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■  ポンと村おこし  第39話「ホレ薬の効果」               ■
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「おふろ、あがった〜」
 レッドがトテトテ歩きながらやってきます。
 お風呂上りでホコホコしてます。
 湯気たちまくり。
 わたしとミコちゃんでお菓子やジュースを持って行きます。
 シロちゃんとたまおちゃんもお風呂から出てきて、すぐに合流。
 みんなで寝る前にちょっと甘いのを食べたりするんです。
 リビングには店長さんやコンちゃんもいて、わたし達を待ってますね。
「はい、今日は羊羹で〜す」
 小豆や抹茶の羊羹です。
 見た感じも涼しげ、冷蔵庫で冷やしてあるの。
 すぐに手を出すのはレッド……でも、コンちゃんに叩かれて手を引っ込めます。
「こりゃ、レッド、手で取ってはいかん、楊枝を使わんか」
「は〜い」
 って、レッドも言われて楊枝を使うけど、小さいからなかなか難しいみたい。
 そんなレッドにはミコちゃんが取ってあげたりします。
 って、わたしがお茶をみんなの前にやろうとしたら、もう羊羹残りわずか!
「み、みんな食べるの早ーいっ!」
 むー、こうも家族が多くなると食べるのも弱肉強食・早い者勝ち。
 って、ミコちゃんが笑いながら、
「ポンちゃん台所で切ってる時、つまみ食いしてたわよね」
「う……ミコちゃんそれを言ったらだめだよ」
「太っちゃうわよ〜」
「そ、育ち盛りというんです」
 一瞬みんなににらまれるかと思ったけど、とりあえず大丈夫でした。
 羊羹……ついに最後に一個です。
 こう、最後の一個はちょっと手を出しにくいですね。
「さいごは、ぼくの」
 って、もうレッドのって決まってるみたい。
 楊枝で刺して持っていっちゃいました。

 そういえば、最後のはレッドのって暗黙の了解みたいなの、あるんです。
 いやいや、お昼のおやつで最後のを店長さんが食べちゃったら、その日一日レッドが落
ち込んじゃった事があるんですよ。
 この世の終わりみたいな感じの顔をするんです。

