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■  ポンと村おこし  第28話「指名はミコちゃん」             ■
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 カウベルが鳴って入ってきたのはたまおちゃん。
「こんにちは〜」
「たまおちゃん、いらっしゃ〜い」
「注文の品は、出来てますか?」
 たまおちゃんの注文はどら焼きです。
 それも店長さんお手製の方なんだよ。
「ねぇ、たまおちゃんが全部食べちゃうの?」
 注文してあったのは十個。
 たまおちゃん微笑みながら、
「いや、神社に来る人に買ってもらうんです」
「え……」
「最近、パン屋さんもお客さん増えてませんか?」
「え……」
 よーく思い出してみましょう。
 確かに、ちょっとは増えたような気がします。
 お客さんがゼロって事はなくなったような気がしますね。
「そうですね……」
「女性客が増えたんじゃないですか?」
「まぁ、前から女のお客さんが多いような気はするけど」
 そう、パン屋さんはおしゃれだから、女のお客さんが多いかな。
 一応ちょっとはテレビで紹介されたのもあるから……って思ってたんだけど、
「神社にお参りに来る人が増えたから、こっちに寄る人も増えたはずです」
「え……なんで神社に来る人が増えたの?」
「ヌシのおかげです、白ナマズは美肌になれるそーです」
「そーです……って、たまおちゃん知らないの?」
「ヌシはこの間来たばっかりだから、本当はそんなの、ないと……」
 パン工房から店長さんがやってきました。
「はい、注文のどら焼き、袋に詰めてあるから」
「店長さん店長さん、この間のヌシの事なんですけど、伝説って言ってませんでしたっけ
?」
 わたしが確保の日を思い出しながら言うと、
「うん、伝説あるよ」
「え……でも、神社ってこの間の噴火で移動したんですよね?」
「うん……でも、神社のお祭りで提灯作る時にナマズの絵を描くんだ」
「ふえ……なんで?」
「昔、なにかあったからなんだけど……」
「なんだけど?」
「でも、それは美肌とは関係なかったような……」
 ヌシ伝説、そのうちしっかり調べないとダメですね。
 たまおちゃん、十個のどら焼きをじっと見ていたけど、
「あの、店長さん……」
「なに、たまおちゃん?」
「配達してもらう事は出来ないんですか?」
「うん……別にいいけど……学校や老人ホームにも配達してるからついでに」
 と、たまおちゃん立ち上がって店長さんの手をしっかと握りました。
 ま、まさかたまおちゃんも店長さんが好きとか!
 そんなたまおちゃんの眼鏡が妖しく輝きながら、
「配達……お姉さま……ミコお姉さまにお願いします!」
 あ、なんだ、ミコちゃんを指名するんだ。
 なんでだろ?
「ミコお姉さま、私に神事を教えるとか言って、全然ですから!」
 なるほど、ミコちゃんいつも家で忙しそうで、神社に行ってるのを見た事、確かにない
ですね。
「ミコお姉さま、私の事、どう思っているのかしら……」
 ブツブツ言いながら、たまおちゃん今日の分は持って行っちゃいました。
「店長さん店長さん!」
「なに、ポンちゃん?」
「ミコちゃんを配達に行かせるんですか?」
「さぁ、ねぇ……」
 店長さん言いながら、パン工房に引っ込んじゃいました。
 ちょっとたまおちゃんの「お姉さま」ってのが気になるけど、ミコちゃんが神社に行く
余裕なんてあるのかな?

 今日は例のどら焼きを作るのをお手伝い。
 神社で売るのはどら焼きにナマズの絵を焼き付けるから、それをわたしがやりました。
 きれいに焼き付けるのは、結構大変です。
 出来たどら焼きをミコちゃんが一つ一つ袋に詰めていきます。
「ねぇ、ミコちゃん」
「なに、ポンちゃん」
「これ、神社に持って行く分だよね」
「そうね」
「ミコちゃん配達に行くの?」
「え? 聞いてないけど……私は老人ホームに配達だけど……」
 ミコちゃんちょっと考える顔になって、
「神社……ちょっと方向が違うのよね」
「そうだね、うん」
「ポンちゃん行ってくれない?」
「でも、お店は……」
 そう、今、実はお店の時間なんです。
 でも、お客もいないから、コンちゃんにおまかせ状態。
 しかしコンちゃんがレジに立ってるって訳じゃないですよ。
 テーブルでいつも通り、ぼんやりしているんです。
 わたしとミコちゃんお互いを見合ってから、
「コンちゃんきっと、面倒くさがる……」
 はもっちゃいました。
 まぁ、神社に行って帰って来るくらいなら、あっという間ですね。
 わたし、どら焼きを持って早速出発です。

