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■  ポンと村おこし  第1話「変身はっぱで恩返し」             ■
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 わたしはダヌキのポンちゃん。
 お、おなかが空きました。
 もう、一週間くらい何も食べていません。
 ここはとある山の中。
 最近はダムをつくるとか道路をつくるとか……人間がたくさんです。
 樹がなくなったりして、食べるモノがなくなって、本当におなかが鳴きっぱなし。
 美味しい匂いにつられて、匂いの方へ方へと歩いてきたけど、もう限界。
 足がとまって、うずくまって、もう、まぶたも重いですです。
 かすむ目の先には、黒い影が見えます。
 カラス……カラスです!
 ああ、もうわたしを食べるつもりで待ち構えているオーラがひしひしと伝わってきまし
た。
 ああ、タヌキに生まれて、楽しかったな。
 ああ、でも、おなかいっぱい食べたかった。
「死んでるのかな?」
 !!
 人の声です、でも、もう逃げられません。
 わたしは、狸汁になっちゃうんでしょうか?
「ほら、食べなよ、残り物だけど」
 すると、鼻先になにか美味しそうな匂いが!
 この匂いを辿っていたの、思い出しました。
「じゃあ、ね」
 そう言って人間は行っちゃいました。
 人間の置いていったのは「アンパン」「メロンパン」。
 カラスがやってくる前に、しっかりちゃんと、食べちゃいました。
 これは、もう恩返しするしかないです。
 でもでも、タヌキのわたしじゃ、狸汁になるくらいしか、出来ません。
 ふふふ……でも、わたしには必殺の「変身はっぱ」がありますっ!
 タヌキが頭にのせて変身するアレですよ。
 死んだお母さんから貰った伝説アイテム。
 早速変身!
 イメージを膨らませます!
 そしてジャンプ。
 宙返り決め!
 爆発。
 わたしの体が七色に光りながら、変身していきます。
 髪はショートで、服はとりあえずワンピ。
illustration はづきゆう
「ほ、本当に変身できた!」
 体を確かめてみると、しっかり人間の体みたいです。
 顔は見れないけど、触ってみた感じはばっちり。
「この体なら、ちゃんと恩返しできます!」

「村のパン屋」の看板が見えます。
 煙突からは煙がゆらゆらと出ていて、店の中ではさっきの人が右に左にと働いてます。
 恩返し……あの人が店長さんで、わたしがアルバイト。
 二人はいつしか、結ばれる運命。
 そうに決まってます、じゃなきゃ、パンを恵んでなんかくれるはずないです。
 もう、あのアンパンとメロンパンは、運命のきっかけ。
 わたし、思い切ってパン屋さんのドアを開けます。
「わたしはポンちゃん、恩返しに来ましたっ!」
「……」
「あ、あの……」
「いらっしゃい、何にしますか?」
「で、ですから恩返しに来ました」
「……」
「わたしは、さっきパンを恵んでもらったタヌキです」
「ふうん……さっきのタヌキ?」
「そうです、さっきのパンのおかげでカラスに食われないですみました、もう店長さんに
恩返しして一生尽くします」
「そりゃ、さっき道端のタヌキにパンはやったけどさ……」
「でしょ!」
「でも、どー見ても中坊くらいにしか……」
 店長さんは、なんだか信じられないといった顔です。
「信じられないな……バカにしてるの?」
「どうしたら……信じてもらえるんでしょう……メロンパンとアンパンの恩返し」
「見てたの?」
「もらいましたから」
「ふうん……さっきそれっぽい人はいなかったんだけど」
「信じてもらえましたか!」
 途端に店長さんの表情が硬くなりました。
 どうしたらいいんでしょう?
「適当な事言って潜り込もうってヤツかもしれない……なんて思われるとか、考えなかっ
たの?」
「わたしにそんな事言われても……恩返しの事しか考えてなかったし」
「それにタヌキが恩返しなんて、昔話じゃあるまいし」
「そんなぁ……どうしたら、信じてもらえるんです?」
 もうどうしていいか、泣きたい気分です。
 シュンとしてると、考えているみたいだった店長さんは、
「うん、でも、お客さんがいっぱい来たら、信じてあげられるかな」
「え!」
「ほら、売上良ければ、福の神だからね」
「じゃあ、恩返ししていいんですか!」
 店長さんはわたしの頬を撫でたりしながら、
「制服着てカウンターに立っててくれたらいいよ」
「わ、わたしはタヌキだから、大丈夫でしょうか?」
「パン焼きは終って売るだけだから、一緒にいるよ」
「そ、そうですか」
「じゃあ……ポンちゃんだっけ、パンを袋に詰めるだけでいいから」
「そ、それならできそうです〜」
「じゃ、仕事頑張ってな……もしも客がさっぱり来なかったら……」
「う……来なかったら?」
「タヌキだから、狸汁になってもらうしか」
「わ、わたし頑張ります!」
 命がけ……なのに店長さんは笑ってます。
 本当に本気で真剣なのにモウ!

