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■  ポンと村おこし  第38話「レッド学校に行く」             ■
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 朝ごはんの準備をしていると、なにかにぶつかりましたよ。
 なんにもないはずなんだけど……って、レッドです。
「わ、レッド、どうしたんです」
「ぶつかった〜」
「ごめんごめん、ごはんもうちょっとしてからだから」
「らじゃー」
 行っちゃいました。
 って、今度はコンちゃんにぶつかって転びましたよ。
 さ、さらに店長さんにもぶつかりました。
 店長さんびっくりした顔でわたしの方に来て、
「いや、レッドにぶつかったよ」
「わたしもさっきぶつかりました」
「小さすぎて目に入らないから」
「ちょろちょろ動いていますね」
「ポンちゃんお店でぶつかった事とかない?」
「そ、それは……」
 思い返してみると、そんな事、ちょっとあったような気がします。
「ああ、確かにパンをひっくり返しそうになった事があったような」
「そうなんだ……」
 店長さん難しい顔で、
「ただでさえお客さん少ないのに、パンがダメになっても困るなぁ」
「でもでも、レッドは子供だから、じっとしていられませんよ」
「それはそうだね……」
 店長さんしばらくレッドを見て考えていましたが、思い出したように奥に引っ込んじゃ
います。
 戻ってきたら、真っ先にレッドのところに行ってなにかしてますよ。
 って、首に鈴をつけました。
illustration bonoramo
 レッドがトテトテ歩くと、チリチリ鳴ります。
 あの音がすれば、目に入らなくてもわかりますね。
 店長さんわたしのところにやってきて、
「でも、まぁ、学校に行ったら関係ないかな」
「店長さん、レッド、学校に行かせるんですか?」
「まぁ、あのくらいだと幼稚園なんだろうけど、村には学校しかないしね」
「そうなんですか……学校……」
 わたし、言いながら、山で読んでいた不法投棄を思い出します。
「店長さん、レッドを学校に通わせるんですか!」
「う、うん、だからこの間、村長さんにも来てもらったんだけど」
「あの熟女っ!」
「まだ言ってる……」
「あの時はレッドを見に来てたんですか?」
「うん……で、OKもらったんだ」
「レッド、大丈夫でしょうか?」
 って、もう店長さん行っちゃいました。
 最後のは聞いてなかったような気がするけど……
 本当にレッドを学校に通わせて大丈夫なのかなぁ……
 学校はイジメとかあるんですよ。
 レッドはしっぽがあるから、きっとイジメられちゃうんです。
 ああ、どんどん心配になってきちゃいました。
 レッド、本当に大丈夫かな?

「行って来ま〜す」
 わたしは配達。
「ま〜す」
 レッドも一緒です。
 学校に通う事になったんだけど、一人で通わせるとカラスに襲われるので、しばらくは
配達ついでに一緒に行く事になったんです。
 帰りは学校の子が一緒になって帰って来る……だって。
 わたしが給食で食べるパンを持って歩いている間、レッドはしっぽをつかまえて着いて
来ます。
「ねぇねぇ、レッド」
「なに、ポン姉〜」
「学校に行くの、こわくないんですか?」
「がっこうってなに〜」
「学校知らないんですね」
「ですね〜」
 ちらっと後ろを見たら、レッドはまったく解ってない様子。
 話したものか、考えちゃいますね。
 わたしの知識では、学校ではイジメとかあるんです。
 レッドはしっぽがあるから、余計にイジメられそうな気がするの。
 わたしは配達したら終わりだし、一応体も大きいからイジメられないけど……パンを配っ
ている時にしっぽを触られる事があるもん。
 まぁ、でも、わたしが不法投棄で読んだ雑誌みたいに、とんでもない感じじゃないです
ね。
 でもでも、わたし、しっぽを触られるの、嫌なんですよ。
 レッドはきっと、しっぽ触られまくりのはず。
 なんだか触りたくなるように、ピコピコよく動くんですよもう。
 あの赤いフサフサなしっぽは。
 って、あれこれ考えているうちに学校です。
「ポンちゃ〜ん」
 あ、あれは千代ちゃんの声。
 って、レッドがしっぽを痛いくらいににぎってきます。
「れ、レッド痛いよ!」
「あわわ……あわわ……」
 なんだか慌ててますね。
 って、千代ちゃん目の前までやって来て、
「あ、その子がレッドですね」
「うん、今日から学校に通うの」
「村長さんが朝来て説明してたから、知ってる、キツネさんなんでしょ」
「千代ちゃんよろしくね」
 わたし、おしりを振って、レッドを前に出します。
 レッド、わたしのしっぽを握ったまま、千代ちゃん見て固まってます。
 やっぱりイジメとか、心配してるのかも……
「はわわ……あのあの!」
「こんにちは、レッド」
「そ、そう、ぼく、レッド」
「わたしは千代でいいよ」
「ちよちゃ!」
 レッド、わたしのしっぽを放して千代ちゃんに抱きつきます。
 うわ、なんだかレッド、心配とか不安で慌てたわけじゃなさそう。
「レッド、どうしたんですか?」
「ちよちゃ、めがね、すてき」
 そうでした、千代ちゃんは眼鏡をしてます。
 レッド、本当に眼鏡フェチですね〜

