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■  ポンと村おこし  第31話「赤毛のレッド登場です」           ■
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 祠のお掃除完了です。
 一度周囲を確認。
 そう、ここの祠のお供え物を狙うカラスがいるんです。
 いつもお掃除の間じゅう、わたしの後ろ、間合いをとって見守っているの。
 今日も二羽のカラスが並んでわたしを見上げています。
 しっぽをつついたらお供えナシって言いたいところですが、まぁ、最近はお行儀良く待
っているのでよしとしましょう。
 で、お供え物をセットして退避。
 店長さんが笑いながら、
「カラス、気になるの?」
「子供の頃、追っ掛けられた事があるんです」
 店長さんと一緒にお店に戻ろう…したら、なんだかカラスの鳴き声がすごいです。
 びっくりして振り向いたら、小さいなにかと戦ってるみたい。
「ててて店長さん、なんだかすごい事になってます」
「う、うん、そうだね」
 店長さんもカラスとなにかの戦いにびっくりしているみたい。
 なにか……最初はよくわからなかったんです。
 祠の影に隠れていて、よく見えなかったからなんですが、ちらちらと赤いなにかが見え
隠れ……赤い……赤い毛のキツネさんです。仔キツネさん。
 赤毛の仔キツネ、お供え物のアンパンをくわえてます。
 でも、まだ子供だから、このままじゃカラスの朝ごはんになっちゃうよ。
「て、店長さん助けてあげましょう!」
「えー」
「なにが『えー』ですか!」
「だ、だって、また居候が増えるかも」
「でも、店先でカラスに食べられちゃったら、祟りがあるかもしれませんよ」
「もう充分すぎるくらい、うちには取り憑いていると思うけど」
「いいから、助けるんですっ!」
 わたし、猛然とダッシュ。
 とりあえずカラスを追い払います。
 もう人間になったから、カラスなんてへっちゃらなの。
 カラスが行っちゃって、ポツンとわたしと仔キツネだけ。
「ほら、早く行かないと、カラスの朝ごはんになっちゃいますよ」
 仔キツネはじっとわたしを見上げて、そしてトテトテ歩きながらわたしを一周。
 さっきはわたしの顔を見ていたけど、今はわたしのしっぽをガン見です。
 それからコクリと挨拶して、茂みの中に行っちゃいました。
 む、背後からカラスの羽音。
 空襲警報が心の中でカンカン鳴ってます。
 でも、振り向いたら店長さんがいました。
 おかげでカラス警報は止みましたよ。
「よかったね、ポンちゃん」
「ふふふ、かわいらしい仔キツネさんでした、助けてよかったです」
「じゃなくてさ」
「?」
「爆発して人間になってたら……」
「は?」
「ポンちゃん出て行ってもらうからね」
「えー!」