 綺麗な制服を着せてもらいましたよ。
 メイドさんなんだって……うれしいな。
 お客さんはたくさん来ました。
 もう、わたしの知らないくらいたくさんです。
 お店は綺麗で、パンも沢山あったのに、お昼前には売り切れちゃいました。
「店長さん、完売です!」
「おお、ポンちゃんのおかげだ」
「やりました!」
「午後はお菓子とか、そんなのを出すから頼むよ」
「はーい!」
 わたしは、なんだかパン屋さんすごく楽しくなりました。
 恩返しで、店長さんに喜んでもらえればよかったんだけど……
 お客さんがにこにこしながらパンを持っていくの、嬉しいし……
「ポンちゃんは女だから、客受けいいみたいだしね」
「そうですか〜」
 なんだかんだで、夕方になるまでに、クッキーなんかも全部売れちゃいました。
「ポンちゃんのおかげだよ」
 そう言いながら、頭をなでなでしてくれます。
 嬉しくなって、思わず店長さんに抱きついちゃいました。

 そして、夜が来ました。
「じゃあ、ポンちゃんお疲れさま……帰っていいよ」
「店長さん、わたしはタヌキだから……ここに置いてください」
 そう、山に捨ててある雑誌で勉強してるんです。
 こーゆー時は、女の子・ポンちゃんはもう、捧げるしか!
 でも、狸汁なんかじゃなくて、もう、エッチ〜
 そう、山に捨ててある雑誌で、しっかり勉強してきたんです。
「店長さんっ!」
「……」
 でもでも、店長さんすごい嫌そうな顔。
 わたしは、お店のガラスに映った自分の姿、ちょっと見ます。
 イメージした通り、雑誌の女の子みたい。
 店長さんは、もしかしたら髪の長い娘の方が、よかったのかなぁ。
「わわわわたしは恩返ししないと、ダメなんです、だから!」
「だから?」
「もう、ポンちゃんを捧げます!」
 そう、こーゆー時、雑誌じゃ脱ぐんです、もう、わたし恥ずかしいけど、目をつぶって
脱ぎました!
 ゆっくり、震えながら、まぶたを開きます。
 店長さん、びっくりした顔、してます。
 じっと見つめられて、もう、顔がさっきから熱々。
 そんな店長さんが近寄ってきました。
「え!」
 ゆっくり、抱きしめてくれます。
 店長さんの手が、背中を撫でて……
 ゆっくりと、下りてきます……
 わわわわたしは初めてだから、ちょっとこわいかな!
 店長さんの手が、しっかりと握ってくるの、感じます。
「ポンちゃん……本当にタヌキだったんだね」
「え?」
 店長さんの手を感じます……感じるけど、お尻じゃないよ。
 雑誌だと、お尻を触ってたような……
 もふもふと触られるのを感じながら、店長さんの顔を見ました。
「俺、信じるよ、うん」
「て、店長さん!」
「しっぽ、出てるよ!」
 わたし、店長さんを押しのけて、しっぽを握りしめて店の隅で小さくなっちゃいました。
 なんだか、ちょっと違った恥ずかしさです〜!

 村の夜は静かです。
 お月さまが、パン屋さんを照らしています。
 わたしは店長さんのベットでお休み。
 店長さんは、
「女の子床に寝かせるのもね」
 だって……喜んでいいのかな。
 一緒にお休みでも、よかったのに……
 でも、さっきしっぽを言われたから……しっぽはなぜか隠せないし……恥ずかしいから、
一人がいいかな。
 もうちょっとしたら、一緒のお布団で眠れるといいかも。
 わたしはもう、どきどきしながら、寝ちゃって、もう一人の恩返しさんに気付きません
でした。
 朝までは……


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