「ひさしぶりに、静かになったわね」
 お客さんもはけちゃったので、お店でおやつです。
「ねぇ、ミコちゃん」
「なに、ポンちゃん」
「わたし、レッドが心配」
「……なんで?」
「レッドはキツネだから、きっとイジメられてるよ」
「そんな事、ないと思うんだけど……あの学校の雰囲気からして」
「いや、きっとしっぽを触られまくられて、泣いてます」
「そんな事、するかしら……私も配達に行くけど、そんな感じじゃ……」
「ミコちゃんは人間だから、しっぽがないからそんな事が言えるんです」
「……」
「わたし、たまにパンを配っててしっぽ触られるもん」
「そうなの……」
「ミコちゃんは心配じゃないの?」
「いや……考えもしなかったから」
 って、今まで黙っていたコンちゃんがお茶をすすりながら、
「ポン、おぬし、そんなに心配なら様子を見てきたらよいではないか」
「だ、だってお店もあるし」
 本当は行きたいくらいです。
 なんでみんな、平気な顔してるんでしょうか。
 イジメられてるかもしれないのに……
 店長さんが、
「ポンちゃん行きたい?」
「できたら、行きたい……」
「大丈夫とは思うけど……それなら……」
 店長さんがお店の窓をじっと見ています。
 駐車場が明るかったのが、急に暗くなりました。
 そしてすごい音をさせて雨が降り始めましたよ。
「ちょうどいい感じで雨が降ってきた」
「店長さん店長さん、雨が降ったらお客さんが……」
「いや……ポンちゃんお迎え行きたいんだよね」
「う……」
「レッド、傘持ってないから、お迎え行ってあげてよ」
 店長さんの命令です。
 わたし、すぐに傘を持って学校に行きました。

 って、学校に到着したら、雨上がっちゃいました。
 でも、せっかく店長さんが行っていいって言ったんだから行くんです。
 レッド、泣いてないといいけどな〜
 わたしが配達の時みたいに靴箱の所から入ろうとしていると、
「あれ、パン屋じゃねーか」
 声をかけてきたのは、担任の吉田先生。
 髭もじゃの先生なの。
「なんか用か?」
「雨が降っていたから、レッドを迎えに」
「雨なんて上がってるじゃねーか……ま、いいか」
「あのあの、先生」
「うん?」
「今日、レッド、イジメられてませんでした?」
「うーん、別にそんな感じじゃなかったけどなぁ〜」
「本当ですか? 学校はイジメを隠しますよ!」
「ここの子、田舎の子だから、そんな事しねーよ」
「だ、だってわたしもしっぽを触られる事が!」
「しっぽを触られるとイジメなの……なら触られてたかも……」
 ああ、吉田先生思い出しながら言います。
 わたし、一緒になって教室まで行きます。
 そして吉田先生と、そっと中を見ました。
 レッドの回りには人だかり。
 みんなしっぽを触りまくりです。
「ああっ! レッド、しっぽ触られてますよ」
「まぁ、珍しいから、触るだろうなぁ〜」
「な、泣いちゃうかも……」
「いや、それは……」
 吉田先生苦笑い。
 わたし、心配で見たら、レッドなんだか嬉しそう。
「あいつ、しっぽ触られえると喜んでるけど」
「えー!」
「パン屋はしっぽ触られたくないのか?」
「わたしは嫌!」
「そうか〜」
「先生、みんなにいイジメないように言ってくださいっ!」
「言わなくても……イジメたりしないと思うんだが」
「言ってくださいっ!」
 わたし、おもいきりにらみます。
 吉田先生、面倒くさそうな顔をしましたが、
「まぁ、そこまで言うなら、釘をさすけどさ……」
 そしてホームルーム。
 わたし、レッドの横に座って吉田先生がちゃんと言ってくれるのを監視。
 吉田先生うんざりした顔で、
「おら、今日から入った新入りの名前はなんだ!」
「レッドで〜す」
 先生のお言葉に、みんな元気にこたえます。
「レッドはパン屋の子供だ、わかるか〜」
「は〜い、しっぽあるも〜ん」
 みんな言ってから、大爆笑。
 わたしもついつい笑っちゃった。
 でも、はっきりイジメられないように言ってもらわないと心配です。
 吉田先生をしっかりにらんじゃいますよ。
「で、キツネだからってイジメるんじゃねーぞ!」
「は〜い」
「もしもレッドをイジメたら、どーなるかわかってるか〜」
 って、みんな静かになっちゃいました。
 やっぱり罰とかこわいのかも。
 吉田先生髭もじゃでこわそうな先生だもん。
「レッドはパン屋の子供で……あんたは母親か? 姉か?」
「わたし、お姉さんって設定です」
「じゃ、お姉さんは知ってるな〜」
「は〜い」
 吉田先生、黙っちゃいました。
 生徒のみんなも、きょとんとして先生を見つめています。
 そんな先生が、じっとわたしを見てます。
 なにかな?
「もしもレッドをイジメたら〜」
「イジメたら?」
「女子プロレスのお姉さんが、仕返しに来るからな〜」
 途端に生徒全員がわたしを注目します。
 ちょ、村祭りの神楽の事をまだ言いますか!
 って、生徒の中には泣き出す子もいますよ。
「あのお姉ちゃんこわい」とか「バリこわ」とか聞こえます。
 わ、わたしってそんなにこわかったの!
「だから、ぜったいイジメんじゃねーぞ」
「はいっ!」
 なんだか最後の返事、すごいキッチリはもってます。
 わたしを見つめるみんなの目は、尊敬だったり恐怖だったりするの、よーくわかりまし
た。
 なんだかすごく傷付きましたよ……とほほ〜


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NCP5(2009)
illustration bonoramo(Plastic Designer)
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