 お客さんもいないので、お店のテーブルでおやつを食べていると、カウベルがカラカラ
鳴りました。
 入ってきたのはレッドの手を引いた千代ちゃん。
「ポンちゃん、レッドを送ってきたよ」
「あ、千代ちゃん、いらっしゃい」
「ポンちゃん迎えに来ないんだ」
「うん、お店もあるし……それにわたしが行くと祟りがあるかも」
「祟りじゃなくて、女子プロでは?」
「う……言わないで……」
 わたし達が話している間、レッドはおやつをもらっています。
 そんなレッドを見ながら千代ちゃんが、
「なんだか私に懐いちゃって」
「ふーん、そうなんだ」
 って、レッドがメロンパンを二個持って来ました。
 一つを千代ちゃんに渡しますよ。
「ねぇねぇ、レッド」
「なに、ポン姉」
「レッドは千代ちゃんが好き?」
「すきすき〜」
「ほう、コンちゃんやミコちゃんと比べてどうですか」
「へんじに、こまります」
 って、言いながら千代ちゃん見てますよ。
 レッドのほっぺが赤くなっちゃって、かわいいもんです。
「では、千代ちゃんのどこが好きですか?」
 質問してるとコンちゃんやミコちゃんも集まって来ました。
 レッドは体をくねらせて、
「めがね、すてき」
 そ、そこですか……つくづく眼鏡スキーですね。
 って、コンちゃんが千代ちゃんに手を伸ばして眼鏡を取っちゃいます。
 そして自分で眼鏡をしてから、
「こりゃ、レッド、わらわが好きかの?」
「!!」
 レッド、眼鏡コンちゃんを見て固まっちゃいました。
 コンちゃん眼鏡をミコちゃんにバトンタッチ。
「はい、私はどうですか〜」
「は、はうっ!」
 眼鏡をしたミコちゃんを見て、レッド涙してます。
「かかかかみさま〜」
 感動してるんですね。
 千代ちゃんは眼鏡を返してもらうと、
「眼鏡がお気に入りなんだ……」
 つぶやきながら、ポケットからなにか出しましたよ。
 こ、これはっ!
 あの「ホレ薬」ですよっ!
 本当はヨーグルト味のお菓子なんだけど……
 一粒出すと、レッドに渡します。
 レッド、ちょっとクンクンしてから口に入れますよ。
 最初はちょっとすっぱい顔をして、でも、すぐに目を丸くして、
「ナニコレ、おいしー!」
 千代ちゃんも、自分で一つ食べます。
 そしてレッドに向かって、
「ねぇねぇ、レッド」
「なに、ちよちゃ」
「私はレッドが好き……レッドは?」
「すきすき〜、ちよちゃ、すき〜」
 って、レッド、千代ちゃんにキスしました。
 なんておませさんでしょう。
 注意する間もなくピョンピョン跳ねながら行っちゃいました。
 千代ちゃん、わたしを見てニコニコすると、
「ほら、このホレ薬、すごく効く」
「千代ちゃん、これ、ただのお菓子」
「だってレッドはキスした」
「子供だからですよ〜」
「ふーん、ポンちゃんは信じないんだ」
「う……だってただのお菓子……」
 千代ちゃん、四粒残ったのをわたしにくれて、帰っちゃいました。
 コンちゃんがそんなお菓子をわたしから奪って、
「千代とやら、なかなかやるのう」
「レッドが子供だからですよ〜」
「案外本当に薬かもしれん」
「ウソだ〜」
 コンちゃん、一粒食べちゃいました。
 お菓子はすぐにミコちゃんに渡って、
「このお菓子、おいしいのよね」
「おいしくても、ホレ薬じゃないって」
「私は信じま〜す」
「って、食べたいだけだよね?」
 ミコちゃん食べちゃいました。
 わたしも好きだから食べちゃいましょう。
「ねぇねぇ、ミコちゃん」
「なに、ポンちゃん?」
「ミコちゃんは誰に好きになって欲しいの?」
「店長さん」
「な、なんですと!」
「冗談よ、冗談、レッドに好きになって欲しいの」
「もう、充分すぎるほど懐いてるんじゃないのかな〜」
「そうかしら?」
 わたし、ちょっと考えてから、
「もっと好きになって欲しいなら、こんな薬よりも……」
「こんな薬よりも?」
「眼鏡の方がいいかもよ」
 あ、ミコちゃん真剣な顔で奥に行っちゃいました。
 わたしとコンちゃん、お昼の休憩&おやつの続きでテーブルへ。
 残った一粒を見ながら、
「このお菓子が本当にホレ薬だったらな〜」
「まぁ、わらわには必要ないがな」
「えー!」
「店長はわらわにぞっこんなのじゃ」
「でも、最近コンちゃんスケスケ寝巻きじゃないよ」
「!!」
「あれじゃないと、店長さんにアピール出来てないのでは?」
「むう、レッドがおるでのう、あの格好はもう出来ん」
 って、ミコちゃんと交代みたいに奥から店長さんが出てきます。
「あ……もうおやつ、全部食べちゃったんだ」
「店長さん遅いもん」
「普通俺の分、残しておかないかな〜、俺、ここの主なんだけど」
「レッドと千代ちゃんが来て食べちゃったから」
「まぁ、いいか……」
 って、店長さん、わたしの手から最後の一粒を奪います。
「あるじゃん、最後のもーらい」
 店長さん食べちゃいます。
 美味しそうに口の中で転がしています。
 わたし、コンちゃんに目で、
『て、店長さんがホレ薬食べましたよっ!』
『ポン、これはホレ薬ではない』
『わたし、まだ口の中に残ってるよ、告白しちゃおうかな〜』
『うむ、わらわも残っておる』
 って、コンちゃん急に神妙な顔になりました。
 わたしだって、もう、店長さん逃しません。
 さっき千代ちゃん、レッドとキスしてましたよ。
 もしかしたら、今日のは本当にホレ薬で効いてるかもしれないし。
 って、レッドがトテトテ歩いてやってきました。
 店長さんの手にあるお菓子のカラのを見て、呆然としてます。
「ててててんちょー!」
「あ、レッド、お帰り〜」
「そ、それは?」
「あ、これ、食べちゃった」
 店長さん、全部なくなったのをレッドに見せてから、お菓子を舌に乗せて出して見せま
す。
「最後の、いただき〜」
「そ、そんなー!」
「ふふふ……」
「さいごのは、ぼくのなのー!」
 お、レッド、店長さんにしがみつき。
 よじのぼってます。
 店長さんニコニコしてますが……
 ……って、いきなりキスですか!
 レッド、店長さんの口にキス!
 いや、なんていうか「吸い付く」感じ。
 あ、「スポン」って離れました。
 店長さん唖然としてます。
 レッド、舌をペロっと出して戦利品みせびらかし。
「さいごのは、ぼくのなの」
 店長さんから飛び降りると、行っちゃいました。
 わたし、コンちゃんを見ます。
 コンちゃん、自分の舌にお菓子を乗せてますよ。
 そのまま店長さんのところに行くと、
「ほれ、店長、わらわのをやろう、口移しで」
 うわ、なんて直球勝負!
 わたしだって、まだ残ってるんです!
「店長さん、わたしの方がおいしいですよ!」
「タヌキの唾まみれより、わらわの方がおいしくて楽しいぞ」
「わ、わたし『かわいいフラグ』立ってるんですっ!」
「どら焼き級のくせにっ!」
「わーん、コンちゃん言っちゃいけない事をーっ!」

 夜空には沢山の星。
 わたしとコンちゃん、並んでダンボールの中です。
「なぁ、ポン」
「なに、コンちゃん」
「店長はオクテなのかのう」
「違うと思うよ〜」
 ま、あのラブアタックのせいで、一緒にお外でお休みなんですね。
 って、コンちゃんどこからともなく、例のホレ薬を出します。
「ほれ、ポン、一つやろう」
「って、コンちゃんどこからそれを!」
「うん? これかの? これは村のお店に並んでおる」
「や、やっぱりお菓子なんだよね」
「確かにのう、お菓子よのう」
「おいしいけど」
 わたしとコンちゃん、一緒になって口の中で転がします。
「ね、コンちゃん」
「なんじゃ?」
「レッドを見てて思ったんだけど……」
「レッドを見て? なんじゃ?」
「こう、キスしようキスしようってのが、まずいんじゃないかと」
「ほう……」
「こう、なにか軽〜いきっかけで『チュッ』って感じで唇を奪うわけですよ」
「なるほどのう」
 いや、その夜は今までの「お外でお休み」と違って、コンちゃんと熱い討論ができたわ
けです。
illustration bonoramo
 店長さん、いつかきっと、キスしてもらいます。
 こ、コンちゃんに先を越されないように頑張らないとね。


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