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■  ポンと村おこし  第36話「人魚姫」                  ■
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「コンちゃんコンちゃん!」
「なんじゃ、ポン」
 振り向くコンちゃん。
「な、なんじゃ、おぬしっ!」
 ふふふ、コンちゃんびっくりしてますよ。
 そう、なんたって今のわたしは人魚姫なんですから。
「どうです、似合ってます?」
「ど、どこからそんなものを引っ張り出して来たのじゃ!」
「この間の家捜しの時にたまたま」
「たまたま……おぬし、それを今さら引っ張り出してそれかの!」
「似合ってる?」
「こ、こいのぼりに食われておるだけじゃろうが」
「ち、ちがうもん、今のわたしは人魚姫」
「に、人魚姫……」
 そう、わたし、こいのぼりをはいている状態なんです。
「で、なんで人魚姫なのじゃ」
「それは人魚姫を読んだからです」
「……」
「子供の絵本はお店の本棚にたくさんありますから」
「それはたしかにたくさんあるが……どうしたものよのう」
「む……似合ってませんか?」
 コンちゃん、わたしを上から下まで見ています。
 難しい顔をして、
「ポン、おぬし、人魚姫はちゃんと読んだのであろうな」
「うん、子供の絵本だから、あっという間」
「ちゃんと読んだのかのう」
「読んだよ、これこれ」
「うむ、本を持っておるのかの、開いてみるのじゃ」
 最初のページを開きます。
 そう、人魚姫は王さまやおばあさま、お姉さん達と一緒に住んでいるんです。
「ほーれ、よく見るのじゃ」
「なになに?」
「人魚姫の格好はこうでなくてはのう」
「……」
 絵本の人魚姫は水着ですね。
 今のわたしはパジャマの上からこいのぼりなの。
「あー、それはちょっと」
「なんじゃ、ポン」
「わたしの水着はスクミズだけで、こんなのじゃ……」
「ふむ、では、どうじゃ」
 コンちゃんが指を鳴らしたら、わたしのパジャマの上、貝の水着になっちゃいます。
illustration bonoramo
「はわわ……なんかこっぱずかしい」
「人魚姫はこうでなくてはのう」
「う……まぁ、我慢します」
 でも、コンちゃんまだ難しい顔をしてます。
「どうしたの、コンちゃん?」
「いや……わらわはちょっと、後悔というか、すまないというか……」
「?」
「わらわが最初に『鶴の恩返』しや『舌切り雀』の事を言わねば……」
「言わねば?」
「ポンもここまで壊れていなかったであろうと思って……」
「壊れてないモン!」
「それに、人魚姫でどうするのじゃ」
「それは店長さんにアタックするわけですよ」
「はぁ?」
「わたしは人魚姫で、店長さんが王子さま」
「ふむ……運命的な出会いとか、もろもろあるのう」
「そうですよ」
「しかし、確か人魚姫は悲恋な話ではなかったかの」
 う、コンちゃん嫌な事言いますね。
 そうです、最後は結局結ばれないんですよ。
「コンちゃんわかってません」
「は?」
「人魚姫の失敗はどこにあったと思いますか!」
「さ、さぁ……どこかのう」
「この物語の教訓は『悪いヤツに頼みごとをしてはいけない』なの」
「ほう……」
「だから、王子さまを助けた時点でしっかり居座るわけですよ」
「ほ、ほう……で、どうするかの?」
「王子さまを助けたご褒美とくれば、やっぱり結婚するしかないわけですね」
「いきなりじゃの」
「大体ですね、この人魚姫の絵本を見てください、よーく」
「ふむ、絵本がどうしたのじゃ?」
「人魚姫、なかなかかわいいですよ、遠慮なんかしないで、正面突破で結婚強要しても、
きっと王子さまも嬉しいはず」
 あ、コンちゃん黙り込んじゃいました。
 まさかわたしが絵本の人魚姫に見劣りするとでも?
 まぁ、確かに人魚姫にはかなわないかもしれないけど、まずまずってもんでしょう。
 って、コンちゃん目がクリクリ動いてます。
 わたしが振り向いたら、店長さんが苦笑いして立ってました。
「なにやってるかと思ったら、人魚姫ごっこ?」
「!!」
 わ、わたし、貝の水着って思ったら耳まで真っ赤です。
 こ、ここまで来たら、勝負に出るしか!
「ててて店長さんっ!」
「こいのぼり、押し入れから引っ張り出して……」
「結婚してください!」
「は?」
「人魚姫は王子さまの命を救ったから、結婚するしかないんです!」
「は、話が変わってない?」
「絵本の教訓その二……運命は掴み取れ!」
「なんか話がぜんぜん変わっちゃわない?」
「いいから、命を救ったのに、結婚しないんですかっ!」
「人魚のままじゃ、一緒に暮らせないしなぁ〜」
 って、なにダンボールを準備してるんですか!
「悪い魔法使いっ!」
「うわ、なんじゃ、わらわが悪い魔法使いかの?」
「そーです、わたしに魔法をかけるんです」
「は……さっき教訓で『悪いヤツ』とか言っておらんかったかの?」
 余計な事、覚えてますね。
 別にコンちゃんに魔法をかけてもらったり、術をかけてもらう必要はないんです。
 はいているこいのぼりを脱いじゃえばいいんですよ。
「さぁ、店長さん、わたしは人間になりました、結婚して!」
「い、いつになく強気なポンちゃん……って、しゃべってるけど?」
「器の大きな魔法使いだったから、代償なんてなかったんです」
「はちゃめちゃだぁ〜」
「さぁ、人間になりましたよ、さっきの言葉はウソなんですかっ!」
 のってきました、今日は最後まで押し切れそうな予感。
「確か物語では人魚姫、妹っぽい位置付けじゃ……」
「がーん……」
 もう、これだけ無茶して押しまくっているのに、店長さんコレです。
 なんだか力が抜けちゃいました。
「店長さんはわたしが嫌いなんだ、クスン」
「……」
「わたし、泡になって消えちゃうんです、クスン」
「……」
「泡になって、ふわふわお空に飛んでいって、消えちゃうんです、クスン」
「これ、店長、いいかげんにポンの気持ちを汲んでやらんかの」
 お、めずらしくコンちゃんの援護射撃。
「これだけポンが芝居かかったプロポーズをしておるのに、女に恥をかかすつもりか?」
 す、すごい、コンちゃんが神さまに見えます。
「泡になるまえに、せめて食ってやるのじゃ」
 い、いきなりそーきますか!
 でも、まぁ、この際一気に大人な世界もいいかもしれません。
 えへへ、わたし、不法投棄な本で勉強しているから、なんだってOK。
 コールサインはエロポンなんです。
「わらわが準備してやるで、店長はそやつを抱えて来るのじゃ」
 コンちゃんサンキュー。
 わたしが店長さんと結ばれても、コンちゃんはお姉さんって事で一緒に住んでもいいよ。
 コンちゃんが指を鳴らす音。
 きっと大きなベットとか、出しているはず。
 い……いや、なにか大きな釜がグツグツいってます。
「ちょ、コンちゃん、その大きなのはなんですか!」
「見てわからんか、釜に決まっておろう」
 あ、コンちゃんポイポイ食材を釜の中に入れてます。
「ポンが泡になる前に、狸汁にして食ってしまうのじゃ」
 む、コンちゃん悪魔に見えます。
 食うってまさにその通りだったんですね。


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NCP5(2009)
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