 階段を上りきった所に神社があるんです。
 久しぶりですね、神楽の時以来でしょうか。
 ここの池にはヌシがいるんです。
 美肌になるそーですが、わたしとしては、胸を大きくしてくれるご利益の方がうれしい
ですね。
 わたしが行った時は誰も参拝には来ていませんでした。
 一通り見て回りましたが、たまおちゃんは社務所にいるようです。
「たまおちゃ〜ん、来たよ〜」
 奥からドタバタと足音がしてきます。
「お姉さま〜」
 廊下をドリフトしながら現れたたまおちゃん。
 最初はすごい嬉しそうな顔をしてたんだけど、わたしを見た途端、表情が固まっちゃい
ました。
「たまおちゃん、どら焼き持って来たよ」
「な、なんでポンちゃん……」
「わたししか配達に出られなくって……」
「わ、私はミコお姉さまって指名したはずです!」
「ミコちゃん忙しいんだよ〜」
 わたし、どら焼きを置いて微笑みます。
 でも、たまおちゃん、なんかすごいダークなオーラを放ってますよ。
「お姉さまを指名したんですっ!」
「お姉さまって……だからミコちゃん忙しいから……」
「だったらせめてコンお姉さまにしてくれればいいのに」
「コンちゃん面倒くさがって動かないよ」
 ああ、見る見るダークサイドに呑まれていくのがわかります。
 もう、たまおちゃんはあっちの世界に行っちゃったようです。
 うー、お祓い棒を構えてます。
「ちょ、たまおちゃん、なにをするつもりです?」
「私、ポンちゃんを指名してなかったのに!」
「だ、だってわたしくらいしか人いなかったから」
「ポンちゃんがいなければ、ミコお姉さまかコンお姉さまが来るしか」
「え……」
 ああ、今日のお祓い棒、いつもよりずっと強そうに見えます。
 あの攻撃をよける得物、わたしは持ってません。
 最初に会った時はフランスパンなんてあったんだけど、今日はそれこそたまおちゃんの
ホーム。
 つまりわたしはアウェーなわけです。
「ポンちゃんがいなければ……」
 ああ、もう、どうするかわかってるんです。
 わたしをお祓い棒の錆にでもするつもりなんでしょう。
「ちぇすとー!」
 来ました、お払い棒アタック。
 わたし、ささっとよけ。
 たまおちゃん、今度は横に払います。
 わたしだって、さらに横に、そして社務所に上がりこんじゃう。
「ポンちゃんさえいなければ〜」
「たまおちゃん、今日は本気ですね……」
「ポンちゃんさえいなければ〜」
「うう……」
 なんだかこっちの声さえ聞こえていない感じ。
「ちぇすとー!」
 もう、逃げるばっかりです。
 建物の中を走りまくり。
 たまおちゃんは巫女さんルックだけど、自分の家だけあって機動力が落ちることはない
です。
 これはマズイ……あのお祓い棒の餌食になったら痛そう。
 逃げながら、押し入れを開けました。
 ともかくそこにあるものを投げます。
「えいっ!」
 しまってあった服なんかをポイポイ投げます。
 たまおちゃんお祓い棒で払って防御。
 大物がありました。
 投げてみると「こいのぼり」。
 たまおちゃんのお祓い棒に当ってからまりました。
 もたついてますよ。
 今が反撃のチャンス。
 押し入れの奥には、ちょうど得物になりそうな物がありました。
 なんだかトンカチみたいなものです。
 でもでも、トンカチにしては、ちょっと形が変かな。
「ちぇすとー!」
 ああ、からまっていた「こいのぼり」解かれたみたい。
 来ます、強烈な一撃が!
 わたし、そのトンカチみたいなのでともかく防御。
「え!」
 たまおちゃん、まさかの防御にびっくりしてます。
 この間のフランスパンの時だってそうでした。
 たまおちゃんの予想外だったみたい。
「もらったーっ!」
 お祓い棒を押し返し、そしてトンカチみたいなのを振ります。
 いや、トンカチみたいなの、結構大きいとは思うんだけど、すごく軽いの。
 わたしでも簡単に振り回せます。
 トンカチ、見事にたまおちゃんの頭にヒット。
 ★三つのダメージ、撃墜です!
illustration bonoramo



 お店のテーブルでたまおちゃんが手当てを受けています。
 わたしは店長さんと一緒にレジから見守りながら、
「……そんな感じです」
 レジにはちょうど、得物のトンカチみたいなの。
「襲われて、打ち出の小槌で撃退したと……」
「そうです、たまおちゃんわたしが配達に行ったのが気にいらないみたいで……」
 今のたまおちゃんは、やられたはずなのにすごく幸せそうなんです。
 ミコちゃんに手当てされていて、コンちゃんに話しかけられていますよ。
 神社でミコちゃんとかコンちゃんとか言ってたもんなぁ。
「ちょ……店長さんっ!」
「なに、ポンちゃん?」
「ま、まさかわたし、今夜ダンボールで寝るとか!」
「こ、今回は正当防衛という事で、いいんじゃないかな」
 わたし、打ち出の小槌を持って、
「じゃぁ、これは!」
 店長さん、打ち出の小槌を触ったりしながら、
「ポンちゃん貰ってていいんじゃない」
「ど、どうして?」
「また、たまおちゃんに襲われた時、得物がないと困るだろ」
「……また、わたしが配達なんですか〜」
 わたしがぼやいたら、聞こえたのかたまおちゃん立ち上がって、
「て、店長さんっ!」
「なに、たまおちゃん」
「代金、倍払いますから、配達はポンちゃん以外で!」
 む……たまおちゃんわたしが嫌いなんでしょうか?
 ショックですよ。
 え、違うんですか?
 なんで? なんで!


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NCP5+(2009)
illustration bonoramo(Plastic Designer)
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