怒った、出てけ!」
「くく……恩返しに『いてやってる』のに、なんという言い草!」
 コンちゃん、今度は店長さんの方に手を差し出して、何か握るような仕草。
 途端に苦しみ出す店長さん。
「人間風情が、しっぽを揉んだ罰じゃ!」
 コンちゃんの指が宙を揉み揉みすると、店長さん胸を押さえてうずくまり。
「どうだ、苦しいか、わらわをバカにするからじゃ」
「ぐぐぐ……」
 あわわ、店長さん死んじゃいそうです、なんとかしなきゃ!
「コンちゃんっ!」
「なんじゃ、ポン!」
「いなり寿司がありますよ!」
「な、なんじゃと!」
 コンちゃんの目、少女漫画みたい。
 とりあえずは、店長さん「呪」から解放されたみたい。
「はやくはやく!」
「……」
「い・な・り・ず・しっ!」
「ごめん、ウソ」
 コンちゃんの髪がヘビみたいにうねうねします。
 わたし、一目散に逃げちゃいました。

 夜……コンちゃんがスケスケな寝巻きで登場です。
「うむ、山の夜は寒い故、おぬしを暖めてやる」
 コンちゃんお風呂上りでいい匂いもします。
 わたしだって、負けてられません。
「店長さんは、わたしと一緒に寝るんです!」
「ふん、ポンみたいなお子さまより、わらわの方がいいに決まっておる」
 コンちゃん店長さんの左腕にしがみつき!
 わたしだって右腕にしがみついちゃいます!
illustration はづきゆう
「わたしが一緒に寝るんですっ!」
「ポン、邪魔するでない」
「コンちゃんさっき店長さん殺そうとしてたのに!」
「あれはじゃれていただけじゃ」
「神さまなんだから、神さまらしくすればいいんです!」
「うむ……では、わらわは今はキツネの襟巻きという事でよい」
「!!」
「おぬしにまとわり着いて、暖めてやろうぞ」
 コンちゃん、今度は店長さんの首に腕を回してます!
 わたしはコンちゃんのセクシーにはかなわないよ。
 あんなに胸が、大きかったらいいのにな。
 でもでも、店長さんは、わたしの良さ、わかってくれる……はず。
「コンちゃんポンちゃん……」
 うわ、店長さんなんだか怒ってます。
 わたし、一抜け。
 コンちゃんはまだしがみついてます。
「なんじゃ、また心臓マッサージして欲しいのか?」
 怒った店長さんと、子供みたいな笑顔のコンちゃんがにらみ合い。
 今度は店長さんが先に折れました。
「じゃ、コンちゃん、おいで」
「うむ、ここからはアダルトな世界じゃ、ポンは余所に……」
 コンちゃんが店長さんに抱きしめられます。
 いいなぁ、わたしも、一抜けしなきゃよかったかな。
 でもでも、見てるとコンちゃん、なんだか動かなくなりましたよ。
 ぐったりとしています。
 店長さん、そんな動かなくなったコンちゃんを布団に寝かせて、
「まったく、悪ふざけばっかりなんだから」
「店長さん、なにをしたんです?」
「うん? こう、ぎゅっと抱きしめたんだよ、思い切り、気を失うほどに」
「……」
「ポンちゃんも、してほしい?」
「そんなの嫌です」

 朝はコンちゃんの祠のお参りから始まります。
「あら、おはようさん」
「おはよう、おばあちゃん」
 声をかけてきたのは、お隣の豆腐屋さんのおばあちゃん。
 お隣といってもちょっと離れているんだけど。
「あんたが毎日、お稲荷さんを掃除してるかね?」
「えへへ、そうです」
「だから、あの店は繁盛してるんだねぇ」
「です!」
「でも、この祠もダムに沈んじゃうねぇ」
「!!」
「このお稲荷さまは、何でもかなり昔からあるらしいから、ご利益もすごいんだろうけど、
ダムに沈んだらどうなるんだろうねぇ」

 お店に帰るとコンちゃんがむすっとしてます。
「ただいま〜」
「遅い、腹が減ったぞ」
「コンちゃんコンちゃん」
「なんじゃ、ポン?」
「コンちゃんは、あのお稲荷さまなんだよね?」
「うむ、そうじゃ」
「祠がダムに沈んだら、コンちゃんはどうなっちゃうの?」
「それは、死んでしまうんじゃないのかの?」
「!!」
 コンちゃん平気な顔で言います!
「か、神さまなのに、死んじゃうの!」
「まぁ、死ぬときは死ぬかな」
 ダムが出来たら、コンちゃん死んじゃいます!


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