 次の日の朝。
 祠掃除は大変でした。
 先日アンパンを仔キツネに持っていかれたカラスさん。
 そして昨日はパンが完売だったから、今日のお供えはないわけです。
 そーなると、不満が爆発してわたしのしっぽをつついてくるの。
 わ、わたしのしっぽをつついても、出ない物は出ないんです!
 コンちゃん助けてくれればいいのに、花壇に水やり、それもわたしの悲劇を見てニヤニ
ヤしてるんです。
「コンちゃんひどーい」
「なにがじゃ」
「助けてくれるのが、神さまの仕事ですよ」
「おぬしがここでは先輩ゆえ、わらわが手助けするまでもなかろうと」
「ウソばっかり」
 そう、お供え物がない時は、その日はナシかと言うと、本当はそうではありません。
 お店に並べるヤツから一つ出すんです。
 開店して、ちょっとしてから、祠にお供え物をセット。
 いつもと時間が違うから、カラスさんも待っていたりしません。
 きっとどこかで朝ごはんしてるんでしょう。
 何事もなく、お店の一日が始まって、また、ゆっくりとした時間が流れ……
 ……って思っていたら、遅ればせでやってきたカラスがギャーギャー鳴いています。
 わたし、また仔キツネって思ってスクランブル。
 打ち出の小槌を持って行くのがいいか、それともアンパンを持って行くのとどっちがい
いか迷いましたが、そんなの一瞬です。
 選んだのは「アンパン」。
「お、ポン、なにをアンパンを持っておる」
「また、カラスとなにかが戦ってるんです」
「うむ、さっきからギャーギャー言っておるのう」
「昨日仔キツネがいたから、今日もそうかもしれません」
「そうかの……ふーん」
「なんですか、コンちゃん、『ふーん』って」
「売り物のアンパンを勝手に持っていってよいものかのう」
「いいんです」
 コンちゃん助けてくれる事なさそだし、仔キツネがやられちゃうと困るから急ぎましょ
う。
「コラー!」
 わたし、大声で突撃。
 でも、今日はカラスさんも引きません、きっとお腹空いてるんでしょう。
 そこでアンパンをシュート!
 カラスはそれにつられて行っちゃいました。
「ふう……」
 わたしが一息ついて祠を見ると……
 あー、やっぱり、赤いしっぽがヒラヒラしてます。
「もう、ここのアンパンはカラスが狙っているから、注意し……」
 祠から見えていたのは赤いしっぽ。
 隠れていた体が、祠の影から出てきます。
 わたしの予想では、昨日の赤毛の仔キツネのはずでした。
 でも、そこに現れたのは男の子、人間の格好をした男の子。
「う……わ……」
 男の子はアンパンを大事そうに持って出て来ると、昨日もそうしたように、わたしを一
周し、さらに後ろに回りました。
 ひゃっ!
 しっぽをつかまれました。
「ななな、なにをするんですかっ!」
「しっぽ!」
「は、放してくださいっ!」
「や!」
「『や!』じゃないでしょ!」
「ぜったい、や!」
 赤いしっぽの男の子。
 右手にアンパン。
 左手にわたしのしっぽ。
「お母さんの所に帰ってくださいっ!」
「きょうからタヌキさんがおかあさん」
「は?」
「おかあさん」
 しっぽを握るのが強くなりました。
 わたし、怒った顔でにらみます。
 でも、男の子も引きません。
 痛いくらいにしっぽをにぎってきます。
「わたしはタヌキで、あなたのお母さんじゃありませんっ!」
「いまからおかあさん」
「えー!」
 なんだか子供相手じゃ、話が通じない感じです。
 ヘルプって思ってお店を見たら、コンちゃんばかりか店長さんも見ています。
 コンちゃんは笑っているんだけど……
 店長さん明らかに怒ってます……
「いたーい!」
 声に目を戻したら、カラスが男の子のしっぽをつついています。
 もう、怒られるのわかっているけど、男の子を抱えて帰還。
 ドアを入る時、視線がすごく痛かったですよ。

 店長さんへの字口です。
「ポンちゃん、ついにやっちゃったね」
「うう……」
 コンちゃんすごく嬉しそう。
「あーあ、ついにポンも出て行くのかのう」
「うう……」
 男の子はあいからわらず、わたしのしっぽつかんでいます。
 いつの間にかアンパンは食べちゃってて、両手でしっかりがっしり。
 嫌なんだけど……なんだかもう、どーでもいい気分です、しっぽの方は。
 店長さんしゃがみこんでから、
「名前は?」
 男の子、しっぽをにぎったままトテトテ出てくると、
「こんにちは〜」
「こんにちは……名前は?」
「レッド」
「レッド……」
「けのいろが、あかいからレッド」
「ふーん……どこから来たの?」
「すてられちゃったの」
 今の言葉に、わたし達「ずーん」って感じ。
 レッド、またわたしの後ろに隠れてしまいます。
illustration bonoramo
 もう、わたし、出て行かないといけないから、隠れても無駄ですよ。
「アンパンごちそうさまでした」
「……」
「おいしかったです」
「……」
 店長さんとコンちゃん、じっとレッドを見てから、黙り込んじゃいました。
 二人して、目でなにか意見交換しているようです。
「店長さん、どーしました?」
「いや、レッドなかなか良い子みたいだな〜って」
「じゃ、わたし、出て行かないでいい?」
「それはそれ、これはこれ」
「むー!」
 コンちゃん一度引っ込んで、わたしのワンピなんか持って出てきました。
 そーゆー所は抜け目がないんですね。
「さて、ポンは出て行くか、さらばじゃ」
「コンちゃん本気で追い出すつもり?」
「だってほら……」
 コンちゃんしゃがみこんでレッドに、
「これ、レッドとやら、このタヌキは母親なんじゃろう?」
「うん、きょうからおかあさん」
 コンちゃん立ち上がって店長さんの腕にしがみつくと、
「ほれ、店長、レッドはああ言っておる」
「?」
「あのエロポン、よそで子供をこさえておったのじゃ」
「!」
「タヌキのくせに、キツネの仔を産むとは淫らなヤツじゃ」
「なんでそーなるんですかっ! わたしなにもやってなーいっ!」
 途端にわたしとコンちゃんに店長さんのゲンコツです。
 店長さん腕組みして渋い顔。
「ともかく、しょうがないから今日はいいけど……」
 ゴクリ……
「ポンちゃんの行き先を考えておかないとね」
 わーん、わたし、どーなっちゃうんでしょう?


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NCP5(2009)
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